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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
18/20

ep18 - 凡骨ナイトは落ち着かない!

「ぐぇぇぇぇぇ……ぁぁぁぁぁ……気持ち悪……」


 あの後……ミミズの山に埋もれた後、俺は平然と気楽に戻ってきたギタノとソフィアに気持ち悪がられながらも助けられ、無理を言って何とか町で入浴することができ……今に去る。


 我々のホームになった――ソフィアの家に帰り、今は嘔吐用のバケツを隣に置いて床で寝転がっている。


 人生で今までにない程に体をごしごしと洗い、今まで以上に長く入浴したのに関わらず、今でもミミズが体に纏わりついている感覚がある。

 体のどの部分にもミミズが蠢いている感じがして、その度に吐いてしまう。


「いい加減に吐くのをやめてください。もうミミズはありません。というよりなんで家に入ってきているのですか?許可した覚えはないです!吐きすぎて臭いです!出てってください!」


 ソファーに寝転んでいるソフィアが、死にそうにしている俺に構いなく厳しい発言をしてくる。


「うぇぇ……悲しいこと、言わないでくれ……この家はもう……ぐぇぇぇぇぇぇ……この家はもうパーティ全員のものだ……それに、俺は、リーダーだ……」


 その理屈で行くなら許可する権利があるのは俺だけだ。

 リーダーとして酷い目に遭ったのだ。


「ダグザ、薬を買ってきたぞ。これを飲め!吐き気に良いとシャーマンのおばさんが言っていた」


 俺のために薬を買いに出かけていたギタノが突然にドアを開けて家に入ってきた。


「シャーマン……?」


 信用できるかそれ……?

 シャーマンと言えば奇妙な魔法や呪いを操るクラスじゃなかったっけ……?

 その薬、治すより逆効果になるんじゃあ……?


「早く飲むんだ!お前もう乾燥しているぞ!」

「いや、ギタノ……ちょ、ちょっとまっ……!?」


 無理矢理喉の奥まで葉っぱの塊の様な謎の何かを入れられた。それは意外と大きくて喉に詰まったけど、すぐにギタノが水の入ったコップを手渡してきた。


「お、お前!少しは躊躇しろよ!毒かもしれないじゃないか!もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ!?」


 水を飲み干して葉っぱの塊を飲み込むと床から起き上がった。


「その調子だと薬は効いたみたいですね。シャーマンは非常に珍しいクラスです。この町には一人しかいません。シャーマンのおばちゃんと言えばここでは有名な人です。後うるさいから静かにしてください!」


 ソファーに寝ころんだままこっちから背を向けて、ソフィアはうんざりした口調で説明する。


「あ、本当だ……。もう良くなった……。おおっ!?なんだこれ……!良いね!力が……!力漲ってくるぞ!」


 自分の手を見ながら試すように何度も握り絞める。

 これはいい。

 まさか、この世にこんな薬があるとは……。


「ダグザ、大丈夫なのか?」

「これまでにないほどに大丈夫だ。うん、気持ち悪くもないし、ミミズの感覚も完全に消えた。これはまるで……そう……新しく生まれ変わったようだぜ!」

「ぷふっ!生まれ変わるって……ぷっふふふふ……生まれ変わる……?生まれ変わっていません!生まれ変わっていませんよ!いつもの惨めなダグザです!ぷっふふふふ……笑わせないでください!また弱っちいいモンスターを狩りにでも行けば、ダグザはいつもの様に見っともなくやられるか情けなく逃げ回るだけでしょう!!」


 居間の中央で立ったまま新しく生まれ変わった自分を感じ取っていたら、ソファーで背を向けて寝転んでいるソフィアが突然に体を震えだして笑い始めた。


「バカかお前!俺はワームのボスモンスターを打ち取り、ミミズの呪いを乗り越え、一線を乗り越えたんだ!前の俺とじゃあ比べ物にならない!何なら今すぐに狩りに行こうじゃないか!」

「馬鹿は人を馬鹿と呼ぶ馬鹿ダグザの方が馬鹿ですー!!良いですよ!!行きましょう!今すぐ行きましょう!!ダグザはきっちりとブロッカーを務めてください!もしもモンスターにやられるか逃げる様な事があれば、私に土下座して自分は最弱の惨めな人間だと認めてください!」


