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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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47話 【閑話】戦士のひととき

本編であって本編ではない、閑話のようなもの。

よって話は短いです




 レイカと別れたランティスは、自らの居住地である王城の……見るも無残な状況を見た。

 決戦の地であった事は明らかな、流れた血が異臭を振り撒く空間。そこに2人の男が転がっていた。


 ランティスはそのうちの、息がある方の男へ近付き膝をつく。血に(まみ)れた顔を覗き込むと、目玉がギョロリと動いた。


「おっと。目ぇ覚めてたか」

「なんで、ここに……」


 うろんな表情でランティスを見上げるシンレス。

 彼はしばらく考え込むと、どこか合点がいったような顔つきになり「あぁ……」と声をもらした。


「お前も、死んだのか……?」

「バカ。ここはあの世ではない。死んだのはあいつだけ……お前は生きてるぞ」


 呆れ調子で言われたシンレスは、時間をかけて手を動かし、顔の右側に触れた。確かめるような手つきで目の周辺を探り、次に左耳へと手を動かしていく。


 潰されたはずの目は色を鮮やかに映し、抉られたはずの耳は復活し、聞こえ方も以前と遜色ない。

 奪われたはずの言葉も、いつの間にか取り戻していた。


「なんでオレは生きてんだ? ……誰か来てたような気がするけど……」

「あいつ、何も言わずに行ったのか。ひとまず立てるか?」


 ランティスは手を差し出す。しかし、シンレスはその手を借りずに、自力で上体を起こした。


「……なんか、銀色のふわふわした毛がついてるし……」


 シンレスは体を起こした拍子に見えた、きらきらする動物の毛らしきものを摘まみ取る。


「お、ヒュウに懐かれたか。いいなぁ、オレなんか噛みつかれたぞ」


 ランティスは自嘲気味に笑い、シンレスに衣服に血が滲んだ腕を見せた。

 きっと、レイカが治療を施している間にじゃれて遊んでいたのだろう……。ランティスはその様子を想像して苦笑した。


 次いで、ランティスの視線は、もう一方の倒れている男へ向けられた。


「そいで、こいつの正体は何だったのさ」


 ごろりと転がった物言わぬヒト……すでにあの世へ旅立った、クライズである。

 シンレスも王弟に(なら)(むくろ)を見遣ると、1つため息を吐いた。


「平たく言えばオレの縁者。オレん家(アインスタベルト)の分家の人間らしい」

「へえ……!」


 ランティスは驚きと意外が入り交じった声を出しながら、目を丸くした。


「関係者だというのに、お前はピンともこなかった訳だ」

「そうだな。姉上からも聞いた事が無かったし」

「姉上……。ああ、ローズさんか」


 本名、ローズクローネ・アインスタベルト。

 シンレスの実姉であり、アインスタベルト本家一族の現当主である。


 昔は戦争屋のような「ならず者」で有名だったアインスタベルト。

 よくも悪くもその能力を国に買われ、今は拠点を帝政(ラーダ)に移し敵国側からローダを守るという、いわば諜報員のような、はるか遠い重要任務についていた。


「ところで、ローズさんは元気?」

「さぁな。訃報は来てないから生きてるだろ」


 素っ気ない返答に、ランティスは再び苦笑を浮かべる。


「もう行くぞ。エンカ達もじきに帰ってくるだろうし」

「エンカ、どこかに出ているのか?」

「ああ。珍しくラシュタードの奴も張り切っててさ。2人で追っかけにいったよ」




 シンレスもようやく立ち上がり、歩き始めようとした矢先、ランティスは唐突にあ、と声を出した。


「お前の関係者となると、奴の死体は預けた方がいいか?」

「いや。迷惑だ。適当に埋めておけ」


 死体を押し付けられても困るし、同じ家名でも本家と分家は相容れない……。シンレスは、きっと姉も「よきにはからえ」とか言うだろうと想像する。


 現当主の弟がそう言うので、ランティスは衛兵を呼び、クライズの死体処理を任せた。


「早く出よう。ここは空気が悪すぎる」

「……オレも、外の空気吸いたい」


 戦士として慣れたものでも、時間がたった血の悪臭はあまり嗅ぎたくない。

 2人はエンカらの出迎え、もといここからの脱出をすべく、外へ歩き始めた。




次回、最終話です

エピローグも入り、残り2話となります


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