表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編】現代ドラマ短編シリーズ

亡き妻を想う

作者: 烏川 ハル

   

 かつて二人で歩いた公園を、一人になった私が回る。

 スポーツが得意とは言えなかったが、二人とも体を動かすことは好きだった。だから休みの日には、色々な自然公園に出かけて、のんびりと散歩を楽しんでいた。

 特に妻は水辺の散策を好んでおり、大きな池のあるこの公園は、お気に入りスポットの一つ。今日のような秋晴れの日には、ここを歩きながら、輝かしい笑顔を浮かべていた。

「見て! あの青い花!」

 北側の遊歩道にはリンドウの植え込みがあり、今くらいの時期になると毎年、青みがかった紫色の花を咲かせる。初めて見つけた時、彼女は無邪気な子供のように駆け寄って、こう言ったのだ。

「ねえ、リンドウの花言葉って、知ってる? 『正義』とか『誠実』とか、そんな意味なんですって! なんだか、あなたにぴったりね!」

 お天道様に照らされた下で、改めて言われるにしては、少し照れ臭い言葉だったかもしれない。だが私には、間違ったことはしないという自負があったし、彼女以外に愛を向けることはないという自信もあった。だから微笑みを浮かべて頷いたのを、今でも覚えている。

 そんな彼女も、今は亡く……。

「今年もリンドウが花開いてるよ、愛美まなみ

 青い花に目を向けながら、まるでかたわらに彼女がいるかのように、私は妻への言葉を口にした。

 最近になって知ったのだが、リンドウには『正義』や『誠実』以外にも、いくつかの花言葉があるという。その中に一つ、印象的なものが含まれていた。

 青紫の花色が悲哀を連想させることに由来して……。

「リンドウの花言葉は、『悲しんでいるあなたを愛す』……。今ここにいたら、ちょうど愛美も、そう言ってくれるのだろうね」

 天国から私を見守る彼女に、想いを馳せると。

 このリンドウの花の前では無理する必要もなく、正直に悲しむことが許されるのだ、という気持ちになるのだった。




(「亡き妻を想う」完)

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