 バカがいつも以上に気に障ったソフィアは、凄まじい勢いで起き上がってソファーの上に立つと、俺を強く指さして睨みながら勝負を申し込んできた。


 フッ……。


「良いだろう!受けて立ってやろうじゃないか!その代わり!俺がちゃんとブロッカーを務めれば、ソフィアは土下座して俺の足を舐めるがいい!」

「なっ、ななな、なっ、ななっ、な……舐める……っ!?」


 俺もソフィアを指さし返して勝負を勝利した時の請求を要求すると、彼女は自信なげな不安な表情を見せながら口ごもり始めた。


「ダ、ダグザ……それは流石に……」

「いいや!俺は命懸けで挑んでいるんだ!ソフィアもそのくらいの覚悟じゃないと勝負にならねぇ!これはプライドとプライドの掛け合いだ!」


 呆れた様子で間に入ろうとしてギタノを遮って、俺はさらにソフィアに圧力をかける。


「いっ、いいいいっ……いっいいでしょう……っ!う、うう、う受けて立ちますよ!!しかし狩りに行くモンスターを選ぶのは私です!!」


 唇と指を激しく震えながらもなんとか受けて立つと宣言したソフィアは、何かを良い作戦でも思い付いた風に悪意のある笑みを浮かべた。


「お、おお、おい……つ、つ、強いモンスターは、き、禁止だからな!?お、俺達の……いや……お、俺の、じ、実力と見合ったモンスターだからな……!?」


 その笑みの裏にある考えが何なのかを即座に理解した俺は、彼女と同様に手が震えだして口ごもり始めた。


「大丈夫です!安心してください!強力なモンスターは選ばないですよ?ダグザ見たいに馬鹿ではないのですから……。私も死にたくありませんからね……。このパーティが狩れるモンスターを選びます。まぁさほどないのですけどね……」


 安心と余裕を取り戻したソフィアは冷静になり、なめた口調で言いながら両手を上げてひらひらと振って見せた。


 ちっ……バカにしやがって……。


 まぁ、俺達が狩れるモンスターなら大丈夫だ。

 余裕余裕……。

 今度こそこの俺の実力を見せてやる。


「俺はあまり二人のその勝負には賛成ではないが……二人を止めても無駄だろう……。だったらパーティの一員と仲間として最後まで見届けるのが俺の責任だ。それで、何を狩りに行くんだ?」


 俺とソフィアの口論と勝負の争いを黙って見つめていたギタノは、そんなことを言いながらもまた狩りに行くのが楽しみらしく、わくわくしている様子でソフィアに尋ねた。


「そうですね……。前回の狩りで嫌な思いをしたのでもう虫系のモンスターは禁止です。後はここからあまり遠くない狩場がいいでしょう……。その上でダグザが死んでも後衛の私が逃げられる足の遅いモンスターを選ぶのでしたら……」

「おい今何って言った!?」

「え……?なんでもないですよ?ダグザが死なないためにも身動きの遅いモンスターを選ぶって言ったのです!」


 この小娘が最後の方だけ小さく呟いた言葉がそんなんじゃないと思うけど……まぁ良いだろう。


 ソフィアは咳払いをして話を続けた。


「それらの条件を視野に入れてモンスターを探すとなれば、あのモンスターしかないですね。ここから北に進んだ場所にあるちゅくゆの森です」

『ちゆくの森?』


 俺もギタノも同時に首を傾げて間抜けな声で尋ねた。


「ちゅくゆの森です!緑色で小柄の人型モンスターが潜んでいる森ですよ」

「なんだ、ちゅゆくの森か……」

「いや、ちくゆではないのか……?」

「ちゅくゆ!ちゅくゆです!変な名前ですけどそんなに難しくないですよ!」

「しゅくゆだな」

「しゅくゆか!」

「ちゅくゆですーっ!ちゅくゆの森ですーっ!!子供ですかあなた達はっ!?簡単な名前も発言出来ない子供ですかっ!?」

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