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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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最終話 永遠の婚約者

最終回となりました

詰め込んで書いたので長いですが、読んでもらえると嬉しいです




 何の障害も無く、シンレスとランティスは城外へ出た。

 瞬間、カッと目に入る太陽の(まぶ)しさに、思わず目を細める。

 そのまま悪臭の無い新鮮な空気を吸っていると、前方から歩いてくる、2頭の馬の姿を捉えた。


 馬上にいるのは、柔らかな亜麻色の髪の少年と、目立つ銀髪の青年。風になびく、金の長髪を持った少女も一緒に揺られていた。


 ちょうどよくエンカ達が戻ってきたようで、ランティスが手を振る。エンカは愛想よく手を振り返してきたが、表情は沈んで見え、クインヘルの奪取に喜んでいる様子はなかった。



 やがて、シンレス達の近くまで来たエンカは先に降りると、クインヘルに手を貸し馬から降ろす。

 同時に、軽やかに下馬するラシュタードを、ランティスは一睨みした。


「エンカ……ラシュタードもいるな」

「殿下、心配しすぎだ。今回は我が家の存続も懸けている……手は抜かない」


 ラシュタードの言葉に、エンカも頷く。

 向かう前に誓った絶対の守護だが、嘘も方便……。約束を破り、守護をおざなりにして別行動をした事の他言無用は、当然打ち合わせ済みであった。


 けれどもランティスは、2人の(あら)を探すような鋭い眼光を向け続ける。しばらくすると気が済んだのか、肩の力を抜いて息を吐いた。


「まぁ、2人とも無事で何よりだ。そしてクインヘル。……おかえりというべきか?」


 ランティスは彼女を見遣る。目を腫らし憔悴(しょうすい)しきっている様子に、何か悲劇が起こったのだと推測した。

 エンカから事情を聞こうとすると、遠くからこちらに来る2つの人影が見えた。

 徐々に判明する姿に、シンレスが真っ先に反応する。

 1人は赤髪の……シンレスが愛してやまない人が、息も絶え絶えに駆け寄ってきた。


「シン様……ッ」

「ルリカ!」


 シンレスは両手を広げて抱き止める。

 力強い抱擁(ほうよう)を受けたルリカは頭をあげると、血が張りついているシンレスの顔を見て小さく悲鳴をあげた。


「……ッ、怪我してるんですか!?」

「大丈夫。返り血だ」


 本当は100パーセント自分の血なのだが、嘘も重宝。ルリカを心配させぬよう穏やかな声で答える。

 それでも離れぬルリカの頭を撫でていると、もう1人の女性がシンレスへ声をかけた。


「無事だったか。シンレス」


 騎士らしく、風を切るように堂々と現れたのはエルザ。彼女は陽光のようなオレンジ色の髪を揺らしながら、シンレスを見据えていた。


「エルザ……。悪かったな、ルリカを任せて」

「このくらい問題ない」


 エルザは朗らかに笑う。

 シンレスはクライズに挑む前、戦闘中にルリカに何かあっては困るとエルザに護衛を頼んでいたのである。

 エルザは、ルリカが被害を受けていた事を知り、自分の家に彼女を匿う。

 そして今、クライズは無事打倒され脅威は無くなったので、引き渡しに来たのだ。




 ランティスやシンレスのほかに、ルリカとエルザも集まり徐々に賑やかになっていく様子に、クインヘルはため息を吐いた。


「急に人が増えたな」


 今はそのような気分ではないのに……と肩を落とす。すると、エンカがニッと笑った。


「でも、安心するでしょ?」

「……そうだな」


 クインヘルも微笑を返す。

 1人で戦い、寂しくするよりずっといい。先ほどの戦いでつらい思いをした事もあり、エンカの言葉には同意した。



「さて……こっちは一段落したけど、あっちはあっちでまだ一悶着あるみたいだね」


 エンカが指差す方向には、何やら言い合っているシンレスとエルザ、それに挟まれて困り顔をするルリカの姿が。どうやら、別の問題が発生しているようであった。


「おいエルザ。あまりルリカにくっつくな」

「何を言う。女同士で交流する事は別段おかしくないだろう?」


 シンレスがルリカの肩を抱き寄せ、エルザから距離を取ろうとしているのに対し、エルザは目を細め、不敵に笑い張り合っていた。

 彼女の主張を聞いたシンレスは、不快そうに眉根を寄せる。


「相手がお前なら話は別。なぜなら『仲良くなる』の意味合いが一般的な同性交遊と違うからだ。人の恋人にちょっかいだしていくな」

「なにおぅ!」


 シンレスの言い種にエルザは()え、握り拳を作りながら熱く反論した。


「お前に頼まれた通り、護衛の任は果たした! だったら仲良くなる権利はわたしにもあるだろうが!」

「それに関しては感謝しているがもういいぞ近付くな」

「な……っ、聞いたかルリカ! この男は横暴な奴だぞ。別れるなら今のうちだ」

「うるさい」


 シンレスはエルザの顔面を鷲掴み、こめかみあたりを締め上げた。


「ぐぁあああああ……っ」


 ギリギリと力が込められるアイアンクローに、エルザは苦しげな声をもらす。

 2人やり取りを遠巻きに見ていたクインヘルは、若干引いているのか口角を歪ませ、エンカはよくある光景だと懐かしむような苦笑いを浮かべていた。


「エルザはあーゆう人だから、君も標的にされるかもとヒヤヒヤしてたけど、ひとまず大丈夫そうだね」


 エンカは安堵のため息を吐く。

