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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
17/20

ep17 - ワームのボス討伐!

「痛っ!痛い!やめ、うがぁっ……やめろって!殴るな!ああっ!ふ、踏むんじゃない!や、やめて……!怖いから矢で突かないで!痛い痛い痛い!!貫く!矢がお腹を貫く!助けただろう!?もう助けただろう!」


 すっごい怒り顔で俺を睨みながら次々と近距離で攻撃をしてくるソフィア。涙目で顔を真っ赤に浅く唇を噛みしめ、圧倒する殺気を放ち、無言でひたすら俺に攻撃をぶちかましてくる。小柄でかわいいから別に怖くはないけど、一撃一撃が滅茶苦茶痛い……。

 っていうか全身がミミズで汚れててあまり触ってほしくないんだけど。顔も所々茶色く汚れている。


 まぁ、俺も汚れているから気にしても意味ないんだけどね……。


「おい、お前ら……今は喧嘩している場合ではないぞ!さっさとこいつ倒してここから脱出するぞ!」


 ミミズが集大して形成した怪物を何とか塞いでいるギタノが俺とソフィアに叫ぶ。

 ソフィアは必死に手で身を庇っている俺を無言で睨むと、悔しそうに唸ってからギタノの方へ向かった。


 やっと解放された……。


「何をだらけているんですか!リーダーならリーダーらしく戦ってください!」


 未だに身を庇っていた俺を叱ってくる。


「お、おう……」


 そこは本当に譲ってくれたんだ……。


 俺は剣と盾を構え直して言われた通りにギタノと肩を並べる。

 このモンスターは不気味で気持ち悪く、この地方に来てからは最も巨大だ。実際は小さなミミズが一匹一匹集合して形成したモンスターだけど、それでも図体は巨大だ。中央に小山に似た形をしているミミズの塊があり、その周りには何本もの触手がフラフラと蠢き攻撃してくる。

 触手の攻撃は鞭の様に鋭く、恐らくモンスターの頭部である中央の小山は、ミミズ玉を吐き込んでくる。


 触手よりそっちの方が怖い……。


 触手に吊り上げられていたダグザとソフィアを助けていた隙に、何度も何度もミミズ玉を顔面に食らってしまった。

 今ではもう深いトラウマだ。


「やはり間違いないです。このモンスターはデカワームのボス――オクトワームです!百年に一度だけ出現すると言われているデカワームのボスです!」


 ソフィアは残った唯一の矢を弓に番えながら、辞書にでも調べたと言えるほどに丁寧に教えてくれた。

 逆様にされて矢筒に入っていた矢を全て失ったため、彼女はこの一本の矢しか持ち合わせていない。


「ワームのボスだって!?百年に一度!?冗談じゃねぇ!なんで俺達がいる時に限って!?」


 そのオクトワームが繰り出す触手の鞭攻撃を盾でブロックしながら文句をほざいた。


「このダンジョンのミミズが徐々に集大していき、百年でやっと形成されるボスモンスターです。運悪く今この時に完成したとしか思えないですね……」

「マジかよ」

「中々手強いぞ。気を引き締めろよ、ダグザ!」

「わかってるよ!」


 ギタノは、オクトワームの攻撃を盾でブロックしている俺に襲ってくるデカワームを剣で斬りかかっている。

 オクトワームとかいうこのボスモンスターが現れてからは、次から次へと周囲にデカワームが集まってきている。


「私に策があります。見てください。ファイア・アロー!」


 ソフィアがそう言ってさっき弓に番えた矢を放つと、放たれた矢は激しく燃えだし、炎の矢になった。炎の矢はそのまま小山の形をしたオクトワームの頭部に突き刺さると、その部分のミミズが燃えだして大いに崩れた。


「なるほど。こいつらは炎に弱いのか」


 ギタノが感心の声で呟く。


「ちょっと待てよ……。炎が弱点ならなんで松明持ってこなかったんだよ!?バカじゃないのか!?」


 盾を前に突き出したまま肩超しに背後に立っているソフィアに振り向いた。


「だ、誰が馬鹿ですか!訓練をするためにこのダンジョンまで出向いたのです!松明とかがあれば訓練にならないではないですか!馬鹿はダグザですよ!いつも楽しようと考えているダグザが馬鹿です!大馬鹿ですー!」


