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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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42話 罪の無い人:再戦 ~2~

名前が引き続き紛らわしいです

残酷表現、流血表現ありますのでご注意!


当方、ネット環境がスマホしかなく、今話の濁点表記(パソコンの)がどのような表記になっているか分からないので、読みづらかったらすみません




 きっかけは、ずいぶん前まで(さかのぼ)る。

 シンレスはランティスとの鍛練の最中、腕を斬られ怪我をした事があった。手当てを終え、城内を歩いていた時、王家に仕える星詠みの少女と出会い「痛みの消去」という施しを受けたのだ。




 そして、クライズへの対処を考えていた最中に思いつく。



 少女は、苦痛を消し去る、いわば麻酔のようなものだと語っていた。

 ……もし、それを「痛覚遮断」という形で応用出来たら……。これは使えるのではないか(・・・・・・・・・)と考えた。



 しかし、星詠みの巫女は王の所有物。あの時は巫女の方から来たが、普通は簡単には近付けない存在である。恩恵を受けるためには王、もしくはそれに連なる者の許可が必要であった。


 よって、奴がローダを離れるであろう今日、シンレスは手近にいるランティスに話をつけようとした。



 ……そこでまず得たのは。

 渾身(こんしん)の拳だった。


 不意打ちに近い殴打に倒れはしなかったが、ふらふらと後退を余儀なくされる。打たれた左頬を押さえながら顔をあげると、(まなじり)をあげ怒りの形相を浮かべるランティスと目が合った。


『バカかお前はッ! 痛みが分からないという事がどういう事か、分かって言ってるのかッ!?』


 激しく問われたシンレスは表情を曇らせる。


 痛覚を遮断するという事は、生命の危機管理が出来ない……「引き際を見失う」という事である。

 傷が浅いのか深いのか……その深刻さを量れない。体の悲鳴を受け取る事が出来なくなるのだ。


 ランティスは返答を聞くより前に、勢いよくシンレスの胸ぐらを掴んだ。


『あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ないッ!! お前も戦士ならッ、その判断は絶対にしないはずだ!』



