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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
6/20

ep6 - モンスターよりエリザが怖い凡骨ナイト!

 エリザが連れてもらったのは、町からそんなに離れていないとある木の中の地下洞窟だった。


 木の中の地下洞窟。


 それはそのまんまの意味だ。


 街からあまり離れていないとある森の隅っこの方に、大きな巨樹がある。その巨樹の正面には洞窟の入り口みたいな大きな穴がぽかりと開いており、それは下深くまで続いていた。


 こういう地下洞窟はこの地方じゃ多く存在するとエリザが教えてくれた。普通ならロープなどを利用して下りるそうだけど、今回は彼女が『レビテイト』という魔法で俺らを浮かび上がらせて下まで下ろしてくれた。


 向こうの地方でロープを利用する修行を散々してきた俺は実力を試したかったけど、これはこれで悪くはない。


 ちなみにこの魔法はどのクラスでも習得可能らしい。他にも全クラスに習得可能な魔法が色々存在するそうだ。

 エリザが丁度今利用している『ラックス』という自分の周囲を照らしてくれる魔法も、どのクラスも取得可能だ。

 習得するにはすべての国に滞在している名クラスの師匠まで行かなければならない。後でギタノと一緒に行こう。


 うふふ、俺にでも魔法が使えるのか……楽しみだ。


「痛ってえぇぇ……!?」

「こら!集中するの!これは命懸けの戦いだと認識しなければ死ぬわよ!」


 背後でエリザが強面で怒声を上げる。


「ど、どうなっている!?て、天使が悪魔に変身したぞ、ギタノ!」

「俺も驚いている。彼女にそんな側面が……ほうっ!!」


 ギタノは話しながらも俺を攻撃しまくっている敵を刀で斬りかかった。


「誰が悪魔だって!?死にたいの!?今すぐあんた達をここに置き去りにしてもいいのよ!」

「ひいぃぃすみませぇぇんっ!置き去りにしないでください!死にますマジで死んでしまいます!お願いします!」


 俺は謝りながらも必死に敵の重たい攻撃を木製の盾でブロックしていた。


「ぐわっ!?」

「ギタノっ!?」


 ギタノに斬られた敵は一瞬だけ彼の方に向けて一発攻撃を食らわすと、すぐさま俺に攻撃を集中し戻した。


「ギタノも注意する!攻撃されたモンスターは気まぐれに攻撃先を変えるからいつでも防げるように注意しなければならない!一瞬の不注意いが死に追いやるのよ!」


 背後からまたエリザの罵声が飛んでくる。

 ミスをする度に怒られる。これがもう一時間以上容赦なく続いている。


 帰りたい……。

 平和な向こうの地方に帰りたい……。

 なんとかラスのブロックなんてどうでもよくなってきた……。

 自分の命を大事にしないとね。


 うん。


 命は大事だ。

 大事にしましょう。

 毎日この様なモンスターやもっと恐ろしい悪魔とかと戦うなんて、無理だ。無理無理。

 無理生だよ。


 俺とギタノがエリザに連れて来られたダンジョンは、樹洞ってこともあり、全体が淡い茶色い木材で覆われている、トロールの住処だ。この地方では色んな種類のトロールが生存しているらしいけど、二つに簡単に分けられる。


 一つは、古代モンスターで山の大きさを誇る超巨人型トロールだ。

 二つは、ここみたいな地下ダンジョンに生存する人型トロール。


 こいつらは人並みより一回り小さく、体形は木や土で出来上がっている。まるで葉っぱのない生きた枯れ木だ。頭部は幹に似た形で、目と鼻は節穴が二つあるだけで生きているのか死んでいるのかがわからない。口はいつも開いており、歯は鋭い枝っぽくて噛まれたら跡形もなくちぎられそうだ。


 すごく強暴で力強くて恐ろしい見た目のモンスターだ。

 ただ、攻撃パターンが単純すぎる。

 この人型トロールはひたすら木と土の太い腕で殴りかかってくるのと、時々噛んでくるだけだ。あと、鳴き声がうるさい。


「ゴロッォオオオオオォォォォオッ!!」


 完全に枯れた老人みたいな声。

 耳にぎこちなく響いてきて、ギシッとわずかに痛む。


「ダグザ!何その情けなさは!ただガードしているだけでは話にならないわ!前衛クラスであるナイトは格好つけるために剣を握っているんじゃないわよ!ブロッカーも敵の攻撃を防ぎながら攻撃を仕掛けないとただの役立たずよ!!クズ!あんたはクズそのものよ!!」


 ひ、ひでえぇ……!

 怖えぇぇ……!


「役立たずなのは認めるけど……悔いながら仕方なく認めてやるけど!クズは関係ないよな!?クズは……!って、てて、っていうかもう一匹来る!何これ!?無理無理無理無理無理いいぃぃぃ!!販促じゃない!?た、た助けて!エリザ様助けてええええぇぇええ!」

「あいつは俺が防ぐ!」


 俺がブロックしているトロールを攻撃していたギタノは、壁から掘り出て前方に接近してくるトロールを足止めしてくれた。彼も、ひたすら攻めてくるトロールの攻撃をひたすら刀で防いでいるだけだった。


「ナイス!ギタノ!」

「ナイスじゃないわよっ!!あんたらバカなの!?脳みそ腐ってんのか!?バカよね!?バカバカでしょうね!?おバカさん二人よ!!クズおバカさん二人だ!!二人共トロールをブロックしてどうするつもりなの!?そいつらと仲良く遊ぶつもり!?」


 背後からまたとんでもなく甲高いエリザの罵声が飛んできた。今度は殺気の気配まで感じるんだけど!?この強暴なトロールより背後のエリザの方が怖いんだけど!!背後から魔法撃ち込まれそうなんだけど!!