 おぉ……バカが結構気に障ったらしい。いや、まだ吊り上げていた時のことで怒っているのか……。


「誰がバカなのかはともかく、策というのは炎の矢で倒すということか?」


 テンポよく襲ってくるデカワームをぶった斬りながらギタノが聞く。


「そうです。しかし、もう矢はないです。オクトワームに吊り上げられた時に全部なくしました。誰かその辺にばらまいている矢を拾ってきてください」

「その辺っていうのは……あの辺のことを言いたいのか?」


 ソフィアの言葉が回りくどいと感じ、俺は首でオクトワームがいる所を示して尋ねた。


「そ、そうです……」


 ソフィアは自信なげに小さく頷いた。


「それで、その誰かっていうのは……俺とギタノのどっちかって言いたいのか?」


 俺達の方に向かって連続で放たれたミミズ玉を盾でブロックしながらまた尋ねた。


「そう……です……」


 ソフィアは俯きがちに小声で答えた。


「拾えるか!自分で拾ってこい!」

「え~無理です!もうあのモンスターには近づきたくないのです!」

「俺も近づきたくねぇよ!このミミズ玉を顔面に食らってみろ、気持ち悪くて自殺したくなるくらいだぞ!」

「他に良い策があるというのですか!?だったらどうぞお二人だけで倒してください!」


 もう知らないという風に乱暴に腕を組みそっぽを向かれた。

 面倒くさい小娘だな……。


「ダグザ。このままだと埒が明かないぞ。矢を拾いに行った方が良い」

「ちっ、わかってるよ!」


 襲ってくるデカワームの数が増しているし、オクトワームを倒すには中央にある頭部を攻撃するしかなさそうだ。しかし、近づこうとしたら絶対に触手の鞭攻撃でやられるか、吊り上げられて巻き付き殺されるかだろう。それら全てを避けたとしても、ミミズ玉を顔面に食らわれるのが目に見えてる。


「俺が行こう。ダグザはこのまま攻撃をブロックしててくれ」

「わかった。大丈夫だ。任せろ。頑張れよ……」


 ギタノが自ら受けてきたので俺はあっさり承知した。


「ちょ、ちょっと待ってください!駄目です!駄目ですよ!危険な場面はリーダーが成し遂げなければなりません!ダグザが拾いに行ってください!だってリーダーですよね!?」

「お、おい、お前……」


 余計な事言いやがって……。

 誰だよ、リーダーになりたいってほざいてた奴は……。


「そういうことだ、ダグザ。頑張ってくれ」

「お、お前はそんなあっさりと引くんじゃねぇ!」


 畜生……。

 俺が行くしかないのか……。


 矢が落ちているのは丁度ソフィアが吊り上げられていた場所だ。あそこまでなら走ってすぐにたどり着ける。問題は拾う時にどうしても時間が掛るということだ。

 俺が行くとなれば盾はギタノに預けなければならない。


「ダグザ早く拾いに行ってください!デカワームがどんどん増してきて厄介です!」

「ああっもう!うるさいな!リーダーに命令するんじゃねぇ!わかったよ!ほら、ギタノは盾を持っていろ!」


 もうどうにでもなれ!


 隣にいたギタノに盾を預けると、剣を構え直して全力で駈け出した。

 大量に襲ってくるデカワームの間を突き進みながら、触手の鞭攻撃を器用にかわし、飛んでくるミミズ玉を剣で斬って避ける。と、そんな想像した通りに器用良く行けるわけもなく、俺はデカワームの間を突き進もうとして転び、立ち上がろうとしたら触手の鞭攻撃を受けてしまい、その上にミミズ玉の連発を食らってしまった。


