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不老でゆるりな国の命は、出先で隣国王女を娶って国に持ち帰る  作者: 鞘町
3章 彼方への愛は言うに及ばず
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35話 もう隠さないよ

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 翌日、ランティスとエンカはシンレスの家を訪れていた。





「再戦を希望する」

「君ならそう言うと思ってたよ」



 手を組み足を組み、椅子にふんぞり返って座るシンレスに、エンカはため息混じりに答えた。


 3人が集まっている理由は対クライズの、今後の方針や作戦の決定のためである。

 近いうちに、クライズはアイシェル達と共にローダを離れてしまうだろう。そうなる前に決着をつけなければならなかった。


「しかし、このまま行っても精神攻撃されて沈むのはお前だぞ。どうする気だ」


 シンレスと同じように腕を組んだランティスが、険しい顔をしながら問う。

 シンレスの敗因は、過去の罪業を想起させられた事。

 身体ではなく精神を強く(むしば)む記憶……クライズに挑み、勝利するためにはそれを克服する必要があった。


 ランティスからの指摘を受け、シンレスは頷いてから少し俯いた。



「……正直、それを乗り越えられる自信は無い。分かっていても、再び突きつけられたなら間違いなく隙になる。だけど、それを理由に負ける気は無い。次は勝つ。絶対にだ」


 最後は顔をあげて力強く語る。しかし、ランティスは彼をじろりと睨んだ。



「……つまり、今のところは無策って事だな?」

「その通り」



 具体的な策は無い……シンレスはあっけらかんと明かし、ニッと笑って返した。

 2人にしては珍しいやり取りに、エンカもつい苦笑いを浮かべてしまう。



「……勝てるのか? あいつに」

「純粋な腕ではオレの方が強い。ちゃんとした勝負になればまだ勝機もある」

「だがな、シン……」

「あれが奴のすべてじゃないと言うんだろ。まだ素性がはっきりしてない限り、油断はしないさ。……ランティス、いつから心配性になった?」



 戦士としての心得はとっくに知れてるだろうに。

 今さら何を言うのだとわざとらしく首を傾げてみせると、ランティスは吐き捨てるように鼻を鳴らした。



「バカ言え。相手が相手だから、何かあったら言及されんのはオレや兄貴なんだぞ。少しは神経質になるわ」

「大丈夫だ。アナゼル王国はアレスギアテスでの会議に欠席してるから、本当に平和を望んでいるかワカリマセーンって言えばいい」

「はっ倒すぞテメェ」




 ぎゃいぎゃいと言い合う2人。そんな姿を見ながら、エンカはふっと息を吐いた。


 同じ戦士として信じてはいるが、王弟と傭兵という立場を越えた友人同士である。

 それに加え、ランティスはシンレスの……『ジェッゾフィール』の件を知っている。

 戦時中に彼が何をしたのか、どうなったのか、何を考えたのか……。それがなおさら気がかりになっているのだと推測した。


 実際に口に出す事は無いが、どれほど時がたとうと相手に対する一抹の不安はあるのだろう……。




「まったく、素直じゃないんだから……」


 旗手の呟きは、2人の耳に届く事なく消失した。





  ◇


 話し合いを終え各自帰路につき、自宅へと戻ってきたエンカ。玄関にて一息ついていると、物音が部屋の奥から聞こえてきた。


 何かを探しているような、がさがさと(せわ)しない音に一瞬だけ身を強張らせる。


 ━━まさか、空き巣だろうか。



 もし相手が武器を持っていたのなら、全力で逃げなければならない……応戦も出来なくはないが、下手打って自分が死んだら、国ごと死んでしまう。

 内側からじわりと(にじ)む緊張で、エンカは旗を握り直した。


 用心して、玄関のドアは開けておく。退路を確保しておいてから、そろそろと物音がある場所へと向かった。






 音の出所である部屋のドアは開け放たれているようで、壁に寄りかかり身を隠しつつ慎重に、ゆっくり中を覗く。


 その中で、金色の長い髪が(せわ)しなく揺れていた。