 クインヘルを巡って、エルザと三角関係が始まってしまったらと不安になっていたが、どうやら彼女の目はルリカに向いたらしい。

 かわいそうだが、シンレスには彼女の(好意)が冷めるまで耐えてもらうとしよう……。




 エンカは密かにそう思いながら、再度クインヘルに向き合った。


「君は、これからどうするの?」


 向こうの喧騒とはかけ離れた、静かな問い。

 彼女が望むなら、もう一度……と思っていたが、彼女にも矜持がある。易々(やすやす)と受け入れるような人ではないと、あえて突っぱねた質問をした。

 見つめられたクインヘルは、目をそらしながら答えた。


「わたしは、やっぱり国に帰ろうと思う」

「どうして?」

「アイシェルがいなくなって、国はますます不安定になってしまう。……やっぱり、わたしはそれを見過ごせない」


 アイシェルがいなくなり、アナゼル王国はまた後継者不在となった。王室は混乱し、国民は不安に駆られるだろう……。ならば、自分が王女として一度戻った方がいいと考えていた。


「それは……」


 エンカは眉尻を下げ彼女の顔を覗き込んだ。


「それは、君が王様になるって事?」


 無言の(うなず)きに、エンカは決意の固さを理解する。

 分かりきっていた事だが、何だか寂しくなって……こんな事を口にした。


「ねえ、もし……もしもでいいから。君が王様になって、やる事すべてやり終えて、またただのクインヘルに戻れる日が来たら……君を迎えに行ってもいい?」


 君をまた、妻にしたいと告げる。

 予想外の事に、クインヘルは目を丸くした。


「……妹を失った直後で、いいと言うと思っているのか?」

「そうだよね……」


 エンカは俯く。我ながらひどい問いかけだと思った。

 実行犯ではないが、妹の殺害を容認した1人だ。何なら(かたき)に等しい。

 分かりやすくしょんぼりするエンカ。その様子を見て、クインヘルはふっと息を吐いた。


「まぁ……考えてやってもいい」


 今度は、エンカが目を見開く番であった。

 弾かれるように顔をあげると、口元を緩めるクインヘルと目が合う。


「忘れるなよ? それに、何十年後になるか分からん。待ち続ける事が出来るならな」


 挑戦的にニッと笑うクインヘルに、エンカも微笑み返す。


「忘れないよ。……それに、オレは誰よりも長生きだからね、『待つ』なんてお安いご用なのさ」



 笑い合う2人に、爽やかな風が吹き抜けていった。





  ◇


 クインヘルが帰国を決めたのは、それからわずか2日後の事だった。

 彼女は最後の挨拶に城を訪れ、エンカとシンレス、そしてランティスが見送るため顔を揃えた。


「もう少しゆっくり行っても……」

「いや。アイシェルの死は父にも伝わっているだろうから、説明は早くした方がいい。これ以上、ローダとの関係を壊す訳にもいかないしな」


 心配そうなエンカをよそに、クインヘルははっきり答える。

 大切な王太子を失った父王が、ローダに何をするか分からない。……しかし、賊の襲撃があった事も伝えなければならない。その主導者が、誰だったのかも。


 クインヘルの台詞に、ランティスは息を深く吐くと腕組みをした。


「しかし、徒歩で帰るとは……せめて馬を用意させるか?」

「いや、わたし1人では乗れないし、来る時は自力で来てたんだ。帰りだって、ちゃんとやれるさ」


 腕を曲げて、3人へ力こぶを見せる逞しいクインヘル。勝ち気な彼女へ、せめてもの餞別(せんべつ)に道中でも食べれるものと金貨を持たせた。


「無理せず、乗り合い馬車に乗れるなら乗りなね」

「分かった分かった。……それじゃ、わたしは行くよ。本当に世話になった。みんな、元気で」


 クインヘルはわずかに手を振ると、金髪をひるがえし颯爽と旅立っていった。





 エンカは徐々に小さくなっていく背中へ手を振り続け、彼女の行く先をぼうっと見つめていると、


「エンカ」


 背後から声をかけられた。振り返ると、神妙な面持ちをしたランティスと目が合った。


「せっかく取り戻せたのに。帰っても心無い仕打ちを受けるかもしれないと、説得して留まらせる事も出来たはずだ」


 ランティスの言う事は分かる。けれども……エンカは首を振った。


「クインヘルは絶対女王になる。最後の王の子だからとかじゃなく、多くの人に望まれて、頂点に立つ」


 明確な根拠は無いが、今まで一緒に暮らしてきた時間がそれを確信させた。


「もう一度……いや、今度こそクインヘルを妻として迎え入れる。それを心の支えにして、これからも生きていくよ」


 寿命という自然な輪から外れた自分が、これから起こるであろう親しい人の死に……どれほど耐えられるか分からない。

 だからこそ、いつか美しく立派になったクインヘルと再会する、その希望を胸に抱くのだ。


 エンカはふいに、旗の布を(くく)っている(ひも)に手をかける。広げた布が風にあおられ、青空の下に広がった。


 旗を見上げてうっすら笑い、優しく語りかける。


「こんなオレを認めてくれるかい? フレイア」


 問われた軍旗(フレイアキル)は、エンカの呟きを肯定するかのように一際強くはためいた。





皆様、読んでいただき、本当にありがとうございました

今話は最終回ですが、最後エピローグを加えて幕を閉じたいと思います

エピローグは12月30日、0時頃に更新したいと思いますので、よろしくお願いします


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