47話 【閑話】戦士のひととき
本編であって本編ではない、閑話のようなもの。
よって話は短いです
レイカと別れたランティスは、自らの居住地である王城の……見るも無残な状況を見た。
決戦の地であった事は明らかな、流れた血が異臭を振り撒く空間。そこに2人の男が転がっていた。
ランティスはそのうちの、息がある方の男へ近付き膝をつく。血に塗れた顔を覗き込むと、目玉がギョロリと動いた。
「おっと。目ぇ覚めてたか」
「なんで、ここに……」
うろんな表情でランティスを見上げるシンレス。
彼はしばらく考え込むと、どこか合点がいったような顔つきになり「あぁ……」と声をもらした。
「お前も、死んだのか……?」
「バカ。ここはあの世ではない。死んだのはあいつだけ……お前は生きてるぞ」
呆れ調子で言われたシンレスは、時間をかけて手を動かし、顔の右側に触れた。確かめるような手つきで目の周辺を探り、次に左耳へと手を動かしていく。
潰されたはずの目は色を鮮やかに映し、抉られたはずの耳は復活し、聞こえ方も以前と遜色ない。
奪われたはずの言葉も、いつの間にか取り戻していた。
「なんでオレは生きてんだ? ……誰か来てたような気がするけど……」
「あいつ、何も言わずに行ったのか。ひとまず立てるか?」
ランティスは手を差し出す。しかし、シンレスはその手を借りずに、自力で上体を起こした。
「……なんか、銀色のふわふわした毛がついてるし……」
シンレスは体を起こした拍子に見えた、きらきらする動物の毛らしきものを摘まみ取る。
「お、ヒュウに懐かれたか。いいなぁ、オレなんか噛みつかれたぞ」
ランティスは自嘲気味に笑い、シンレスに衣服に血が滲んだ腕を見せた。
きっと、レイカが治療を施している間にじゃれて遊んでいたのだろう……。ランティスはその様子を想像して苦笑した。
次いで、ランティスの視線は、もう一方の倒れている男へ向けられた。
「そいで、こいつの正体は何だったのさ」
ごろりと転がった物言わぬヒト……すでにあの世へ旅立った、クライズである。
シンレスも王弟に倣い骸を見遣ると、1つため息を吐いた。
「平たく言えばオレの縁者。オレん家の分家の人間らしい」
「へえ……!」
ランティスは驚きと意外が入り交じった声を出しながら、目を丸くした。
「関係者だというのに、お前はピンともこなかった訳だ」
「そうだな。姉上からも聞いた事が無かったし」
「姉上……。ああ、ローズさんか」
本名、ローズクローネ・アインスタベルト。
シンレスの実姉であり、アインスタベルト本家一族の現当主である。
昔は戦争屋のような「ならず者」で有名だったアインスタベルト。
よくも悪くもその能力を国に買われ、今は拠点を帝政に移し敵国側からローダを守るという、いわば諜報員のような、はるか遠い重要任務についていた。
「ところで、ローズさんは元気?」
「さぁな。訃報は来てないから生きてるだろ」
素っ気ない返答に、ランティスは再び苦笑を浮かべる。
「もう行くぞ。エンカ達もじきに帰ってくるだろうし」
「エンカ、どこかに出ているのか?」
「ああ。珍しくラシュタードの奴も張り切っててさ。2人で追っかけにいったよ」
シンレスもようやく立ち上がり、歩き始めようとした矢先、ランティスは唐突にあ、と声を出した。
「お前の関係者となると、奴の死体は預けた方がいいか?」
「いや。迷惑だ。適当に埋めておけ」
死体を押し付けられても困るし、同じ家名でも本家と分家は相容れない……。シンレスは、きっと姉も「よきにはからえ」とか言うだろうと想像する。
現当主の弟がそう言うので、ランティスは衛兵を呼び、クライズの死体処理を任せた。
「早く出よう。ここは空気が悪すぎる」
「……オレも、外の空気吸いたい」
戦士として慣れたものでも、時間がたった血の悪臭はあまり嗅ぎたくない。
2人はエンカらの出迎え、もといここからの脱出をすべく、外へ歩き始めた。
次回、最終話です
エピローグも入り、残り2話となります