「ク……クインヘル!? 帰ってきたの!?」


 その姿に、思わず中へ飛び込んでしまうエンカ。

 帰って来てくれたのだと声高に喜んだが、対する彼女は淡々と答えた。


「私物を取りに来ただけだ」


 よく見るとそこはクインヘルに割り当てた部屋であり、アナゼル王国へ帰るにあたり、荷造りのため一時帰宅したのだという。

 よく見ると、胸や肩につける防具が床に転がっている。それは刺客として出会った当時に、彼女が身につけていたものである。

 ……何でも、国を出る時に友人の父親に頼んで作ってもらったものらしい。




 その後も作業を続けるクインヘルに、エンカは声をかける。



「オレも手伝おうか?」

「いや、いい。1人でやるからどっか行ってろ」


 手伝いを申し出るもすげなく断られ追い出され、ついでにドアも閉じられてしまう。

 取り残されたエンカは、分かりやすくガックリ肩を落として部屋の前から離れた。






 しばらくして、エンカは再びクインヘルの部屋の前に立った。


「ねぇ、クインヘル。あの時……突き飛ばしちゃってごめんね」


 静かに話しかけるも、扉の奥からの返事は無い。しかし、クインヘルが耳を傾けてくれていると信じて続けた。


「君に旗を掴まれて、オレ、頭が真っ白になって……。君が乱暴する人じゃないって事は、オレも……フレイアも、分かっていたはずなのに」




 ━━ぴたりと。


 ここまで順調に進めていた、クインヘルの手が止まった。

 フレイア……今まで1度も聞いたことの無い、どう聞いても女性の名であった。


「誰だ? それは……」


 誰何(すいか)すると、息を飲む気配がした。

 クインヘルはドアへ近付き、ゆっくりドアレバーを下げ前へ押す。

 扉を少し開けると、旗をグッと握り締めているエンカと目が合った。


「フレイア、とは?」


 再び聞くが、変わらずエンカは口を閉ざしたままである。

 ある予感がして、クインヘルはおそるおそる聞いた。



「お前の……好きな人か?」



 ━━今もなお、忘れられない人がいるのか。

 ━━だから、正式に妻としなかったのか……。


 エンカは否定も肯定もせず、悲しげな微笑を浮かべるだけ。しかし、立ち去る様子も見せないので、さらに扉を大きく開けた。


「話して、くれるのか?」

「うん。……君の怒り、悲しみ、そして疑念に答えよう」


 覚悟を決めてきたであろう彼を見たクインヘルは体を傾け、中へ入るよう促す。

 エンカは部屋に踏み入れ、2人揃ってベッドへ腰をおろした。





  ◇



「今1番気になっているのは、フレイアの事だね?」


 穏やかに聞かれて、正直に頷く。

 この期に及んで嘘をついても仕方がない。知りたい……未練があるのなら、それでもよかった。

 直接聞くことに意味があるのだ。


「彼女は、本当は、フレイアキル・サイと言うんだ」

「サイ……!」

「そ。ラシュの妹。そして、オレの前任(・・)だった人」



 ラシュタードの妹がエンカの前任……先代の旗手であったと明かされる。


 やはり、旗手の代替わりは存在するようだ……クインヘルは、以前ラシュタードが語っていた事を思い出した。

 エンカが平和協定の報告のため騎士達の前に立ち、ラシュタードが護衛をサボって煙草をふかしていた時の事。


『━━君に白状するとね、オレはこの国すら嫌いなんだ。……妹の犠牲無しでは存続出来なかった国など、さっさと滅んでしまえとさえ思っている』


 ラシュタードが護衛の任を真面目にやろうとしないのは、エンカが嫌いに加えて国が嫌いだからと言っていた。

 そして国嫌いの理由が、妹の犠牲。


 彼の言い方だと、フレイアキルという女性は……。


「その人は、もうすでに……?」


 神妙に聞くと、エンカがふと視線を落とした。


「いや、いるんだ。今も、ずっと……」


 その先には、彼が常に持つ軍旗がある。





「フレイアはローダを救う奇跡を受けるために、この旗へと身を転じた。そして、次はオレの番だ」






これを最後に、不定期に戻ります

最近やたら難産なので、早くて週一ペースかと思います…


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