ep7 - 街へ帰還!
あれからどれくらい経ったのだろう……?
あの日エリザと宿の前で待ち合わせて、朝早く出発してから何年経ったのだろうか……?
随分経ったように思う。
あの日以来、ふと考える。
もし、エリザと約束なんてしなかったら……。
何も言わずにあのまま彼女を帰らせていたら……。
そもそも地下水道の奥で死に間際だった小柄な女の子を助けず、みんなあそこでくたばっていた方が良かったのかもしれない。と、ずーっとそんなことを考えていた。
それ程までに、悪魔バージョンのエリザが残酷で冷徹な存在だった。
あれは、この世に存在してはならない。
もう、何とかラスを討伐するために戦っている場合じゃない。
敵は他だ。
見たことも会ったこともないけど、確実な確信をもって言える。悪魔バージョンのエリザの方が恐ろしいと……。
トロールの地下ダンジョンに行き、そこで地獄の様な特訓を受けた俺とギタノは、何年ぶりであろうリーカンの町へ帰ってきていた。
「全身が痛えぇぇ……。ああ……お日様。何年ぶりにお日様の日光を浴びるのだろうか……。気持ちいいな。生きてると実感させてくれる」
「同感だ。もう二度と地上に帰って来れないと思っていた」
「はぁー何を言ってるのあなた達は……。大袈裟すぎよ。もっとしっかりしなさい。町を出てからまだ一日しか経ってないわよ……」
え……?
そんなはずは……。
「大体あのダンジョンを一周するのに一日掛るとか、どれだけ戦闘音痴なのよ……。駆け出しの者でも一時間あれば攻略できる超初心者用のダンジョンだよ、あそこは……」
エリザは呆れた表情で俺とギタノの間に肩を並べて歩いている。彼女からは一切の疲れが窺えない。何年も前に出発した日と全く変わらない余裕を張っている。
俺とギタノはもう完全に老けた老人の様に、ロクにすら歩けない状態だ。
「だーから!まだ一日しか経ってないの!また口に出して言ってるわよ?いい加減その癖直してね!」
「ごめんごめん」
隣を歩く彼女は俺を見ながら怒りっぽく言う。
可愛い……。
ちなみに……呆れていてやや怒り気味だけど、今のエリザは天使バージョンだ。
ダンジョンを後にした途端に、人が変わったように性格が一変かした。俺が思うには、彼女が悪魔バージョンに一変かするには、何らかのスイッチがある。
そのスイッチが何なのかを見つけ出して、二度と入らないように封印しておかなければならない。
全世界の命が掛っているのだ。
しかし、今の俺には荷が重すぎる。
この地方を支配している何とかラスなら今にでも相手に出来るけど、悪魔バージョンのエリザとなると、もう少し強くなってからの方が良い。
決して彼女が怖くて後回しにしてるわけじゃないよ?
勝算を考えて行動しているのみだ。
自分の弱点と限界を知らずに調子に乗って戦うのは愚か者だけだ。強者はいつもより己を磨き、より勝利に近づくために強くあろうとする。
この俺みたいに……。
「寝みぃ……。宿に戻って寝よう」
「俺もそうしよう」
「あー待って待って!その前にこれ!先に全部売って頂戴。お金は二人だけで分けていいからね。あたしは今日利用したポーションや食料品を買い備えるからまた後でね!」
そう言いながら、エリザは俺に枝の塊の様な茶色い玉が大量に入った袋を手渡して、その場から足早に去っていった。
竜巻の様な女の子だな。
一日中寝ないで俺達を罵倒し続けたというのに、何故あんなに元気なのかが知りたい。
「結構あるな」
俺とギタノは渡された袋の中身を同時に覗くと、お互いに顔を合わせて、
『いくらになるんだろう!?』
と期待丸出しの声で尋ねた。