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20話 元巫女と元王女 ~1~


現在、夏に再開予定といいつつちょっとずつ更新している鞘町です。

結果的に嘘ついてる事になりますが、許してください。




 朝、起床したクインヘルは長い髪を()き、結わえ整えた。

 輝く金の色彩。少しクセはあるものの、その美しさは昔から定評があり、これは妹にも負けないものだと自負するものであった。


 顔には軽く化粧を施し、服装も胸当てなどの武装ではなく(そで)無しニットとスカート……王女だった頃のドレスの豪華さは無いが、少女らしい軽やかな格好に身を包む。


 夫のエンカはすでに外出していて「家を出るなら戸締まりよろしく」と、彼から家の鍵を預かっていた。

 そして言いつけ通り、クインヘルは玄関の鍵を閉め、出かけていく。


 今日は、ルリカから『妻とは何ぞや』を学ぶ日なのである。


 元王女のクインヘルに家事の経験は無く、世話役がいない一般人の家に嫁ぐのにそれでは不便だろうと、エンカがルリカに申し入れたのだ。

 ルリカは目を丸くしたものの快く応じ、クインヘルにとってもありがたい事だったので、先生となるルリカへ素直に頭を下げる事となった。



  ◇


 そうして、クインヘルはルリカの家を訪ねる。

 扉のノックしてしばらくすると、赤毛の女性が笑顔で出迎えた。


「お待ちしてました。クインヘル様」

「今日はよろしく頼むよ。ルリカ」


 相変わらず可愛らしいルリカに、クインヘルもつられるように笑うと、家へ入っていった。




 改めて見る、シンレスとルリカの住居。初めて来た時はバタついてそれどころではなかったが、落ち着いて見ると (壁のキズを除けば) 整った綺麗さが際立つ。

 きっとまめな清掃をしているのだろうと、クインヘルは推測した。


「ルリカ、掃除の頻度はどのくらいなんだ?」

「お掃除ですか? 毎日やってますよ。……といっても、毎日同じ場所ではなく、昨日はここだから今日はそこって感じで……」


 ルリカは家中を見渡しながら説明する。

 床はもちろん、窓、カーテン……その他細かいところもあり1日ですべてやりきる事は出来ないので、数日、数回に分けて綺麗にしているのだという。


 この綺麗な空間は、ルリカの日々の苦労のおかげなのだと思い至り、クインヘルはつい嘆息した。


「なら、わたしは様々な清掃法を覚えなければならないのか」


 大変そうだ、と肩を落とすクインヘルに、ルリカはクスッと笑った。


「ゆっくり覚えれば大丈夫ですよ。……さて、クインヘル様。今日の課題は料理です。お昼ご飯も兼ねてオムライスを一緒に作りましょう!」


 ぱんっ、とルリカが手を打つ。しかし対称的に、クインヘルはサッと表情を変えた。

 

「オム……、ライス……」

「どうしました?」


 呆然と繰り返すクインヘルに、ルリカは不安そうに見返す。

 もしや気に入らなかったのかと眉尻を下げるルリカに、クインヘルは慌てて首を振って否定した。


「いや……何だか懐かしくなって……。久しぶりに聞いた響きなんだ」

「……? そんなに珍しいものではないと思いますが……」

「わたしにとったら……10年前くらいの代物だ。子供の頃はよく作ってもらっていたけど、成長するにつれ回数はみるみる減ったな」


 小さい頃は王家専属のシェフが作ったオムライスを、兄や妹と並んで食べていた。しかし、自分や兄妹が成長し立場や現状を理解出来るようになると、自然とあの味からは離れていった。


 大きな悩みも無く、ふわふわとした幸せな時間。クインヘルにとったら、オムライスは『無邪気でいられた頃』の象徴なのである。


 話を聞いたルリカだが、さらに不安そうな表情に陥ってしまった。


「それじゃ、このメニューは少し子供っぽいのかしら……」

「そんな事はない。今もオムライスは好物なんだ。さ、わたしの指導を頼む」


 それを元気づけるように、クインヘルは教えを求めた。



  ◇


 ほどなくして、クインヘルはキッチンへと案内される。

 そこにはすでに、ケチャップや卵などのオムライスの材料が並べられていた。


 ルリカからエプロンを借り、いよいよ調理へ……。

 先生の指導は、食材へ触る前から始まっていた。


「まずは手を洗いましょう。どんなに美味しく出来ても、不衛生ではいけません」


 そう言って、石鹸で手を洗い流す。クインヘルもそれに(なら)い、手を洗浄をしてタオルで水気を拭き取った。


「次に、卵を割りましょう。このボウルに入れてください」


 ルリカは卵を手渡し、ボウルを目の前に置いた。

 クインヘルは頷き、卵をカドに軽くぶつけてヒビを入れ、そこに指の先を入れ割り入れた。


 細かい(から)が入る事なく、次々に綺麗にボウルへ入っていく卵。そして、最後の1つを手に取った時にふと顔をあげると、何やら意外そうに見つめるルリカと目が合った。


「……どうした?」

「いっ、いえ! 何も……」


 ハッと我に返ったかと思えば、とても器用ですね……とゴニョゴニョと何か隠しているような素振りを見せるルリカ。

 その不審な様子に、クインヘルは目を細めた。


「まさか……包丁を使って割るとでも思っていたのか?」


 心外だ、と言わんばかりにルリカを睨む。

 いくら元王族だからって、そのようなベタな行動はしない。卵の割り方くらい、自分はもちろん兄や妹だって知っている。


「わたしはそこまで物知らずでは無いぞ?」

「は、はい。失礼しました……」


 攻撃的な視線に負けたルリカは、やがて観念したように呟いた。






 あれやこれや言われながら、順調に作っていくクインヘル。

 まだ調理途中だが、少し心にも余裕が出てきたので、ふと気になった事を聞いてみた。


「そういえば、ルリカの年はいくつなんだ?」

「この間、20歳になりました」

「……3つも年上なのか……」


 同じくらいだと思っていたのに……。成人していたとは思っておらず、つい心の声がもれてしまった。

 それに……漠然(ばくぜん)とした、『もう後には退けない』という感覚が生まれてきた。


「急に敬語になるのもあれだから、このままでいかせてもらうぞ?」

「はい。わたしもその方が嬉しいです」


 少しの意地を(にじ)ませるクインヘルだが、ルリカは不快を感じた様子もなくタメ口を了承した。





「シンレスとは、いつから暮らすようになったんだ?」

「2年くらい前、でしょうか。もうご存知でしょうけど、元々わたしは王家に仕える『星詠み』の一族で、わたしの家は特に王から重宝されていたのです」


 没落する前━━ルリカの家は、数ある星詠み達の中でも繊細で丁寧な占術により、一際(ひときわ)重宝されていた家系であった。

 ルリカ自身も、夜空へ聞き乞う星詠みの巫女として、その任に就いていた。




 しかし、出る杭は打たれる。

 長所だった心の繊細さが(あだ)となる日……栄華に亀裂が入る時が来たのだ。


「ある時、ほかの星詠みから(だま)され裏切られ……ついに、王からの信用も失ってしまったんです。結果として没落してしまい、生きる意味を見失った父は、ある夜一家全員を連れて、自決で有名なある森へ入りました」

「それって……」



 迫る嫌な予感に言葉を詰まらせるクインヘル。それに対し、ルリカはごく冷静に言葉を継いだ。


「一家心中を、試みたのです」





書き貯め頑張ります



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