 いつもの小柄な天使は一体どうなったっていうんだ!?


「できれば仲良くなってお茶でもしたい!」

「冗談ぬかすなあっ!!そのまま置いて行くぞこのクズ役立たずナイトが!!」

「ひいぃぃぃっ!?勘弁してください!そんなことしないでください!この情けないクズ役立たずナイトを助けてくださいいいぃぃぃ!どうかお願いします、エリザ様ああぁぁぁあ!!」


 この期に及んでプライドとかそんなもんはどうでもいい。

 微かなプライド?

 ふん、誰が言ったんだそんなことは……!

 死にたくない!

 怪我したくない!

 痛いのは嫌だ!

 今思えば当たり前のことだ!

 助けてくれるなら喜んで土下座して指まで舐めてあげるぞ!


 うわっ、俺きっもっ!

 自分で言うのもなんだけど俺の本音マジキモイわ……。

 今ちょっと内心落ち込んでしまった。


「ディバイン・ブラスター!」

「ゴロッ!?ゴォォォォ……」


 その場に屈んで必死に盾でトロールから身を守っていたら、急に周囲を完全に照らすほどの激しい光線が背後から繰り出された。光線は俺を襲っていたトロールにぶち当たり、身を包むと、そのまま空間から消え失せった。

 まるで、成仏でもしたかのように、跡形もなく消え失せてしまった。


 怖えええぇぇぇぇえええっ!!


 今のが俺に当たったりしていたら俺も消え失せていたのだろうか……?

 背後をちらっと横目で窺う。


 やや離れた所で、エリザが超不機嫌そうな表情で立ったまま杖を握って、こちらを鋭く睨んでいる。


 ひぃぃ怖えぇー。


 この悪魔バージョンのエリザに比べれば、もはやトロールなんて可愛い可愛いモンスターだよ……。


「ダグザ!」


 あ、そうだった……。

 少しの前の方に、ギタノがまだ必死にトロールの攻撃を刀で防いでいた。


「おおおおおおオオオッリャアッ!!」


 盾を前に出して勢い良く突っ込んで、思い切りトロールに体当たりを食らわせた。重たいトロールの物体に勝てるわけがないので、俺はそのまま後ろへ弾き飛ばされてしまった。しかし、わずかだけどトロールの体勢を崩すことに成功した。


 負けたけど勝った。

 そういう意味だ。

 なぜなら、


「これで終わりだ。ふうんっ!」


 その隙に、ギタノが刀を構え直して、滑らかに右斜め下に線をなぞるような刀振りをして見せたからだ。


 トロールは一瞬立ち止まって固着すると、斜めに全身を斬られて地面に倒れた。体内から枝の塊のような小さな玉が転がり落ちると、ギタノはそれを刀で刺した。

 トロールを完全に仕留めるには、胸のど真ん中にあるその玉を壊さなければならないらしい。


 地面に倒れた物体はそのまま灰となって溶けてしまった。

 そして、壊したその玉の欠片を町で売れるらしい。職人が中身からエネルギーを収取し、それが案外お金になるって……ここに来る途中に天使バージョンのエリザが教えてくれた。


 ああ……。

 天使バージョンのエリザよ……。

 もう我らの元に戻ってこないのだろうか……。

 愛しい……。


「ぐわあっ!?」

「全部口に出してんだよっ!このクズ臆病役立たずバカナイトが!!」


 突然、顔面にドロップキックを食らった。


「また悪口増えてやがるし……あ、痛い、痛い痛い痛い痛い!?やめてください!マジで痛い!勘弁してくれ、エリザ様もう蹴らないでください!バカだけどドMじゃないんで!」


 彼女のドロップキックを顔面に食らって倒れた俺を、彼女はそのまま強く踏み続けてくる。


 あ……パンティーが……見えん。


 ち、畜生!

 ローブが長すぎて膝までしか見えん。

 無念だ。


「だから聞こえてんだよ!クズ臆病役立たず変態バカナイトが!!」

「ぐおぉぉ!?」


 今度は思い切り腹を蹴られて、吐きそうになった。


「ダグザの悪い癖だ。許してやってく……ぐっふぉ!?」

「あんたもだよっ!このクズ役立たずイケメンバカナイトが!!」


 近寄ってきたギタノに、エリザは杖で顎に攻撃を食らわせた。

 高身長の彼は後ろに倒れた。


 それよりなんでギタノにはサービスでイケメンが付いているんだ!?

 確かに、イケメン、だけど……。


「はぁー……。やっぱだめだこいつら、この地方で生き延びれない典型的な例だわ……」


 蹲って倒れている俺とギタノを見下ろして、エリザは肩を落としながらがっかりした嘆息を吐いた。


「諦めたか……。俺もギブアップする。諦めたなら帰ろう」

「ふっ、ふふふふ……」

「ど、どうした?」


 ギタノが振り向いて、倒れたままで不思議そうにエリザを見上げた。

 俺も恐る恐る彼女の表情を窺う。


「フフフフフフフ……何言ってるの?諦めた?バカね……。あたしが納得いくまで休まずに戦い続けるに決まってるでしょうがっ!!」


 地下ダンジョン内に俺とギタノの呻き声が轟いた。


 俺はこの時、理解した。


 ここは、まさに、地獄だ。

 そして、魔王は何とかラスなんかじゃない。


 可愛い小柄な天使に化けた、悪魔バージョンのエリザだと……。

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