 鬼気迫る表情で、シンレスをさらに責め立てる。

 せめて……生きて帰ってさえすれば傷を癒し、もう一度体勢を立て直す事だって出来るのに、その見極めすら難しくなると訴えた。


 対して、シンレスは表情1つ変えずに聞いていた。ランティスの言いたい事は理解している。

 けれども……と、息を吐いた。



『……そうだな。でも、もう時間が無い。選ぶ時間も、策を練る時間も、修練を積む時間も。だから、今あるもので挑むしかないんだ』



 再戦を挑めばクライズは間違いなく過去を突きつけ動揺を誘うだろう。

 記憶は捨てられない。やったことは戻せない。

 動揺は痛手になり、致命傷となり、今度こそ殺されるだろう。そうならないように、せめて「痛み」という隙を晒さぬようにする事が対抗策だと考えた。




 ランティスは、落ち着いてもっともらしく語る彼の台詞に流されそうになって、慌てて頭を振った。


『それは挑戦ではない。諦念(ていねん)だ』


 捨身だ、と胸ぐらを掴む手に力が入ると同時に、悔しそうな、歯痒そうな表情を浮かべる。

 王弟の珍しい反応に、シンレスはふっと淡い笑みを(こぼ)す。そして、


『……頼むよ』


 短く(りき)みが抜けた、覚悟を告げた。


『……ッ!』


 ランティスは歯を食い縛る。言葉にならない激情そのままに、再びシンレスの頬を殴りつけた。




  ◇


 結局、ランティスにはあのまま立ち去られ、たまたま通りかかったらしい王妃に手招きされる形で星詠みの恩恵を受ける事が出来た。

 そして、痛覚遮断の効果は約1時間。効力が切れれば、抱えた痛みすべてが襲ってくるという。




 ジェッゾフィールは剣を握り直しながら、呼吸を整える。

 すでに右目を潰されるという大怪我を負ったが、押しきれれば問題ないだろうと思い、残った左目で相手を睨んだ。



 問題は先ほどの攻撃だ。

 距離は変わらず離れているし、奴が剣を振るったり、何かを放ったりした動作は無い。

 そしてなぜか、傷口は固まる事なく、流れる鮮血が頬を伝い顎先から(したた)り落ちていた。


 不可解だが、傷を負ったのも事実。ジャッツの動向を注視しながら打開策を考えていると、この攻撃の正体がすぐに明かされた。


「霊障だよ。怨霊(こいつら)はお前に直接手出しは出来ないが、オレと接敵している場合のみ、オレを通してお前への攻撃が可能となる。……怒りの具現なんだよ、その傷は」


 積もりに積もった呪いの1撃━━だから、傷が塞がる事はない。

 一度関わり、同調を許したからこそ出来る、怨霊側の復讐であった。


 ジェッゾは奥歯を噛み締める。1対1なら問題ないと踏んでいたのに、まさか援護射撃があるとは思わなかった。



 ……しかし、思っていたより、自分が冷静になれている事に気がつく。

 殺した彼女らの事を忘れた訳ではない。ただ、自分にも「ルリカのため」という大義名分がある。

 それに加え痛覚がないおかげか、落ち着いて対峙する事が出来ていた。





 しかし、流れは依然としてよくならない。

 左耳に、何かがぶつかったような衝撃が走った。


「づ……!」


 横殴りに抉られるような感覚に頭がぐらつく。左側が何も聞こえなくなり、次の瞬間には気持ちの悪い、(ぬめ)る感触が首筋を覆っていった。

 確認するまでもない。霊障である。


「1撃で終わると誰が言った? ……さて、次はどこを失うのかな?」


 ジャッツは妬みを募らせていた相手の瞠目を見れて、楽しそうに語った。


「この程度で……!」


 対して、ジェッゾは吐き捨てるように言う。

 痛みはない……巫女の異能はきちんと作用して、役に立っている。

 しかし、問題も多かった。傷口が凝固しないので必然的に多くなる出血と、感覚の麻痺だ。


 目と耳を片側ずつ潰され感覚があべこべになり、平衡感覚を失って倒れそうになる。

 両足に力を入れ、床の感覚を頼りに踏ん張って堪えた。



 この程度、戦争を経験し、傭兵業をやっていればいくらでもある事。

 ……そもそも、こうなっても(・・・・・・)いいように(・・・・・)痛覚を閉じてきたのだ。


 これ以上、奴を調子に乗らせる訳にはいかない。


「はああぁぁぁ!」


 ジェッゾは斬りかかりながら声を張り上げた。

 その瞬間、




「━━━━━━!!」



 急に足を止め、声にならない悲鳴と共に口を押さえた。


 手で覆った口から……押さえた指の隙間からダラダラと血が流れていく。


「……ッ、ゥ、ゥエ━━」


 やがて喉が詰まり息が出来なくなって、九の字になりながら口の中に溜まっていくものを吐き出した。


 ━━ビシャ……ッ!


 液体が床に打ちつけられる音に、ハッと目を見張る。

 赤のインクをぶちまけたような、大量の血が散らばっていた。


「ぁ゛ア゛……ッ!?」


 困惑の声を出すも、(うな)り以外、発する事が出来ない。

 口が血で満たされただけではない、音を言葉に変換するものが欠けたのだ。


「舌を切られたか」


 ジャッツリュードは冷静に見遣る。

 3撃目の霊障が、舌を切断したのだ。


「ヴ ゥ、ア゛ア゛……ッ」


 油断すると、たちまち呼吸が出来なくなる。

 ジェッゾは曲げていた体を起こし、懸命に繰り返す荒い息のままジャッツを見た。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」


 

 そして、剣を振り上げ再び駆け出した。



 鋭い銀閃が、ジャッツの体を捉える。

 しかし彼は、余裕な笑みを浮かべて一太刀を受け止めた。


「ハハッ。本当に狂人だなお前は」


 瞳孔が開ききった決死の形相に、ジャッツリュードは嗤い声をあげる。

 そんな嘲笑を無視して、ジェッゾはすぐさま二太刀目を繰り出した。



 口を閉じる事も、飲み込む事も出来ずに垂れ流しになる血は、剣戟と共に放物線を描いていく。

 激しく甲高い音をたてながら、ジェッゾフィールは敵の首を捉えんと剣を振るい続けた。




 その、必死に食らいついてくる様子に、ジャッツは舌打ちをした。


「この……っ、気狂い野郎が……ッ」


 無痛とはいえ出血はおびただしい。戦闘はおろか生命活動すら危ういはずなのに、(ゆる)まぬ攻勢につい悪態が飛び出た。



「グ ゥ ゥ ア゛ア゛ゥ゛ッ!」


 ジェッゾは吼える。それに同調するように、剣に乗る力も増していく。


 ……この勝負、急がなければならなくなった。

 恩恵の時間も残り少なく、止まらぬ出血で命の危機も迫る。



 ジェッゾは決意をしてここに来た。

 相討ちになったとしても、今日、この場で、必ず倒す。





「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」



 渾身の剣戟が響く。


 こいつは、ルリカのいる世界に残してはいけないのだ。





シンレスバトルはあと2話くらいで終わります

そのあとはエンカバトルに入ります


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