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2話 男2人旅 ~2~


お読みいただきありがとうございます





 『旗手』とは国のしるしたる軍旗を携え国を守る、王と同等な重要性を誇る存在である。


 戦って守るのではなく、生き抜いて国を守るのが役目であり、旗手が死なない限り国は滅びないといういわれがあった。

 選抜された国民は旗手候補となり、その内のただ1人が正式に旗手となる。旗手は旗を継承された時から老いない体となり、寿命で死ぬことは出来ず、生涯をかけて旗と国を守り続けていくのだ。



 しかし、国は滅びずとも人は死ぬ。

 戦争は絶えず地上に蔓延(はびこ)り、そのたびに旗手は旗を掲げ兵を鼓舞し、帰ってこない背中を見送りながら戦禍(せんか)を見続けていた━━




  ◇


「戦えもしないのに、オレが軍旗を持つ意味ってなんだろね」


 自嘲も含まれたような、穏やかな口調で呟く。

 現旗手であるエンカは不老の体になってから5年……国の命運を旗と共に双肩(そうけん)に担っていた。


「どうした、急に」


 そう言うはシンレス。傭兵稼業の、エンカの幼馴染の青年である。

 エンカよりも背が高く、傭兵らしく精悍(せいかん)な顔立ちをしている。2人とも同い年で22歳なのだが、エンカは旗手の特性である不老のせいで幼く見えた。


 2人は並んで町の中を歩いて行く。人混みの中、頭1つ分飛び出たシンレスと軍旗の長柄が遠くからでも目立っていた。


 エンカは国王の名代(みょうだい)として、これから隣国で行われる軍縮会議に出席するため、シンレスはその護衛として共に旅をしているのだ。


「これから平和になって、戦争も……旗手(オレ)()らなくなって……。一体、オレには何が残るんだろう」

「お前のやれる事は1つだけ、生きることだ。それだけで守れるものがある。自信を持て」


 歩みを進めながらシンレスは語る。

 彼は少年兵の時から戦争を大小問わず経験し、国が破壊と再興を繰り返しながら続いているのを知っているため、旗手の存在の大きさを身に染みて理解していた。


「まぁ、そうだけどさぁ……」


 エンカは(うな)りながら横目で旗を見遣る。

 普段は布がなびかないように柄に巻きつけ紐でくくって止めている。殺傷能力は無く、防御も柄部分で受け止める程度しか出来ない。

 人対人の戦闘だと役立たずだが、国対国の戦争には重要な役割を持つ軍旗は、エンカの持つ唯一の力であった。


 この国が(おこ)ってから常にある旗手の存在。今まで数千年受け継がれてきた役目はエンカも理解しているつもりだが、本人はどこか納得していない様子を(にじ)ませていた。


「仲間は戦いながら死ぬのに、自分は逃げまくってでも生きなきゃいけないっていうのは心苦しいっていうか……」


 語尾をもごもごと濁す。というのも、エンカはあまり争いを好まない。今でこそ立派に任務を遂行しているが、昔は血を見ただけで卒倒するほど荒事が苦手で、優しい性格であった。それでも旗手の継承を受け入れ、自ら戦場へ立つ事を選んだのだ。


「自分で決めた事ならしっかりやれ。この国は小さくてすぐ侵略されてもおかしくないのに、ずっと独立を保っていられるのも旗手のおかげでもあるんだ。十分意義はある」


 肩を落とすエンカにシンレスが(げき)を飛ばす。


 というのも、エンカ達が暮らす国は小さく、領地拡大を狙う周囲の国に狙われ続けていた。

 しかし、どれほど攻めても完全に陥落はせず、国として必ず再興させてしまう……勝利が無ければ敗北もしない不落の小国として周囲へ認識させていた。それに一役買っているのが、国の守護たる旗手であった。


 言葉をかけても依然として暗い表情のエンカに、ついため息をついた。


「お前の優しさは時に問題だな。いいか、みんなお前が大事だって分かってるから命をかけるんだ。倒れてる人を踏みつけてでも生き抜く、たとえオレを見殺しにしてでも…………いや、無意味なたとえ話をしてしまった。オレ強いし」


 最後の一言ののち、シンレスは自信あり気に笑う。

 大事な旗手が死んだら困ると、国王が直々に依頼したのが傭兵シンレスであった。はじめは面食らったが、護衛対象が気心知れた幼馴染ならば悪くないと思い依頼を承諾した。


 そして、数年ぶりに再会した幼馴染はなんともゆるふわな雰囲気の放浪癖のある旗手になっていた。


「まさかお前が本当に旗手になっていたとは思わなかった。しかもこんなに手がかかる奴だったとは……。何回もいなくなりやがって、探すのも大変なんだぞ!」


 道中、失踪すること3回。ちょっとはぐれただけならいいのだが、大体犯罪一歩手前まで巻き込まれているから心臓に悪い。本当に死ぬような事があったら、今度はこっちの首が無くなってしまう。それどころか国ごと無くなる。


「ごめんごめん、もうしないよ。…………シンレス、オレお腹空いちゃった。どっか食べに行こう」

「お前全く反省してないな? まっったく反省してないよな? 腹は……まぁそうだな、適当に何か食べるか」


 シンレスは周囲を見渡し、入れそうな食堂を探した。栄えている町なので、食事が出来る場所はいくつもあるのだが、今はちょうど昼時なのでどこも混雑していた。


「ここは無理そうだな……」


 もう少し歩けるか、と聞こうとし振り返ると、エンカの姿がこつぜんと消えていた。


「…………っ」


 もうしないという言葉を秒で破る男……。

 呆れと怒りで頭を抱えたシンレスは、ため息をつきつつもエンカが寄り道しそうなところを見て回った。が、旗手の姿は一向に見つからない……胸中にじわじわと焦燥感が満ちていく。


 人に聞き込んで探すか、はたまた金はかかるが物探しの術をそこらの術士に頼むか……時間はかけられない、シンレスが選択に迫られていると━━




「シンー! 助けてー!」


 助けを求めるエンカの叫び声。その方向を見ると、何者かにさらわれそうになっているエンカが、柱に掴まり必死に抵抗している姿があった。






今後もよろしくお願いします



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