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勇者になれなかった凡骨ナイトの報われない冒険!  作者: 白希熊
凡骨ナイトの始まり
1/20

ep1- 凡骨の冒険はやはり失望から!

 薄暗な空間で、どこから差すかわからない薄っすらな光が俺と、俺の前の石像を照らしている。

 何もないただの薄暗い空間。

 せめて座れる椅子とかを用意してくれてもいいと思うけど。何ならソファーやアームチェアとかでもいい。


「ようこそ。若き救い者よ」


 何十メートルもあるだろう目の前の大石像が迫力のある不思議な女性の声を発した。もちろん、石像だから口元は動かない。口元どころか全体がびくりとも動かない。

 石像だから。


 大石像は両手首を組んで手で大きな水晶玉を支えながら俺を見下ろしている。見下ろされている気がするだけで、実際には俺を見下ろしていないだろう。

 石像だから。


「救い者って……質問なんだけど、それここに連れてくる全員に言っているのか?」

「ここに来る全員の者が救い者なのです」


 “導きの女神”とやらもマニュアル通りの対応ってことか。

 俺が今、ここで、何をするのかされるのかは正直わからない。でも、どうしているのかは簡単だ。


 俺は“旅立ちの儀式”を受けに来た、はずだ。

 16歳になれば誰もがみんな“真なる平和”を求めるために“旅立ちの儀式”で“導きの女神”からクラスの導きを受けなければならない。

 昔から行われている意味のわからない儀式だ。


 しかし、一体なぜ俺が連れられてきたのかは意味不明だ。さっきまでは相棒のギタノと一緒に“旅立ちの儀式”を受けていたはずなのに、気づいたら“導きの女神“と一人でこの薄暗い空間にいた。


 師匠の奴め……。

 こんなの聞いてないぞ。


「ここに連れて来られた理由はおわかりですよね?」

「わかるか!急に知らない場所へ転移されてわかるわけないだろう」


 “導きの女神”である石像がどこかキョトンとした表情を浮かべた気がする。もちろん、表情なんて変えていない。

 ただの石像だから。


 石像の表情は真剣で微かな悲しさが窺える顔つきで成形されている。髪の毛は石像全体と同じ灰色で、滑らかに腰まで伸びている。

 ちょっと不気味だ。


「お馬鹿さんのようです。でも大丈夫です。我々はあなたのようなお馬鹿さんでも向こうで歓迎しています」

「誰が馬鹿だ!いきなり人を馬鹿呼ばわりにすんな!それでも女神か!?」


 石像の言葉には呆れた様子の声音があった。

 全く。

 何という女神だ。

 マニュアル通りの対応しかしないと思っていたけど、そんなことはないみたいだ。


「あなたが私まで訪れたのは“旅立ちの儀式”を行う為でしょう?なのにわからないと答えるのはお馬鹿さんの証拠です」

「そんなことならいきなり質問するんじゃねぇ。間際らしい!どうして俺をここに転移したんだ?」


 そう。

 だって、俺は“旅立ちの儀式”を行うためにギタノと一緒に神殿にある“導きの女神”である石像の元へ訪れたんだ。なのにいきなりこの薄暗い場所に転移された。

 おかしいと思うのが当たり前じゃないか。


「“旅立ちの儀式“を行う為にここへ連れて来た。あなたの友達もまた、同じく違う場所で同じく違う私と儀式を行っています。いえ、もう終了しました。まだ残っているのはお馬鹿さんだけのようです。早く済ませましょう」


 お前がもったいぶっているじゃないか!