「ひぇぇぇぇぇぇぇぇっ」

「一体何をやっているのですか?」

「しっかりしろ!ダグザ!まだ一歩も進んでいないぞ……」

 ソフィアの冷たい声とギタノの呆れた声が近くに聞こえる。

「え?あれ……?」


 自分に付いたミミズを素早く取り除いた。


「これほどまでに不器用で何も出来ない者は初めて見ました。ダグザのことだからもう驚かないですが……」


 周りを見たらギタノが前でオクトワームの攻撃をブロックしていて、隣にはソフィアが立っている。


 本当だ。一歩も進んでいない……。


 恐らく全力で駈け出した途端にデカワームの連続攻撃を受けて飛ばされたらしい。


「みんな良く聞け。こいつは強いぜ……」

「ダグザが弱いだけです」

「うるさいな!」

「ダグザ、早くしてくれ!俺一人では長くはもたんぞ」


 ギタノが余裕なさそうな焦りが混じった声音で言ってきた。


「いや、わかってるけど、マジ無理なんだけど……」

「はぁー、仕方がありません。もしもの時にしか使いたくなかったのですが……ダグザにあげるのは非常に勿体ないのですが……これを使ってください」


 ソフィアは俺がわざと落として見せた自分のバッグを拾い、中を色々探ると、そこから長い木の棒を取り出した。


「ん?何に使うんだよ、それ」

「ファイアー・ライト」


 彼女がそう呟くと、差し出してきた木の棒の先に火が付き燃え上がり始めた。


「あるじゃねぇか!松明あるじゃねぇか!バカか!持ってきてたのなら最初から使え!」

「馬鹿じゃないです!馬鹿と言うダグザの方が馬鹿です!は、早くこれ持って矢を拾いに行ってください!」


 ああっ面倒くさい!

 くそったれ!


 文句をほざくソフィアから松明を受け取り、それを前に突き出して乱暴に振りながらもう一度全力で駈け出した。


 よっぽど炎が弱点らしく、デカワームの群れは燃え上がる松明を振って突き進む俺の存在に道を開いてくれる。オクトワームは全く攻撃を仕掛けてこない。その代わり全てがギタノの方に襲い掛かる形になるけど、ここは我慢してもらうしかない。


 俺はすぐに矢が散らばっている所までたどり着き、それらを拾うために地面に松明を置いた。

 ミミズだらけの地面に松明を置くと、すぐさまミミズが蠢きながら遠ざかっていく。


 ふふっ。今の俺は無敵だ!


 誰にも負ける気がしないね。


 剣を収めてさっそく矢を拾い始めた。たくさんの矢が散らばっているけど、全部は拾えない。松明を持って戻らなければならないので、片手で持てる分だけしか拾えない。

 結局拾えたのは計七本の矢だけだった。


「ソフィア!七本で足りるか!?」


 大声を出してやや離れているソフィアに一応聞いておくことした。もう一度拾いに行ってください!とか言われたらたまったもんじゃないからな。


「多ければ多い程万全ですが、それしか持ってこれないのでしたら、それで大丈夫だと思います!」


 彼女も声を張り上げて向こうから答える。


 こんなもんだろう……。


 七本の矢を強く握り、松明を拾った。松明を地面から拾うと、そこにまたじりじりとミミズが一斉に集まった。

 き、気持ち悪っ。

 頭の中でそう呟き、俺は来た時と同じように松明を激しく振り回しながら元の場所へ駈け出した。


「ダグザ!気を付けてください!」


 全力で駈け出して半分くらいの距離を詰めた所で、ソフィアが突然そんな大声を上げた。

 まさか、オクトワームが恐れをなくして攻撃してくるのかと思って周りを見渡したけど、そんな様子はなかった。


「なんだ!?どうしたんだ!?後もう少しだ!」

「気を付けてください!その松明は五分しか使えないです!もう少しで灯りが消えるはずです!!」

「えっ……?」


 ソフィアが何を忠告したのかを理解するまで約三秒かかった。それと同時に松明の灯りが消えた。燃えていた火がスーッと一瞬で消え、薄い煙が先っぽから上がるだけだった。


「ふっ、ふざけんなぁぁああああああ!!」


 冗談じゃない!

