7話 ガードキーププレイング ~1~
サブタイ初めは「シンレスキーププレイング」でしたが、2話連続でシンレスが出てくるので、
ガード=護衛にしました。
明け方5時頃……シンレスは目を覚ました。
むくりと上体を起こし、大口を開けながら思い切り背伸びをする。まだ寝ていたい時間なのだが、今日は週中……やることがあった。
布団を押し退けながらふとエンカを見ると……目を開けてこちらを見ていた。
青い瞳で見続けるエンカ。といってもまだ半開きの寝ぼけ眼で、完全な覚醒には至ってないようであった。
「どっか行くの?」
消え入りそうな声の、小さな問い。
「ああ……今日は……」
シンレスは濁しながら出かける準備をする。顔を洗って髪を結んで……その様子を見ていたエンカもよく回らない頭でしばらく考えて、ああ……と呟いた。
「そっか……近くにあるの?」
「少し歩くけど、無いことはないらしい」
「そうなんだ。行ってらっしゃい」
そう言うと、エンカは寝返りをうちむにゃむにゃと再び寝入ってしまった。
この男は本当に国の命の自覚があるのか……ため息をつきたかったが、護衛対象から離れようとする自分も大概なので、せめて気楽な幼馴染をまた起こさぬようにと、シンレスは静かに宿屋を出た。
◇
それから2時間後、クインヘルとエンカはすぐに外出出来るよう、身なりを整えた状態で顔を合わせた。
「おはよークインヘル」
「おはよう……あれ、シンレスは?」
そこにはいるはずの、シンレスの姿が無かった。
護衛の不在を不審に思い顔をしかめていると、エンカは特に気にしていないような面持ちで答えた。
「ああ、シンレスなら教会に行ってるよ」
「教会?」
クインヘルは首を捻る。
……正直言うと、意外だった。
それと同時の疑問、あの男が護衛対象のエンカから離れてまで教会に行く用事とは何なのだろうか。
しばし考えて……それしか思いつかなかった。
「信仰、しているのか」
神への奉心━━祈りである。
旅の途中でも教会を探し祈りに行くほどの……神の信者なのかとエンカに聞いた。
すると、エンカは何か思い出したのか……視線をクインヘルから外して薄く笑った。
「昔ほどじゃないけどね。……さて、オレはもう少しゆっくりしてるから、呼びに行くがてら見に行ってくれば? きっと意外なものが見れるよ」
さっきとは打って代わり、エンカはにこにこしながら勧める。
が、クインヘルはさすがに躊躇った。
この旗手は何の迷いもなく、自分の守護者を放してしまうのだ。それでは護衛として側仕えしている意味が無い。
ここにきてようやく、シンレスの気苦労が分かってきた気がした。
護衛対象を1人にするなと怒られそうなのだが、と伝えると「そんなのシンレスも一緒でしょ!」って言い返せ! と言われたので、エンカの言葉に甘えクインヘルは教会に行ってみる事にした。
いまいち土地勘が無いので迷うかと思っていたが、目標の教会が大きい建物だったので、迷子になる事は無いようだとホッと胸を撫で下ろした。
それにしても、朝の空気がとても心地いい。
朝特有の澄んだ空気を吸い込む、呼吸がとても軽かった。
それに、ここの国民は優しい。
旅を共にする2人も……エンカは見た目通り頭が軽……穏やかに笑いかけてくれるし、シンレスも旗手に危害さえ加えなければとても頼りになる人物だった。
異国の地がこんなに居心地がいいところだとは、1人きりで母国を出た当初は思ってもいなかった。
歩いて15分、教会の入り口に着いた。
わずか数段の階段を上がり、取手部分を握る。
扉は叩かない。万人を受け入れるための教会なのだから、まさか不法侵入にはならないだろうとそのまま入っていく。
そこには、広い空間があった。
訪れた人を食事などで歓待する場所であろう広間。特に信者でもないクインヘルがつい戦いてしまうほど綺麗で、神聖で静寂な空間━━
さらにクインヘルの視線の先……奥にはもう1つ扉があった。
おそらく、そこが祈りの場……礼拝堂であろう。
その扉の奥から。
1人の、男の声がしていた。