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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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43話 罪の無い人:再戦 ~3~

やっぱり名前がややこしいですが、

今話で終わります




 ジャッツリュードの手から、複数の小剣が放たれる。

 ジェッゾフィールは1歩踏み込み剣で叩き落とすも、何本かは体を掠めて通りすぎた。


 なにぶん、視界が狭い。左目だけでは捉えきれない攻撃にジェッゾに苛立ちを募らせた。



 対峙を続ける最中、ジャッツの戦法が分かってきた。彼は中距離を保ち続け、ジェッゾの時間切れを狙っているようであった。


 持っている長剣は、あくまで距離を取らせるためのものだと推測。

 元々の戦闘力はさほどないと確信したジェッゾは、足に渾身の力を入れ、ジャッツの懐へ飛び込んだ。


「おおっと……!」


 脇腹を狙ったが弾かれてしまう。少し狼狽を滲ませた声を右耳に捉えながら、その場で踏ん張り、再度腹を狙う。


 しかし、突き攻撃はかわされ、逆に左足を刺され傷を負わされてしまった。


「ヴ……!」


 ドン、と重くなる感覚に、膝をつきそうになる。

 しかしその隙をつかれ、腹を蹴られたジェッゾは床に転がった。


 自然に止まるまで転がり、やがて苦しげに(うめ)きながら、時間をかけて剣を杖代わりに立ち上がった。


 息はしているが、今にも止まりそうなほど浅く、目、耳、口……3ヶ所からの止まらぬ出血のせいで、上半身はすでに真っ赤であった。



 しかし、ジェッゾはこの時、不思議な感覚に陥っていた。

 ルリカに手を出されたという怒りはいつの間にか消え、今やこいつだけは殺さなくては……という義務感に突き動かされていた。


(そうだ……)


 戦いながら思う。これは義務だ。

 こいつを生かしておけば、必ずまた誰かが狙われ、傷ついてしまう。


 ルリカ。エンカ。クインヘル。ランティス。ラシュタード。エルザ……。


 走馬灯のように次々と浮かぶ、大切な仲間達の顔。

 彼らが生きていく、晴れ渡る空の、美しいこの世界に。

 こいつは置いていけない━━



「ハァ━━」


 遠退く意識を、呼吸で引き戻す。

 だから。

 だから必ず、ここで倒す。自分が死んでも。





 ━━しかし、そんな決死の思いに、現実が立ちはだかる。


 ゆらゆらと、もはや構えも姿勢も定まらぬジェッゾフィールを見て、ジャッツリュードは長剣を持ち直した。


「そろそろ限界だろう。さぁ、最期の時だ。数多の憎しみを受けながら死ぬがいい」


 ジャッツリュードは赤目をギラつかせながら、中距離を捨て、近付いてきた。

 勝利を確信しているのか、動きは緩慢で余裕を見せつけている。



 意識を失いそうになりながらも、ジェッゾフィールはどうにか剣を握り直す。

 近付いているはずなのに、どこか遠く聞こえる足音……。

 首を落としに来るだろう……その一瞬に、かける事にした。


 腰を落とし、敵の攻撃に備える。


 対するジャッツは慢心ゆえ、その乾坤(けんこん)一擲(いってき)の構えに気付かない。



 互いの剣が射程圏内に入った瞬間━━ジェッゾは左目をカッと開いた。


 上から銀閃が降ってくる。確実に命を刈りにきた凶器を、ジェッゾは横に打ち払った。


「なに……っ」


 激しい金属音に加え、火花が散る。

 まだやりあえる力があったのかという、ジャッツの狼狽が耳を掠めた。


 瞬間、互いの目がぶつかる。

 余裕だと思っていたのに、予定が狂い憎々しげに歪む赤瞳と、 もはや、自分の生存は頭に入れていないがゆえ冷静な灰瞳。


 後者の男、ジェッゾフィールは力を振り絞り、もう1度剣同士をぶつけた。


「ヴゥ゛アア!!」


 渾身の1撃は剣を弾き飛ばし、ジャッツを無手の状態へと追い込む。

 ジェッゾは歯を砕けんばかりに食い縛り、両手で、剣を振り上げた。


「ク、ソがぁぁあッ!」

「ヴ、オ゛オ゛オ オ オ オ ア゛ア゛!!」



 回避も防御もままならず、後ろに(かし)いだジャッツの体を、雄叫びをあげながら大きく袈裟に斬り伏せた。








「ガ━━ハ……ッ」


 胴体をななめに斬られ、血を撒き散らしながら━━ジャッツは仰向けに倒れる。


 敵の打倒を見届けたジェッゾもまたついに力尽き、剣を落として膝から崩れるように倒れ込んだ。







  ◇



 しばらくの静寂のあと、ジャッツリュードが重々しく口を開いた。


「……おい、まだ、生きてるか?」


 死に際の、力の無い問いかけ。

 (うめ)く気力も残っていないジェッゾは身動(みじろ)ぎで生存を伝えた。

 かすかな衣擦(きぬず)れの音を聞いたジャッツは、1度息を吐いてから話し出した。


「お前に言う事がある。……お前はもう、誰にも恨まれてないよ」


 そのまま、口早に続ける。


「もちろん、最初は全員恨みの塊だった。けれど、大半の奴らは、お前の行いを認めて……天へと還った」


 ジャッツはゴホッ、と1つ咳き込んだ。


「あれほどいたのに、結局最後まで残ったのはたった3人……。ひでぇよなぁ……協力してやったのに……」


 天井をぼんやり見ながら、少し恨めしげに呟く。


 3人……ジェッゾが受けた霊障の数と同じである。

 つまり、もし全員残っていたら135撃……体を切り刻まれていたかもしれなかった。


「その3人も、さほど強い恨みを持っちゃいない。お前が最後に犯して捨てたあの女の子も、お前の行いに納得してきちんと還った」



 穏やかに告げられる事実を聞きながら、ジェッゾは涙が出そうになった。

 ごめんなさい、許して欲しいと、自分が何年も苦しんで求めた救いは、報われていたのだ。



 そんなジェッゾの心情を察したジャッツだが、どこか下らなそうに息を吐いた。


「今さらこんな事、どうでもいいか。もう手遅れだ、オレも……お前も。ま、あの世に行ったら土下座でもしてあいつらに謝るんだ……な……」




 そう言い残して、ジャッツリュードは事切(ことき)れた。





  ◇


 ジャッツが死したあと、ジェッソフィールも力を振り絞り、仰向けになる。



 ジャッツリュードの言う通り、自分もじきに死ぬ。

 まだ巫女の恩恵が効いているのか、痛みはなく実に穏やかな死であった。

 最期に彼女らの事を聞けてよかったし、目的は果たせた。思い残す事は無い。




(ああ……けれども……)


 ルリカの事はやっぱり心配である。

 どうか、自分を忘れて……違う誰かと歩んでほしい。彼女の幸せを願わずにはいられなかった。



 疲労感はあるものの、不思議な安堵感に包まれながら、瞼を下ろすと同時に意識が途切れた。





今さらなんですが

いちどって「1度」と「一度」どっちが正しいんでしょうかね?

こんがらがっちで分からなくなります

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