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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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40話 賭ける物、駆ける者




「あの馬車を追うべきだ。今すぐに」


 なぜそれを彼が言うのか。いつになく真面目な様子に、エンカは理解が追いつかず半ば呆ける。

 対するランティスは、険しい表情を浮かべて首を(ひね)った。

 


「それはどうして?」


 厳しい声音に、ラシュタードは1度頷いてから口を開く。


「多分クインヘルも疑問に思ったでしょうが、アナゼル側の、今さら娘を連れ戻そうとする意図が不審だという点。……それと、恥ずかしながら、オレはあの姫の術にかかっている」


 突然の告白に、ランティスはたまらず瞠目した。

 敵の術中にあるという、およそ騎士にとっての恥を(はばか)ることなく白状したのだ。


 そして、ランティスは腕組みをして記憶を掘り起こした。

 ……そういえば、アイシェル達が来訪した際、彼女から何やら微笑みを受けた気がする。


「あぁ、あの安っぽいウインクか」


 やがて、合点がいったように手を打った。

 あの時、彼女の視線は王とランティス、ラシュタードに向けられていた……あの中で1番耐性が無いエンカが標的にされなかったのは偶然か、幸運か。



「なぜ今さら報告を? 彼女と密会でもしていたのか?」

「それは無い。あの瞬間から抵抗は続けているし、今も影響はない。……こんな事をする奴が、姉を連れ戻すだけとは思えない」

「クインヘルの奪取がきな臭いと?」

「オレはそう考えます」



 はっきりした物言いに、ランティスは唸る。

 不審さはランティス自身も感じていた。しかし、実際にエンカとクインヘルの婚姻関係は無く、クインヘル自身も戻る事に難色を示してはいない。

 当事者達が皆納得していたから、特に口出しはしなかったのだ。



「追うと言っても、誰が行くんだ」

「クインヘルの耳に届かせるにはエンカが適任だと思う」

「エンカに追わせると? さすがに反対だ。旗手には万が一もあってはならない」


 不穏だと分かっているのに、旗手を向かわせるわけにはいかない━━ランティスは手を振って提案を拒絶する。

 しかし、ラシュタードは食い下がった。




「オレが一緒に行く。それならいいだろう?」


 エンカの同行に名乗りをあげる。

 ラシュタードは旗手の正護衛。何らおかしい事はないのだが、この申し出にランティスは眉根を寄せた。


「お前が、エンカを守ると……?」


 というのも、彼は正護衛でありながら、今までエンカを守護するという動きを見せた事がない。遠征中の護衛という、基本任務すら拒絶した男である。

 これまでの事もあり、この申し出はにわかに信じがたい……感情を隠せず、訝る視線と声音が表に出た。


 自分への不審を察したラシュタードだが、さらに踏み込んでいく。


「サイ家の誇りと、救国の乙女(フレイアキル)に誓って」

「……っ」


 ランティスは言葉に詰まり、苦い顔をした。

 ラシュタードは「家の取り潰しも構わない」という意思を示したのだ。そこまで賭けられては反対する理由が無い。



 やがて、グッと握り拳を作り、その拳と肩を震わせる。


「お前といいシンレスといい……。どいつもこいつも、言うこと聞かないバカばっかりだ……!」




 度し難い、といった様子で、ランティスは小さく吐き捨てるように呟いた。









  ◇



 ━━一方、クライズは帰国を決めたアイシェルらと合流しようと城内を歩いていたところで、シンレスからの強襲を受けていた。


「チィ……ッ!」


 手をつきながらも着地を果たし、苛立たしげな舌打ちが通路に響く。

 顔を上げた先には、眼光鋭い灰瞳の青年が剣を構えていた。


「オレもさっさととんず……ではなく、お(いとま)させていただきたいんだけどなぁ」


「うるさい」


 苦笑いを浮かべるクライズを、シンレスは冷酷に一蹴した。


 そして、シンレスは一気に駆け出し、上から下へ剣を振り下ろす。単調だが力が乗った、隙の無い一撃に、クライズは受け止めるも再び苦悶の声をもらした。



「オレはもうお前と話す気はない……今日ここでお前を抹殺する」

「つれないな。そろそろオレが誰なのか気になるだろ?」

「……」


 シンレスは口を閉ざしたまま剣を押し込んでいく。


 正体は何だとか、目的は何だとか問いただすべき点はあるが、今やそんな事はどうでもいい。

 ……ルリカに手を出した。

 シンレスにとってその事実は許し難く、彼は何よりも排除すべき悪であった。




 そのままギリギリと、(つば)()り合いの状態になる。

 やがて、クライズはシンレスの一閃を弾き返し、軽やかに飛び退くと、嘲笑うように目を細めた。




「いいから聞いてくれよ。いい加減、クライズと名乗るのも飽きたんだ」



 何とも楽しそうな声を出しながら、屈めていた体をゆるりと起こす。そして、初めて会った日のように胸に手を当て軽く頭を下げた。





「オレはアインスタベルトに連なる者でありながら捨てられた。……名をジャッツリュード。お前の縁者だ」



 クライズの赤瞳が異様な光を帯びる。


 シン(ジェッゾ)レス(フィール)は無表情を貫いたが、それでも隠しきれぬ動揺に(かす)かだが眉が動いた。




次回から、残酷表現、流血表現が入る予定です


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