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21話 元巫女と元王女 ~2~


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 ━━暗い、暗い森の中。

 一家は終始無言で草を踏み抜き、風は何とも言えぬ腐臭を運んでいた。


「当然、わたしも死ぬのだと思っていました」


 父の決断に、家族の行動に、疑問を持つことはなかった。

 家族間の結束が強い星詠みの一族。家族と共に果てるのは当たり前だと思っていたからだ。

 前を歩く父のあとを、従順についていく家族。ルリカもまた、はぐれないよう歩く。


 それでも、ルリカは何かにすがるように、天を見上げた。


 誰にもバレないよう、こっそり占ってみる。

 これから死する運命━━決定された運命の中、わずかな傾きが見られたが、歩きながらであり些細(ささい)なズレだったので、きっと見間違いだと言い聞かせた。




 そして、心中するための場所が決まり、準備に入った。

 父が、首吊りのための縄を用意している。きっと(みにく)い最期となるだろう。


 それに、少しでも苦痛を紛らわせるために服用した鎮静剤のせいで、少し頭がボーッとしている。

 綺羅星(きらぼし)を見つめながら、綺羅星のもとへ行くのも悪くない……ぼんやり思いながら、やがてルリカは父が用意した縄へ首を(くく)った。



 ……(いな)(くく)ろうとして。

 


「そこに……」


 わずかに目を伏せるルリカ。

 (たくま)しい、男の人の声が脳裏に鮮明に浮かんでいた。



 ━━こいつはオレが引き取る! お前らの死に、こいつを巻き込むな!





「そこに通りかかった人……シンレス様に助けられて、一緒に住むようになったんです」


 再び瞼を押し上げ、クインヘルへ微笑む。

 言葉を失うクインヘルが不思議に思うほど、ルリカは滔々(とうとう)と語ってみせた。


 


「つらく……なかったのか?」


 クインヘルは、どうにか絞り出して言う。

 自分とは違う状況だが、つらい事には変わらない。

 没落した事実。死を選んだ家族。その決定に従い、命を絶とうとした瞬間自身は連れ去られ、結果生き残る結果となった事は苦痛ではなかったのかと、ルリカへ聞いた。


 聞かれたルリカはしばらくの沈黙ののち、口を開いた。


「……でも、そのおかげでわたしはシン様と会えたんですから。今はとても幸せです」


 星々がこっそり教えてくれた運命の人。

 あの日見た運命のズレは、見間違いでも気のせいでもなかったのだ。


 愛らしく笑うルリカに、クインヘルはふっと笑みを(こぼ)す。


「なるほど……シンレスがルリカに()れているのも頷けるな」


 過酷な戦闘や任務をこなす傭兵業のシンレスにとって、ルリカの笑顔は究極の癒しなのだろう。

 唐突にしみじみと、何か思い至ったような表情を見せたクインヘルに、ルリカは目を丸くした。


「シン様が何か……?」

「一緒に旅をしていた時に、シンレスにルリカの事を聞いたんだ。そしたら、かわいいって言っていた」

「あの人がそんな事を?」

「寝入る寸前だったが、あれこそシンレスの本音だろう」

「あわ……そうですか……」


 顔を赤くして(うつむ)く仕草も何だか可愛らしくて、クインヘルはつい声をあげて笑ってしまった。






 そうして、2人で協力して作ったオムライスが完成する。


 皿に盛りつけられたそれは紛う事なき出来立て。美味しそうな匂いを運ぶ湯気がほわほわとあがっていた。



「わたしの方は、卵が少し破けてしまったな」


「不慣れにしては綺麗に出来てますよ。あとはもう少し具材の大きさを均等にしていければ……」


「サイズがバラバラだと火の通りも差が出るのだな。『割る』とか『切る』とか、単調な作業なら平気なんだけど、そこまで気を配る事が出来なかった。反省点だな」


「クインヘル様は真面目ですね。あとは実食……料理の醍醐味(だいごみ)といきましょう」



 昼にはまだ少し早かったが、作業で空いた腹を満たすべく椅子に座った。


 1人での力では無いが、初めて作ったオムライスを、クインヘルは嬉しそうに口へ運ぶ。

 数回咀嚼(そしゃく)し飲み込むと、目を見開いた。


「美味しいな。さすがルリカだ」

「それはよかった。次は1人で作れるよう頑張りましょう」


 ルリカもまた、喜んでくれている様子を見て、安堵したように笑った。

 そうして2人は、仲良く美味しく完食をした。






 昼食をとったあとは、食後のコーヒーも飲みつつ談笑する。

 やがて陽が落ち始め薄暮に差しかかったところで、ルリカが「あっ」と声をあげた。


「ん……あぁ、そろそろ夕食の支度か?」


 気がつけばいい時間。これ以上の滞在は迷惑になってしまう。


「はい。クインヘル様、今日はこのあたりで……」

「分かった。またよろしく頼むよ」


 このあと、ルリカはシンレスのために食事を作る……。

 その邪魔をするのは野暮というものなので、クインヘルはお(いとま)するべく颯爽と席を立った。




  ◇


 家に帰ると、窓から明かりがもれていた。先にエンカが帰っていたようである。

 ただいまと声をかけながらリビングに入ると、亜麻色の髪のゆるふわな少年が、ソファーに座って(くつろ)いでいた。


「おかえりクインヘル」


 妻の帰宅に、エンカは笑って手を振る。

 よく見ると、ソファー前のテーブルには湯気があがっているマグカップが置いてあった。

 何か温かいものでも飲んでいたのだろう。クインヘルも自分の分の紅茶を用意して、エンカの隣に腰かけた。


「今日は何してたの?」

「ルリカに料理を習っていた。一緒にオムライスを作ったんだ」

「そっか。クインヘルの手料理、楽しみにしてるよ」


 マグカップを手に、2人は今日の出来事を次々に話していく。




 そして、話題は明日の予定にと移り変わった。


「エンカ、明日はどうするんだ?」

「んー。明日はね、騎士達の前で演説するんだ。こないだの会議の報告をするためにね。城前の広場でやるんだ。クインヘルも見においでよ」


 争いが起きれば前線で戦う騎士達へ向けた、協定により平和が約束されたという報告をするための演説。それを、エンカが前に出て行うのだという。


「そういうのは国王がするものでは?」

「今回の相手は騎士団(身内)。国民が相手じゃないからね。それに、オレは王と同等だよ? オレの話を聞かない騎士はまずいない」


 自信あり気に語るエンカ。

 旗手は国王のように治世の権が無いだけで、大半の騎士からは平伏(ひれふ)されずとも敬礼される地位にはある。


 ……もっとも、旗手護衛でありながら、イマイチやる気が見られないラシュタードのような人物もいるが。


「そういうものなのか……。いいのか? わたしは部外者では」

「君は旗手の妻なんだから、大丈夫。立派な関係者だ」


 朗らかに笑いながら、エンカはマグカップを傾けた。


「オレの仕事を見るチャンスだよ。その辺うろうろするだけの放浪旗手じゃないって事を見せてあげよう」

「そっか。それなら、楽しみにしていよう」



 ニッと笑い合う新婚夫婦の夜は、そのまま穏やかに更けていった。






お読みいただきありがとうございます

我慢出来ない性格のおかげで書き貯めを吐き出してしまいました


また1から進めなければならないので、次回は未定となります


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