サクヤ
ガオォォッ‼
秘密結社ザナドゥの怪獣型ロボット【機甲獣】──その1機、機甲虎が本物の虎そっくりの咆哮を上げる。もう1機の機甲獣、機甲牛も──
ンモォォッ‼
2機はその所有者、ザナドゥの大首領、石仮面サガルマータが乗るアーク【グレナディーン】と共に国立科学博物館の中庭で、3つの外への通路をその前に立って塞いでいた。
中庭の中央に置かれた博物館の収蔵物、組織に因縁あるアーク【ブルーム試作1号機】を守る民間警備用アーク【アイルルス】3機の、操縦士らを逃がさず殺めるために。
「|…………………《お願いだ! 目を覚まして‼》」
だから3機の民間機が石仮面機へと殺到した時も、出口を塞ぐ役割のため機甲獣2機はそこを動かなかった。
しかし今、石仮面機は新たに現れた怪盗忍者が搭乗する鳥人型アーク【ミルヴァス】と交戦状態となり、戦場を空へと移して、この場を離れた。
石仮面機が塞いでいた通路が空いて、民間機の3人はそこから脱出が可能となった。それを見逃す2機ではない。ここに来て、ついに動きだした。
「……………」
3人はまだ中庭に留まっている。石仮面機に乗機を破壊された1人が、1号機に乗りかえたが一向に動かないからだ。
当然だ、博物館に寄贈された際、燃料や弾薬は全て抜かれて、蓄電池もとっくにカラになっているのだろうから。
先刻よりパイロットの叫びが1号機の中から装甲越しに虚しく響いている。2機の機甲獣の内、機甲虎はそちらへ向かった。
「|………………………《僕と一緒に戦ってくれ! ブルーム‼》」
バッ‼ ──機甲虎が跳躍、その牙が1号機へ迫る。2年前、茨城県の工場でこの1号機が自らの同型機を倒した。その復讐が果たされようとした、その時。
1号機の両目が光った。
1号機の頭部、人間の顔では両目の位置にあるためそう見えるヘッドライトに火が灯った! 同時に1号機の両手が閃き背中の鞘に納まった巨大な刀の柄を掴む!
ズダァァァァン‼
牙が1号機に届く寸前、機甲虎の背に鋭利な鉄塊──1号機の刀が叩きつけられた! そして機甲虎の体をザックリ斬りさき、深々と食いこむ‼
ガ……ガガ……ッ
すると機甲虎は2年前の同型機もそうしたように自らの部品に使われる組織の技術を秘するため全身に仕込んだ爆薬に点火。
自爆した。
¶
〔大太刀〕とは日本刀の内、標準的な〔太刀〕より長いもの。
石仮面機の総長264㎝の刀は持ち手が全高380㎝もあるために普通の太刀に見えるが、実際は戦国武将・山中 幸盛が振るい、のちに現在の愛媛県・大山祇神社に奉納した【石州 大太刀】を元に作られた複製品。
一方、ブルーム試作1号機の刀は全高380㎝の巨人が持っても大太刀に見える。総長354㎝、宮崎県・都萬神社に奉納された【都萬の大太刀】を元に作られた複製品。
こちらは元から奉納用に作られた。
生身の人間に扱える代物ではない。
が、アークなら扱える。
その身は長いだけでなく〔細身の曲刀〕という日本刀の通例に反して幅広い。それゆえ簡単に折れる心配もなく、叩きつければ超重量が切断力に変換される。
重すぎて取りまわしが悪いが、当たりさえすればアークよりも大きい機甲虎すら斬れると今、証明された。
この巨刀を1号機が持つわけは……
手足やバックパックなどの部品を換装することで、その性能と姿を多様に変化させる汎用アーク【ブルーム】──その形態には陸上自衛隊に売りこむため開発されたものがある。
『要らない』とフラれたが。
それは陸上自衛隊のエンブレムである【桜刀】──桜の花・日の丸・雉の翼・日本刀とその鞘から構成される──を体現する機体。
その形態は──
標準体型で腕部に鉤縄ロケットアンカー、脚部に電動ローラースケートを内蔵した緑色のブルーム【龍牙草】形態の手持ち武装以外の本体。
その背中にバックパックを装着。
バックパックの左右には一対の、雉の翼を模した機械仕掛けの翼を生やす。翼は淡紅色で桜の花冠を表して、緑色の本体が萼を表している。
バックパックの左右、翼の付根に主武装を吊る。右には日の丸=太陽光線をイメージした長砲身のレーザー砲を砲口を下にして垂らし、左には鞘に納まった刀を切先を下にして垂らす。
そして、この刀は。
桜に縁ある実在の大太刀のレプリカが良いとなり、白羽の矢が立ったのが都萬の大太刀だった。
都萬の大太刀と桜の縁とは、その奉納先の都萬神社の御祭神が【木花開耶姫命】──桜を象徴する女神であること。
そうした次第で。
現代の刀鍛冶の匠の技と、最先端科学技術の粋を集め、外見は本物そっくりに──本物の錆びた部分は再現せず銀色に輝く──中身はより頑丈に鍛えられた都萬の大太刀のレプリカ。