 絶対わざとだ!

 あの小娘俺をはめやがった!


「お前こんな大事なこともっとはやうぐおっ!?」


 さっきよりも全力で走り続けていたら、いきなり前方から飛んできた触手の鞭攻撃に当てられ、そのまま勢いよく後方へ転ぶ。

 ち、畜生!

 素早く立ち上がり、持っていた松明を乱暴に投げ捨てて、剣を抜いた。

 やばい……。

 超ピンチだ……。

 ここまでか……。

 大勢のデカワームが這いながら襲ってきており、触手は俺を狙って攻撃してくる。それを必死で剣を振って防いでいる。

 もう向こうには行けない。

 だったら、これしかないだろう。


「ソフィア!!」

「私は何も悪くないのです!ダグザが遅いからです!」

「まだ何も言ってねぇよ!それは後だ!それより、ここから思い切り矢を投げてやるから受け止めろよ!」


 慌てて言い訳を言ったソフィアに、デカワームに囲まれながらも大声で伝えた。

 接近してきた一匹のデカワームを斬り倒して、握っていた矢を確認した。

 気付いたら矢が五本になっていた。


 ちっ、転んだ時に落としてしまったのか……。


 五本か……。

 まぁ良い。

 もう拾っている余裕なんてない。

 五本もあればソフィアが何とかしてくれるだろう。

 そう信じるしかない!


「投げるぞ!」

「オッケーです!」


 飛んできたミミズ玉を交わし、足を掴み取ろうとしてきた触手を追い払い、俺は五本の矢を握っている手にさらに力を込めると、全力でソフィアの方へ投げつけた。


 五本の矢は宙にばらまいてデカワーム群の上を順番に通り、真っ直ぐソフィアの方へと向かっていた。彼女は真剣な顔つきで矢の行き先を見つめ、いつでも受け取れる体勢を取っている。


 行け、届け……!


 矢がデカワーム群を越えようとしていたその時。


 なっ……!


「わ、私の矢が……!」


 突如にして触手の鞭攻撃が矢を突撃した。五本の矢は耐え切れずに一瞬に折ってしまい、フラフラと力なく落下していく。


「くっ……くっそたれぇぇぇえええええっ!!」


 何ということだっ!!

 まさかこんなことがっ!!

 ありえないじゃないか!


「失敗か……」


 デカワームを抑えているギタノが悔し気に呟いた。

 何なんだこの運のなさは!?

 許さねぇ……!

 俺は剣を強く握って構え直すと、真っ向にオクトワームの頭部へ突っ込んでいった。


「もういい!俺がぶっ殺してやる!おい!そこのくそオクトワーム!よくも色々とやってくれやぐぉぉおおおおおっ!?」


 そして見事にミミズ玉の連発を食らった。そこで倒れてもがき始める。


「ダグザ!無茶はするな!今はどうにかしてここに避難しろ!」


 ギタノも疲れてきているらしく、荒い息で押し殺す様な声で叫ぶ。


「無理だ!デカワームが多すぎる!もう終わりだ!寂しいけど、俺を置いてここから逃げる方法を探せ!」

「お前を置いて逃げられるものか!!」


 相棒……。

 心にしみるぜ……。

 やっぱりお前は最高の相棒だぜ!

 だけど、お前にはまだ役目が残っているじゃないか。


「何を言っている!あいつと約束したじゃねぇか!約束を破るわけにはいかない。この俺にもブライドはある!ソフィアを守るって約束しただろう!?その小娘を無事にここから連れ出せ!」


