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17話 帰国


ここから2章に入ります。

よろしくお願いします!





 エンカ達はノイステラ公国の迎賓館から出立し、遠き母国を目指していた。


 道中は3人で食事をして、クインヘルは剣の鍛練を受ける。野宿をする夜は(おび)えながら朝を迎え、ある日の早朝はシンレスが教会へ足を運んだ。



 ノイステラ公国との国境を越え、無事にローダ・ハヴィリアに着いてからも、徒歩での移動は続く。

 会議の結果を王様に報告するまでがエンカの役目なので、最終的には王都まで行かなければならないのである。



  ◇


 途中、とある辺境の食事処に立ち寄る。

 そこで食事をしているとエンカが口を開いた。


「そういえば、ここは思い出の町になったね」


 エンカはにこにこしながらクインヘルを見て、そんな彼女はきょとんとする。周囲を見ていたシンレスは、やがてその意味に気付いた。


 今や夫婦となったエンカとクインヘル。

 この町は、出会いの原因となった、エンカがクインヘルに路地裏へとさらわれた事件があった場所だった。


 ルートとしては来た道をそのまま戻っているので、必然的にこの町を通る事になり、もう少し歩けばその路地裏も見えてくるだろう。

 



 元々は、エンカを狙う刺客だったクインヘル。

 このような暗殺者から旗手を守るのがシンレスの役目であり、今回も例にもれず、不届き者を捕らえたその場で殺すはずだった。


 しかし、エンカは刺客(クインヘル)を自分の護衛に誘うという暴挙に出た。

 それに、会議での大立ち回りだって、運がよかったからうまく運ぶ事が出来たのであって……。



 今では全て丸く収まったからよかったものの、シンレスにとっては忌々しい記憶だった。



  ◇


 まだまだ、王都は遠い━━


「王都まではあと2日程だ。もう少しだから頑張れ」


 シンレスに励まされながら、長い旅の終わりを目指して進む。

 そうして、公国を出立し旅を続ける事、1週間。


 遠くからでもよく分かる。白く大きな城。


 その城があるローダ・ハヴィリアの王都「ダーデラット」

 ようやく懐かしの……都の大地を踏みしめるまでにいたった。



  ◇


 王宮の前には、当然ながら門番が存在している。

 今日の見張りは若い兵が2人。国王が好みそうな、可もなく不可もない人員配置であった。



 しかし……何も起こらないのは結構なのだが、門番の平和ボケは如何(いかが)なものか……。

 だらだらしている訳ではないが、何となく気のゆるみというか油断が見えた。

 

 そんな2人に、エンカ一行は近付いていく。

 エンカが「お疲れ様ー」と声をかけると、門兵は瞬時に(たる)んでいた表情を引き締め、敬礼と共に王宮への入り口を開けた。



 ━━旗手の存在は王と同等。



 王宮勤めで旗手を知らぬ者など1人もいないので、エンカの顔パスで難なく王宮へ入る事が可能なのである。


 頻繁な出入りがあるエンカとシンレスは慣れた様子で歩いていく。クインヘルはそのあとを置いていかれないようについていった。


 やがて王宮の本扉へ辿り着く、シンレスがその扉を開ける。

 視界に飛び込んでくる照明の眩しさに、クインヘルは目を細めた。


 天井には大きいシャンデリア。壁際には美しい純白のドレープカーテン。左奥には金の手すりの階段など、王の住処に相応しい絢爛(けんらん)な内装であった。


「これは、何と……」


 元王女のクインヘルならこのくらいの内装は見慣れているだろうに……。珍しいものを見たような声をもらす彼女に、エンカが笑みを(こぼ)した。



 クインヘルに向けて、適当に案内しながら歩いていると、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。


「お前達! 帰って来たか!」


 溌剌(はつらつ)とした笑顔と大股歩き、高い背に軽鎧(けいがい)。腰には剣を装備する、見るからに武人といった青年がやってきた。

 髪は涼やかな水色なのに、全身から溢れ出る雰囲気や表情は何とも好戦的であった。


「ランティス殿下」


 ランティス・ヤーグ・ハヴィリア。

 ハヴィリア国王陛下の、異母弟である。


 ランティスはシンレスの肩を強引に組むやいなや、楽しそうに揺さぶった。


「早速だが、帝政(ラーダ)のバカ(ヅラ)共はどうだった? シンレスの事だからブッ殺して来たんだろーな! よーし(デコ)を出せ! よく出来ましたスタンプを押してやろうッ!」