その一振りが、その形態の運用試験のため、その形態へと換装されたブルーム試作1号機の背中に納まった。
1号機はその姿でいる時に試作機の役目を終え、その姿のまま国立科学博物館に寄贈された。その姿、その形態、その名は。
【ブルーム桜花】
¶
ドガァァァァン‼
ブルーム試作1号機に【複製・都萬の大太刀】で斬られるや、機甲虎は爆発し、その衝撃が1号機と中のパイロットを襲った。
そのパイロット。
『男の子だけどコノハナサクヤ姫のように美しいし、サクヤは男の名前にも使える』と考えた両親にそう命名されて、その名のとおり美少女と見紛われる美少年に成長した現在12歳の──
立花 咲也は。
停止していた1号機が己の叫びに応えて覚醒したら、点灯した正面モニターにこちらへ襲いくる機甲虎の姿が広がり。
即座に機体を操縦して機甲虎を斬りふせるや、左右のペダルを踏んで1号機の両足に地面を踏んばらせた。
そうすることで機甲虎の爆発の衝撃を受けても1号機は転倒を免れたが、それでも激しく揺れ、中の咲也も揺さぶられた。
「ぐッ! ああああああ‼」
2年前、今回と同じように1号機で機甲虎を倒してその爆発に飲まれた時には意識を失ったが。今回は来ると分かっていたので全身に力を込めることで耐えられた。
コンソールに表示された機体損壊度も軽微。
2年前に機甲虎の残骸を調べた技術者によると、これは機体の機密部品消去のため内側へ向けられた爆発のため、外側に漏れたその一部にアークを破壊するほどの力はないそうだ。
そして爆炎が晴れる。
視界が回復したモニターに映ったのは、もう1機いた機甲獣、機甲牛に襲われている、1機の民間機の姿だった。
ンモォォッ‼
ガシャァッ‼
機甲牛が民間機に突進し、ひらりと回避されて勢い余って壁に激突した。民間機が機甲牛を手玉に取っているように見えるが、民間機には機甲牛を仕留められる武器がない!
一方的に攻撃され続ければ、いずれ回避に失敗するやも。あの巨体に激突されたら衝撃だけでもパイロットが──
咲也は両ペダルを限界まで踏んだまま両レバーを前に出した。全速前進、体勢を立てなおそうとしている機甲牛へ1号機を突撃させる!
「貫け! ブルーム‼」
ズガァッ‼ ──1号機の大太刀の切先が疾走の勢いを乗せて機甲牛の横腹に突き刺さり──ドガァァァァン‼ 機甲牛もまたその身を爆散させた。
分厚い大太刀は2度の爆発にさらされても無事だ。念のため、機甲牛に襲われていた民間機の無事も確かめようとそちらを──
「あっ」
モニター上で民間機を囲む、丸い枠状の敵味方識別マーカーが不明を示す黄色だった。咲也には味方と分かっても1号機には分からないのだ。
そして咲也にも、それに乗っているのが六花か小兎子かまでは分からなかった。
さっきまで自分が乗っていた民間機のモニター上では味方機の傍には搭乗者名のアイコンが表示されていたが、1号機のデータにはこの民間機らが登録されていないから、それがなくて。
同じ姿の2機の見分けがつかない。
トン──モニターで機体の映っている場所を指で軽く叩くと、横に〔僚機/敵機〕と選択肢が。僚機=味方機のほうをタップ、枠マーカーが味方を示す緑色に変化。
プルル……
すると、その機体から通信がかかってきた。メインモニターに表示された受話器アイコンをタップして、通信を開く。
『助かったわ咲也、アリガト♡』
「小兎子……どういたしまして」
僚機に登録してもパイロットが誰かまでは分からなかったが、その声を聞いてやっと小兎子だと分かった。ということは、もう1機が六花機か──そちらも僚機に登録。
『リッカくん、じっとしてて』
「六花?」
『抜けちゃったから、入れなおすね』
「あ……ああ! ありがとう六花!」
『どういたしまして♡』
六花機が1号機の背後まで来て、その手で自らの腰の後ろからコードを引きだし、その先端のプラグを1号機のバックパックにあるコンセントに挿入する。
ぶすっ
1号機のコンソールパネル内の、残りわずかな電池残量計に〔充電中〕の表示がついた。六花機の蓄電池から流入した電気が1号機の蓄電池に充填されている。
全てのアークはその蓄電池に機内の発電機からだけではなく、外部の電源からも充電できるようになっており、機体のどこかに充電プラグを挿すコンセントがある。
そしてアークの中には他のアークへと自らの電力を譲渡できる機種がある。警官機と民間機もそうで、アイルの尻尾に相当する位置に他のアークへ充電するコードを収納している。
(ああああああ!)