 言った。


 言っちゃった。


 カッコよく言ってしまったぞ。


 心にもないことをカッコつけて言ってしまった。

 もう後には引けない……。

 まぁいいや。

 心にもないことだけど、俺マジカッコいいじゃねぇか……。


「ダグザ……承知した。お前の気持ちはきっちりと伝わったぞ。すまない相棒よ……。ソフィア……」

「やれやれ……仕方がないです。まさかここまでこんな弱っちいボスモンスターに追い込まれるなんて思いもしませんでした。はぁ……二人共少し待っててください」


 ギタノの言葉を遮り、ソフィアは感心した様な呆れた様な感じで言うと、疲れ切った様子でまた自分のバッグを探り始めた。


「ソフィア?いきなりどうしたんだ?」


 いきなりの場違いなソフィアの冷静な雰囲気におかしくなったのかと思った。


「良き言葉です。良き友情です。良き名場面です。ダグザ、ちょっぴりとほんのり少しだけ見直しました。でも……でもですね……その言葉はもっと手強いボスモンスターとの戦闘で追い詰められた時にでも言ってください。正直このくそ弱いボスモンスターにこの場面はダサいです。超ダサいです」


 は……?


 ソフィアはバッグの中を探りながら、独り言を喋るかの様な感じで長々と言った。


「くそ弱いボスモンスター……」


 呆気に取られながら呟いたのはギタノだった。

 あいつ、一体どうしたんだ?

 ここからだと彼女の表情や状況が窺えない。


「あったあった!持ってきていてよかったです!ほい、ダグザ受け取ってください!」


 バッグから何かを取り出したソフィアは俺の方に投げつけた。見るからには長い形をした何かだ。それは回りながら宙を飛び、デカワーム群の上を見事に通り抜けて見事に俺の所までたどり着けた。


 俺はそれを片手で受け取る。


 赤い結晶だった。


 手のひらくらいの大きさをした六角柱状の赤く輝くクリスタルだった。そのクリスタルの中には炎が美しく踊っている。

 これって……。


「それは武器をエンチャントするための炎の石です!」


 ソフィアは俺が受け取ったのを確認して説明してくる。


 炎の石……。


 知ってる。

 エンチャントクリスタルと言って、どの属性の力も宿れる結構レアな石だ。

 俺が疑問に思っているのは。


「剣で思い切り叩くと剣が炎属性にエンチャントされます!それでオクトワームを倒してください!」


 俺が疑問に思っているのは。


 背後にミミズ玉が飛んできたけど、俺は構いなしに炎の石を手に見つめたままでいた。


「ダグザ!早くしてください!本当に殺されますよ!触手が攻撃してきます!強く叩くだけです!簡単です!その石は……」

「この石が何なのかくらい知ってんだよ!!俺が知りたいのはっ!なんで今更嬉しそうに渡してくるんだよこのバカ小娘ぇぇえええええっ!!」


 触手で攻撃をしようとしていたオクトワームがひるむ程の馬鹿でかい怒声を上げた。怒声はダンジョン全体に響き、天井や壁に張り付いているミミズがぽろぽろと落ちてきた。


「だ、だ、誰が馬鹿ですか!!馬鹿はダグザの方です!!この弱っちいボスモンスターも倒せない大馬鹿者です!!人がピンチから救ってくれているというのにお礼も出来ない馬鹿ダグザですっー!!」


 バカ呼ばわりがまた結構応えたらしいソフィアは、必死で俺と張り合える程の音量の怒声を上げてきた。


「お前だってギタノの背後に隠れているだけじゃねぇか!!」

「私達がまだ生き残っているのは私のおかげです!!それに!矢があれば私一人でもその弱っちいボスモンスター倒せるのですよ!!」

「嘘つけ!!このくそキモイモンスターに捕らわれて好き放題体を触られて乱れた小娘がほざいてんじゃねぇ!!」

「誰のせいで乱れたと思っているんですか!!ダグザが早く助けないからではないですか!!最低です!最低ですっー!!後で覚えといてください!!というより今すぐに一遍死んでください!!」

「ああっもうっ!!うぜぇ!もういい!!さっさとこのキモイ塊を倒して俺の本当の実力を見せてやる!!」


 受け取った炎の石を軽く宙に投げて、落ちてくる瞬間に剣で思い切り打った。……つもりでいたけど、なぜか外れて空振りしてしまった。炎の石はそのまま地面に落ち、俺は勢いで倒れそうになった。


「ぷっふふふふふふ!!何をやっているのですか!!ダサい……っ!ダサいです!!ダサすぎます……!!今の傑作ですよ!!ぷっふふふふふ!!」


 あの小娘め……。

 後で覚えておけよ。

 後で覚えとけよ……!


