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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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41話 罪の無い人:再戦 ~1~

ジェッゾやらジャッツやら

名前がすこぶるややこしくなってしまいました


あと流血表現が出てきますのでご了承ください


11月21日、PM5:34 本文改稿





 満を持して正体を明かしたというのに反応乏しいシンレス(ジェッゾフィール)に、クライズ(ジャッツリュード)はつまらなそうにため息をついた。



「兄弟の再会ですよ? もっと感動的になっても━━」


「知るか。……ジャッツリュードと言ったか。お前の名は我が家でも聞いた事が無い……何故その名を(かた)る?」



 ジェッゾは目を細める。

 自分には一応……家督を継いだ姉がいるが、その姉からも彼の存在は聞いた事は無かった。


 自身の親類縁者だと到底思えず、疑いの目を向けていると、ジャッツはわざとらしく肩を落とした。


「なんてヒドい言い草。……まぁ、お前とオレとじゃ立場が天と地ほどある。知らなくても仕方ないものではあるか」


 ため息と共に、自嘲を含んだ呟きをもらす。



 アインスタベルトという同姓でも、ジェッゾフィールは本家の、ジャッツリュードは分家筋の人間であった。

 そして、本家と分家の間には、認識や方向性の違いにより大きな隔たりがある。「上から下へ」は歯牙にもかけぬ存在だが、「下から上へ」は嫉妬と羨望の対象であった。



 それにより、ジェッゾフィールは彼の事なぞ知らないし、反対にジャッツリュードは彼の存在を聞かされながら育ったのである。





 クライズ……ジャッツリュードとは誰か。その関係は分かった。しかし……。

 ジェッゾは無言で剣を構えた。


「お前が何者かなんて知ったところで━━」


 ジェッゾの体がゆるりと動き━━再び、剣戟が甲高く響く。

 何を聞かされても、やる事に変更は無い。抹殺である。


 互いに押し負けぬように、ギリギリと拮抗する。

 やがて、ジャッツリュードは自分の剣をジェッゾの剣に沿って(すべ)らせ、火花と不快な金属音をたてながら横に振り抜いた。


「く……っ」


 首を狙った横殴りの攻撃を、ジェッゾは体を反らして避けるも、その隙に再び距離を開けられてしまう。


「チィ……」


 悔しげに歯噛みし、もう1度斬り込むべくそのまま大きく踏み込む。剣を振り下ろす瞬間、ジャッツはおもむろに口を開いた。



「血気盛んなのはいいけど、そろそろお前の凶行を誰に聞いたかとか気にならない?」



 剣同士の衝突音が響いたのは、言い終えたあとであった。

 直前の暴露に僅かながら動揺したジェッゾは、乱れた剣筋の隙をつかれ突き返されると、腹に蹴りを入れられた。


 ━━再度広がる、彼我の距離。


 接近と離脱を繰り返され、思うように進まない。……ジェッゾは徐々に苛立ちを抱えるようになり、ジャッツもまたそれを感じたのか、唐突に剣を持ったまま両手を広げた。



「オレにはな、とっても有能な『協力者』がいるんだ。そいつらから全部聞いたんだ。殺した事も、犯した事も」


 赤い目を剣呑に揺らめかせ、ニコニコしながら煽るように語る。



「言っとくが、アインスタベルトの連中ではない。もっと……お前を知り、お前に恨みを持ち、何よりも殺したいと思っている奴らがいるんだ。……さて、そろそろ検討がついてもいいと思うが……?」



 言い終えると、ジャッツリュードは表情を無に変え、かくんと首を傾げる。そのまま強い視線で、察知を訴えた。




 それを見て━━ジェッゾフィールは顔色を変え、僅かに()(じろ)ぎした。


「そんな、わけが……」


 少しずつ、目を見開いていき、わなわなと唇を震わせ始める。やがて腕から力が抜けて、剣の構えも解かれた。


 ようやく気がついたらしい彼に、ジャッツは満足げな笑みをこぼした。そして、1歩ずつ彼へ歩み寄っていく。






「……4年だ。4年かけて、お前へ近付いた」


 近付いてくるジャッツリュードに気圧されるように、ジェッゾフィールは1歩ずつ後退りをする。


「……っ」


 声が喉奥に引っ掛かり、ジェッゾは思わず震えた。彼から発せられる言葉や行動が、急に恐ろしく思えた。


「そこに、いるのか……?」


 ようやく出た掠れた問いに、ジャッツは堪えきれず大声で笑った。


「理解出来たかぁ……? その通り。お前の敵は何もオレだけではない。何度許しを求めようとも、なお(ぬぐ)いきれぬ憎しみが目の前にあるんだ」




 そして、恐れを浮かべるジェッゾへ、ジャッツはとどめを告げた。


「惨殺された135人もの亡霊が、お前をずっと、ずっと見ていた。殺された時からな」



 瞬間、ジャッツリュードの背後がゆらりと揺れる━━無数の目を伴った影が、佇んでいるように見えた。







  ◇


 ━━ブシュ……ッ


 突然、ジェッゾフィールの目の前に、真っ赤な花が咲いた。

 右の視界が赤く塗り潰され、それ以外の一切を映さなくなった。

 自身を襲う異常に、ジェッゾは反射的に右目を押さえる。

 徐々に右頬が湿っていき……その覆った手の平についたものを見た。


「……ッ!」


 血だった。

 弾かれるように顔をあげた。相変わらず、ジャッツリュードとは距離が離れている。しかし、右目には剣の一太刀を浴びたかのような傷がつき、潰したのだ。



 呆然と手の平を眺めたが、ジェッゾはすぐさま我に返り、剣を構える。

 ジャッツはその様子に、すぐに違和感を覚えた。

 片目を潰されたというのに、絶叫はおろか(うめ)き声すらあげないのだ。



 ジェッゾフィールは顔こそ歪めているが、痛みに耐えているというより、離れた状態でも片目を潰されるという不可解さに歯噛みしているようであった。


 やせ我慢をしているようにも見えず、痛がる素振りをちっとも見せないジェッゾに、ジャッツはつまらなそうに目を細めた。


「お前には痛覚というものが無いのか……」


 半ば呆れたような呟き。




 その声を聞き、ジェッゾフィールは彼を睨みつけながら、ふとここに来る前の出来事を思い出していた。


 ふと、左頬に触れる。……実はランティスから2度ほど強く殴られていた。



 依然腫れは引いていないようで、触れると同時に、彼らしい覇気のある怒号と秀麗な面差しを苛立ちの表情に染めた、ランティスの顔が脳裏に(よぎ)った。




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