さっき1号機が起動したのは今のように六花が充電してくれたからで。機甲牛を倒しに六花機から離れてプラグが抜けて充電が中断されたので、六花は追ってきて再開してくれている。
(はははははははは恥ずかしい‼)
自分の想いが奇跡を起こし、動くはずのない1号機を動かした──なんて思っていたのが死ぬほど恥ずかしい‼
(……でも)
なにかがストンと、胸に落ちた。
これでよかったと、そう思えた。
「小兎子」
『ん?』
「小兎子が総帥を頼ろうと思いついて、知恵で総帥を感心させて説得してくれて、ここに潜りこめたから。最終的にこうして僕はまた1号機に乗れた。ありがとう、大好きだよ」
『な、なに突然……アタシも、大好き、よ』
「六花」
『うん』
「六花がすぐ充電してくれたから1号機は再起動して、僕はまたコイツと戦うことができた。ありがとう、大好きだ」
『リッカくん……わたしも大好き♡」
2年前は奇跡的に1号機に乗れて、戦って、勝利して、まるでロボットアニメの主人公のようになれた。
先日テロリストに人質にされた時は、アークに乗りさえすれば自力で打開できると、都合よくアークに乗れる展開を祈ったが、奇跡は2度も起こらなかった。
前者は運が良かった。
後者は運が悪かった。
それだけ。
だけど今回こうなれたのは、運も良かったが、それが全てじゃなかった。奇跡なんかじゃない、そんなたまたま都合よくいっただけの幸運じゃない。
3人の意志と、行動の、結果。
胸が熱くなる……2年前に1号機に、初めて本物のロボットに乗った時のように熱狂はしないのに、むしろあの時より充実していて、それでいて落ちついている。
ワァァァァァッ……
ギャァァァァッ……
中庭の外から聞こえてくる喧噪はやんでいない。向こうにまだ秘密結社の戦力がいる。上空では結社の長、石仮面が怪盗忍者と戦っている。
中庭の壁に切りとられた空に漂う煙。ここもそうだが、周りも火災になっている。2年前の、あの茨城の工場のように。
この修羅場から抜けださねば。
六花と小兎子、愛する2人と。
電池残量計の表示がグングン上がっていく。近年の充電技術の進歩は目覚ましく、アークに積まれている大容量の蓄電池でも、1・2分で満タンになる。もうすぐだ、その前に話しておこう。
「2人は蓄電池、平気?」
『わたしのアイルちゃんは平気だよ。ブルームに電気あげても、自分の分は発電機から補充できる。燃料いっぱい残ってるから』
『アタシはそれこそ蓄電池も燃料もまだまだ余裕よ』
「よし。じゃあ、これからのことだけど」
『『うん』』
「秘密結社の機体の性能は、アイルルスとは桁違いだ。その上、敵はアイルルスを倒せるけど、アイルルスは武器がなくって敵を倒せない」
『『うん……』』
「だから、その機体で戦うのは無理だ。2人は敵に遭遇したら、交戦をさけて、全力で逃げて。僕はそれを援護する」
『リッカくん……』
『咲也は戦うの?』
「ブルームは実戦用だし、武器もあるから。でも無茶はしない。あくまでも3人で生きのびるのが最優先だ。ただ安全を確保するために、向かってくる奴はやっつける。それだけだよ」
『分かったわ、それならOK』
『気をつけてね、リッカくん』
充電完了、1号機からコードが抜けた。
「行こう‼」
『『了解‼』』