 はぁ。

 なんなんだこの儀式は。

 いや、なんなんだこの女神は。

 石像だし……。

 なんか腹たつな。

 女神だからかちょっとは尊敬していたのに、これでもうリスペクトゼロだよ、ゼロ。

 早く儀式を済ませてあばよしてやるよ。


「それでは儀式を始めます」


 改めてとでも言うように、最初の迫力のある元の声音で言葉を発した。


「と言いたいところですが、まずはこの“旅立ちの儀式”の簡単な説明をします。このまま何もわかっていないお馬鹿さんを送ってもすぐに死ぬそうですので」

「何も知らずにここまで来るか!物心ついた頃から言われ続けている伝統だ。知らないわけないだろう」


 さっそく儀式を始めると思っていたら、何が簡単な説明だ。

 まぁ……説明するならきちんと説明しろよ。


 石像は俺の意見なんて聞こえなかった振りをして説明を始めた。


「“旅立ちの儀式”は16才になった若者が受ける儀式の事です」

「知ってる」

「この儀式を受けることでクラスが得られて、得たクラスに応じて得意なスキルやステータスが経験と共に向上します」

「知ってる知ってる」


 俺は勇者になるんだもんね。


「クラスを得た若者にはここから遠く離れた地方へ転送されて旅立ちます」

「わかってる」


 大悪の魔法使い――何とかバスを倒すのは俺だもんね。


「その地方は何千年もの間、大悪の魔法使い――フェルンブラスの悪によって闇に満ちています。“旅立ちの儀式”は生気ある若者に適切な力を与え、その地方へ旅立ってフェルンブラスを見事に倒し、“真なる平和”に導くことが目的です」

「わかってるわかってる」


 なんとかバスじゃなかったのか……。何とかラスね、この勇者様が覚えといてやるよ。


「以上です。お馬鹿さんでも理解できるほどの簡単な説明をしたはずです。それでは本格的に“旅立ちの儀式”を始めます。その水晶に手を乗せてください。水晶を通してあなたの能力を判定します」


 お馬鹿さんお馬鹿さんって、失礼な女神さまだな。俺はこれから何とかラスとやらを倒す勇者様になるんだぞ?


 薄暗いこの場所で、いきなり俺のすぐ前に、石像が握っている水晶とほぼ変わらない水晶が予告なく現れた。

 仕方がないので、俺は言われた通りに手を水晶の上に乗せた。


「やはりお馬鹿さんですね?両手を水晶の上に乗せるのです。説明してもわからないお馬鹿さん以下ですね?」

「うるさいわ!手を乗せてって言ったから乗せたじゃないか。両手を乗せてって言われた覚えはないぞ!」

「手を乗せて下さいと言われれば両手を乗せるのが常識です」

「どこの世界の……」

「早く乗せてください」


 石像は真剣な迫力のある声音できっぱりと俺を遮った。

 うっざー。

 超うざいんだけどー。

 何様のつもり?

 女神さまのつもり?

 ただの石像でしょう?


 手を乗せるよりこの水晶を手に取ってこの石像に投げたいくらいだ。だけど、一応は女神。早くこの茶番を済ましてあばよしてやる。

 仕方なく超うざい石像に従って両手を水晶の上に乗せた。


 今後から“導きの女神”を“超うざい石像”に任命した。

 両手を乗せると、超うざい石像が握っている水晶と俺が両手を乗せた水晶が同時に光り出した。


「ダグザ・リアガード。16歳。身長168センチメートル。体重65キログラム。力と精神が平均より上だが、最も目立つステータスは我慢」


 さっきまでとは何かが違う感情が全くこもっていない冷たい声音で、淡々と俺の特徴を伝えられた。


 我慢か……。

 自慢じゃないけど確かに俺は我慢強い。なんたってこの“導きの女神”であるこの超うざい石像に耐えているくらいだからな。


 俺の特徴を教えてからというのに、超うざい石像はまるで石像になったかのように固まったまま何も喋らないでいる。

 あ、いや、もともと石像だったわ……。

 ごめんな?

 わざとじゃないんだよ?

 我慢強いけど記憶力は悪いみたいなんだ。

 調べたからわかるでしょう?

 もう水晶から手を離しても良いかな?

 我慢強いけど疲れてきた。

 あ、やばい。腕がしびれそう……。

 何も言わないから離すよ?

 離しちゃうよ?