「……殺してないですし、せめて物でくれください」


 前髪をかきあげようとするランティスをぐいぐいと押し退けるシンレス。


 王弟と傭兵という身分に差がある2人だが、何とも親しげな雰囲気。

 この、ランティスの落ち着きの無さは、彼の性格にも、育った環境にも原因があった。


 現国王・ヴァーメランは先代王と正妃の子であるが、ランティスは(めかけ)との子供であった。


 彼と、現王との年の差は13歳差。ランティスが生まれた頃には、すでにヴァーメランが王太子になっていたのである。


 聡明な後継者がいるおかげか、ランティスは王族としては育てられているが、後継者としての教育は受けていなかった。

 成長してからも彼自身に野心は無く、自らを騎士と名乗るさっぱりした気前のいい、血気盛んな青年に育ってしまったのである。



 ランティスの好悪はいたって単純。武ある者を好み、勇無き者を嫌悪する。それに強弱や性別はさほど関係なく、とにかく立ち向かう心を持った勇敢な者を好んでいた。


 中でも、シンレスは特に武勇があると認めていて、たびたび剣の手合わせに付き合わせているのである。



 旗手(エンカ)も無事である事を喜び、シンレスへのおふざけもそこまでにして……ランティスはクインヘルを見遣った。


「んで、こいつがエンカの嫁っつー奴か」

「ランティスさん。クインヘルだよ」


 隣にいたエンカがクインヘルを紹介する。クインヘルが軽く頭を下げると、ランティスは「あぁ……」と呟いた。

 覇気のある笑顔が、少し曇る。

 やや粗暴な男だが、これでも王弟。隣国の王女の存在は知っていた。


 クインヘルもまた、彼の事は知っている。

 と言っても、お互い知っているのは名前くらいで、実物を見るのは初めてであった。


「一応、はじめましてと言うべきだろうか」

「ええ……そうですね」


 クインヘルの顔をまじまじと見たあと、息を吐いた。

 (あき)れのため息というより、哀れみの吐息である。


「……何やら逃げ出したとは風の噂で聞いていた。当たり前だけど本物だな。……なら、オレも騎士らしく、姫君に敬意を払うとしよう」


 そう言うと、クインヘルに向かい胸に手をあて片膝をついた。シンレスのように身を(かが)めるまではしないが、武人のような礼儀を彼女へ尽くした。


 武装した高貴な青年が、同じく剣帯した少女に片膝をつく。

 突然(ひざまず)かれたクインヘルはどうしていいか分からず困っていると、エンカが横から助け船を出した。


「ランティスさん。王様は今どこに?」


 会議に出席した結果を報告すべく、国王の居所(いどころ)を聞く。

 すると、ランティスは何かを思い出したかのように、ああっ! と大声をあげた。


「その兄貴から伝言だ。報告なんちゃらは明日でもいいから、今日は休めだとよ」


 ランティスは国王からの言伝(ことづ)てを伝えたあと、不満そうな顔をしながら腕を組んだ。


「オレとしちゃあ、このあとシンレスと手合わせしたいんだが、こいつも(すみ)に置けない男だからな。そっちに譲ってやる(・・・・・・・・・)


 意味深にニッと笑ったあと、じゃあな、と颯爽と立ち去っていくランティス。

 突風のようにやって来て、すず風のように去っていく男であった。





 予定していた報告が明日になってしまったので、時間が出来てしまった。

 そこで候補にあがる、次なる行き先。


「もう1人、クインヘルに紹介しよう」

「もう1人?」


 いい事を思いついたようにパッと笑うエンカに、クインヘルは首を(かし)げる。


「そう。ランティスさんも譲ってやる(・・・・・)って言ってたからね。クインヘルお待ちかね……ルリカちゃんのところだよ」


 いいよねー、シン? とルリカと共に住む家の(あるじ)へ問う。

 聞かれたシンレスの顔は、ヒクヒクと引きつっていた。






次回更新は未定です


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