亡き妻を想う
かつて二人で歩いた公園を、一人になった私が回る。
スポーツが得意とは言えなかったが、二人とも体を動かすことは好きだった。だから休みの日には、色々な自然公園に出かけて、のんびりと散歩を楽しんでいた。
特に妻は水辺の散策を好んでおり、大きな池のあるこの公園は、お気に入りスポットの一つ。今日のような秋晴れの日には、ここを歩きながら、輝かしい笑顔を浮かべていた。
「見て! あの青い花!」
北側の遊歩道にはリンドウの植え込みがあり、今くらいの時期になると毎年、青みがかった紫色の花を咲かせる。初めて見つけた時、彼女は無邪気な子供のように駆け寄って、こう言ったのだ。
「ねえ、リンドウの花言葉って、知ってる? 『正義』とか『誠実』とか、そんな意味なんですって! なんだか、あなたにぴったりね!」
お天道様に照らされた下で、改めて言われるにしては、少し照れ臭い言葉だったかもしれない。だが私には、間違ったことはしないという自負があったし、彼女以外に愛を向けることはないという自信もあった。だから微笑みを浮かべて頷いたのを、今でも覚えている。
そんな彼女も、今は亡く……。
「今年もリンドウが花開いてるよ、愛美」
青い花に目を向けながら、まるで傍らに彼女がいるかのように、私は妻への言葉を口にした。
最近になって知ったのだが、リンドウには『正義』や『誠実』以外にも、いくつかの花言葉があるという。その中に一つ、印象的なものが含まれていた。
青紫の花色が悲哀を連想させることに由来して……。
「リンドウの花言葉は、『悲しんでいるあなたを愛す』……。今ここにいたら、ちょうど愛美も、そう言ってくれるのだろうね」
天国から私を見守る彼女に、想いを馳せると。
このリンドウの花の前では無理する必要もなく、正直に悲しむことが許されるのだ、という気持ちになるのだった。
(「亡き妻を想う」完)