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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
12/20

ep12 - 小柄な天使――エリザと一時的のお別れ!


 俺達はこれから西の戦争に応援しに行くエリザを見送る予定だった。

 移動手段はテレポートらしい。

 だけど……。


「どこに向かってるんだ?」


 ソフィアと手を繋いだまま少し前を歩いているエリザに、後ろから声を掛けた。


「リーカン町の神殿よ。あそこからしかテレポートが使えないの」


 彼女は肩を並べた俺とギタノに向きながら答えた。


 あれ?

 確か、ダグロ達は広場からテレポートをしたはずだけど。


「テレポートストーンがあれば、どこからでも発動できるものではないのか?」


 俺と同じ疑問を抱いていたらしいギタノが尋ねた。


「いいえ。テレポートストーンは自分を転送するエネルギーゲートを開くための道具であって、テレポート自体は行えないわよ。まずは、エネルギーゲートが位置されてある場所の近くにいないと行えないし、テレポート先には必ずエネルギーゲートが位置されている必要もあるの」


 彼女はどこからか取り出したテレポートストーンを見せながら淡々と説明してくれた。


「いや、でも、ダグロ達は……」

「ああ、ダグロたちね……。彼らはこの地方の大半を支配しているフェルンブラスに仕える者よ。この地方はフェルンブラスの悪質な魔力が流れ込んでいるの。だから、彼に仕える者であれば、どこからでもゲートを開くことが出来る。だけど、それでもテレポート先にはエネルギーを受信するゲートが必要よ」


 そうか。

 なるほど……。

 複雑だな……。


 向こうの地方にはそんな便利な移動手段はなかったから、俺とギタノにとっては全てが新しいことだ。


「へぇーなんか便利だな。それで、それ……高いのか?」


 遠慮がちに聞いた俺を見て、エリザは小さく笑って見せた。


「一万リアくらいだけど、今の君たちが買えない物はそうそうないわよ!」

「それもそうだな」


 笑いながら言うエリザにギタノは同意した。


「あのさ、さっきから気にかかっていたんだけど、あのお金どうやって手に入れたの?エリザってお金持ちなの?」


 金融機関の施設で手続きを済ましていた時、エリザは非情にものすごく丁寧に扱われていた。


「え!?あ、そ、い、いや……そんなことないわ。質のいい高い材料が手に入れられるモンスターをいっぱい狩れば、一億なんてすぐ貯めるわよ」


 どこか困ったようにぎこちなく答えるエリザには、なんとなく誤魔化している感がしたんだけど、彼女の答えもそうだろうと思い、それ以上は聞かないことにした。

 なんたってお金はもう手に入れたのだ。


 聞く必要は何もないのだ……。


「そういえばさ……俺達って三人で一緒に住むの?」


 まだ続く俺の質問に、みんなが進む足を止めた。


「あっそうだ!伝え忘れていたわ。そこはもう手配されているの。後でソフィアが案内してくれるから心配しないでね!」

「そうか。それは助かる」


 エリザが思いだした!という風に驚いて答えてくれると、ギタノはそれに頷き感謝した。


 うん……この二人息ピッタリだね!


 町を照らす日の下で20分くらい歩いた。

 もう昼に近いので、街はいつも通りに人で賑わっていた。街路を行き来する者達や店で商売をしている商人達。狩りに行こうとしているパーティや、帰ってきているパーティもいて、街が昨日襲われたばかりだというのに、いつも通りみたいで、今日も長い一日だと知らせてくれる。


 街の神殿に着くと、階段を掛け上がって、そこの番人であるおじさんに会釈をしてから中に入った。


「それでは……数日後には戻るから良い子にしているんだよ?」


 エリザはソフィアの肩に手を乗せて、真っ直ぐに彼女を見つめた。


 あれか……あれだな。

 お別れの挨拶ってやつか……。

 俺はどうもこういうのは苦手だ……。


 ソフィアが頷くのを待って、エリザは続けた。


「確かに、見た感じは頼りなさそうでおかしくて変な人たちだけど、あたしが信用しているから大丈夫よ!」


 おい……!

 お前は頷くなよ!

 隣でギタノがその光景を眺めながらソフィアと一緒に頷いていたので、鋭く睨んでやった。


 エリザは一息を付いてさらに続けた。


「何かあったら連絡してね?すぐに来てあげるからね!?でも、大丈夫!ソフィアはもう立派な女の子だし、強い子だ!」

「私……」

「ん?どうしたの?」


 ソフィアはうつむいて小さく呟いた。フードを被っているので、銀髪が前に垂れて、横から見つめている俺とギタノには表情が窺えない。


「私も……一緒に、行きたいです……!」


 悔しそうな声音でそんなことを呟いたソフィアに、エリザは優しい微笑みを向けて彼女の頬を両手で包んだ。


 マジで場違いな言葉だと思うけど……この別れの挨拶スゲー長いな。いつも思うんだけど、何でさらりとあばよっとか言って別れないんだろう……?


「知っているよ。でも……まだだめよ。西はすごく危険だから来ちゃだめ。わかっているでしょう?」

「うん、微かな希望を抱いて最後に言ってみただけです……」


 おお……。

 もうちょっと駄々をこねると思っていたのに、ソフィアは小さなため息を吐いてあっさりと諦めた。

 なんだ、冷たくてわがままな子だと思っていたけど、素直で物分かりの良い可愛い子じゃないか。

 これなら、そんなに問題なくやっていけそうだ。


「あははは、お見通しだよ!そうそう、君たちもだよ?西には絶対に近づかないでよね?本当に恐ろしい戦争が巻き起こっている最中なんだから」


 俺とギタノの方に向いて、いつもより厳しめなトーンで注意してきた。


「ああ。安心しろ。問題事に自ら首を突っ込むダグザは、俺がちゃんと見張っている」

「誰が自ら首を突っ込むんだよ……!」


 俺は勝算があると見計らってから挑む慎重なタイプなんだ……。


「ソフィアより君たちの方が心配だわ……」

「余計な心配だ。さっさと行け」


 今の俺達には昔とは一味違う。

 この世で最も頼れる力――お金の力を手に入れたのだ。

 無敵に等しい。


「それじゃあ、行ってくるね!約束、ちゃんと守ってよ!?」

「もちろんだ」

「任せろって……」


 そう言ってソフィアの頭に手を置いたら、不機嫌そうに唸ってきたのですぐに放した。


「また数日後に!」


 それを見て、エリザは小さく笑いながらテレポートストーンを発動した。

 神殿の床が輝き始め、眩しい光が彼女の体を包み、俺達の小柄な天使は……光と共に神殿から消えた。

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