「おい、まだそこにい……」

「黙っていてください。今あなたに最も適切なクラスを調べています」


 …………。


 まぁいい。

 俺は我慢強い人間だ。

 我慢強いのだ……。

 これくらいへっちゃらさ。

 そうだよ。

 俺はこれから勇者になるんだ。

 超うざい石像に遮られたからって、どうでもいいじゃないか。ただの超うざい石像だよ。何ともないよ。腹も立っていないし別に怒ってもいない。この水晶を目の前の超うざい石像に投げようなんてことも全く思っていない。そうだよ。全く何も思っていない。無感情なのだ。俺は無感情男なのだ。我慢強い無感情男なのだ。理不尽に大声で愚痴ろうとも思わないし、文句を言い付けようとも思ってもいない。

 善だ、善。

 決してここから転送される途中に何か言ってやろうなんて企んでいないよ?


「ダグザ・リアガード、あなたのステータスと性格に合わせて最も適切なクラスを判定しました」

「そうか。まぁそんなこと調べなくてもゆう……」

「ナイトです。あなたに最も適切なクラスはナイトです。それではナイトの神殿へと転送します」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」

「なんでしょう?まだわからないことがあるのですか?お馬鹿さんにまた説明してもわからないと思いますので、そのまま転送されることをお勧めします」

「おい、さっさと俺をここから追い出したいみたいな早口で言うのはやめてくれ……それにさっき違うこと言っていたぞ?しかしそれもどうでもいい。どうでもいいのだ。俺が待って欲しいのはその判定だ。その結果は間違っている。俺に最も適切なクラスは勇者なはずだ。知っているか、女神様?勇者だよ勇者!ヒーローとも英雄とも呼ぶ!」


 そう、俺は勇者に憧れているのだ。そのために今まで頑張ってきたのに、勇者になれないなんて残酷すぎる。

 残酷すぎるよ、この世界は……。


「いいえ。あなたは勇者に適切ではありません。我の判断は絶対的に合っています。間違いはありません」

「そんな……」


 俺の努力と憧れに構わず、超うざくて残酷な石像は否定した。


 ここから“導きの女神”であるこの石像を“超うざくて残酷な石像”に任命する。


 勇者になるためだけにあんなに訓練して鍛えてきたのに、一生懸命頑張って命懸けてでここまで来たんだ。確かに、時々さぼったりもしたけど、ちょっとだけだったんだ。本当だ!


「確かにあなたには勇気と度胸とやさしさがそれなりにあります。しかし、勇者になるにはまだ足りないです。それにあなたはお馬鹿すぎます。ナイトのクラスで頑張ってこれから組むパーティの役に立ってください」


 超うざくて残酷な石像の声音は、今まで一番迫力と説得力がある気がした。

 俺の夢、憧れ、全ては旅立つ前に幕を閉じるというのか……。

 お馬鹿ですべてが決まるというのか……。


「もっと鍛えて、勉強して、経験を積めば、後からクラスチェンジは出来ないのか……?」

「不可能ではないですけど、無理ですね」

「不可能じゃないけど無理?どういうことだ」

「勇者にクラスチェンジするには条件があります。それは……この世のすべての勇者が亡くなり、なおかつ新しい勇者が誕生しなかった場合、全クラスの生者の中で最も勇者に適切な存在がクラスチェンジされます。今までこんな事態が起こった経歴はありません。そんな事態が起こり、その上であなたが最も適切な存在になるのは、ほぼ不可能です」


 無理なのか……。


「せめてナイト意外なクラスはないのか?聖騎士とか竜騎士とか、暗黒騎士とか、色々あるだろう?」

「無理ですね」

「だって、ナイトって敵をブロックするためだけの存在だろう?ほぼただの壁じゃないか」

「そうです。お馬鹿さんなあなたにはぴったりだと判断しました。感謝してください。もはや壁になり来ちゃってください。それがベストです。お勧めです。それでは転送いたします」

「ちょっと待て!話はまだ……」


 身の回りが激しい青い光に包まれた。丁度真下には魔法陣が生成し、周囲には水晶のような青い光玉がいくつも浮かんでいる。


「神々の導きがあなたの幸運とお馬鹿さを照らすことを祈っています」

「まちあがれええええぇぇぇぇ!!あっそうだ!あば……っ」

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