 俺は超恥ずかしい想いを押し殺して、気まずそうに地面に落ちていた炎の石に思い切り剣を振り下ろした。

 炎の石は小さな爆音と共に割れ、同時に俺の剣が激しい炎を剣身に纏った。


 おおっ!

 すげぇ!


 これが武器のエンチャントってやつか……!


 はっははははは!


 これで俺は真の無敵だ!


「ダグザ!格好つけてないで早くしてください!そのエンチャントはきちんとした武器ではないと一分しか持ちません。一分しかないです!」

「なに!?だからそういう大事なことはもっと早く言え!」


 カッコよく剣を振り回していた俺にソフィアが急かす。


 よし、このくそボスモンスターとやらをぶっ殺そうじゃないか!

 俺に気持ち悪い想いをさせたことを後悔するがいい!!


 炎を纏った剣――炎剣ダグザを大きく振り上げながらオクトワームの頭部であるミミズの塊に突進していった。

 周囲のデカワームと触手は激しく燃えだす炎剣ダグザを恐れてすらすらと道を開いてくれる。頭部は地面から突き出されて張り付いているため、身動きが出来ない様子だ。俺が激怒な様子で炎剣ダグザを振り上げたままで突進している姿を確認すると、ミミズ群がぶるぶるっと震えた。


「死にやがれぇええっ!!」


 自分の中にあったすべての怒りを一撃に込めて、炎剣ダグザをオクトワームに振り下ろした。一撃は地面まで頭部を貫き、炎の衝撃がダンジョンに響き渡った。

 急に全部の触手が狂ったようにフラフラと触れ始めて、壁や天井のミミズが崩れてきた。


 え……?


 これってああいうパターン?

 ボスを倒したらダンジョンが崩れる系の仕掛け?

 冗談だよね……?


「ギタノ、早く逃げますよ!オクトワームはワームが百年かけて成形したモンスターです。ダンジョン内のほぼ全てのワーム関わっています。それを倒すとダンジョンがリセットするかのように、全てのミミズが崩れるんです!」


 な、なんだと!?


「でも、ダグザが……」

「放っておくのです!私達が捕らえて死にそうになっている姿を見て楽しんでいた人です!ちっとした仕返しです!」

「そ、そうか……。確かに……あれは酷かった」


 離れた後方から理解を疑うほど信じられない会話が聞こえてきた。


「お、おい……ああっ俺の剣が!炎剣ダグザが……!」


 あいつらを何とか制止しようとしたら剣が重くなっていることに気付き、振り下ろした剣を見たら剣身が黒く固まっていた。

 せ、石化してしまった……。

 畜生!悲しいけど今はそんな所じゃねぇ!


「おい!お前達!俺を置いて行くな!パーティ仲間じゃないか!」


 剣をそのまま地面に放置して、あいつらを追いかけようとした。しかし、周囲はデカワームだらけで、向こうに渡れない。

 ぽたぽたっと天井からミミズが崩れてきて、ミミズの雨がダンジョン内に振り始める。

 うわぁ気持ち悪っ!頭にミミズが……!


「パーティのリーダーとして仲間の囮になってください!大丈夫です!ダグザならきっと生き延びられます!私達はリーダーを信じています!それでは……!」

「リーダーよ、頑張ってくれ!」


 二人は全力で出口へ走りながら肩越しに振り向き、嬉々とした表情で俺に言ってくる。


「お願いだ!俺を置いて行かないでくれぇぇぇ!頼むぅぅぅ!」


 出口までたどり着けたギタノとソフィアを睨みながら、フラフラ状態のデカワームの群れを何とか通り抜けようと必死でもがいていた。


「ギタノてめぇえ!許さねぇぞ!!ソフィアも覚えていやがぐおっうぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」


 天井のミミズが大量に崩れると共にデカワーム群も崩れて、俺は大量のミミズの山に埋もれてしまった。

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