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【番外編】 プリンセス・アゼルシーナ


【番外編】クインヘルの王女時代から、国を出るまでの短いお話です。

会話文ほぼ無いです

大体3000字くらいです




 クインヘル・アゼルシーナの生まれ故郷であるアナゼル王国は、ローダ・ハヴィリアより北東に位置する国である。


 アナゼル王家の3番目の子、長女として誕生し、厳格さと優しさを持つ両親に育てられたクインヘルは、母譲りの美しい金髪と宝石のような紫色の瞳を持っていたので、度々その容姿を()めそやされていた。



 クインヘルには2人の兄と、2つ下の妹アイシェルがいる。


 小さい頃は兄妹で城を探険したり、執務室に閉じこもる父の邪魔をしてみたり、祭典がある時には、広間に集まった国民達に向かいバルコニーから手を振ったりしていた。

 その中で幼いながらも……自分はこの人達の期待と羨望と、そして審判を受けているのだと自覚していった。



 成長してからは、会話こそあれど以前のように遊ぶ事は無く、それぞれ別の貴族の友人と関わるようになっていた。


 まだ「派閥」とまではいかないが、どれほど仲がよくても金持ち達の勢力争いのようなものが透けて見える。

 それでも、まさに「派閥」が生まれつつある兄達よりはマシだと思い、クインヘルもやや空虚さを感じながら、それも務めだと思い交流を深めていった。



 凛とした美のクインヘルと、可憐で愛らしいアイシェル。

 対称的だが美貌の姉妹に、国民も沸き立つ。

 さらに優秀な跡継ぎが2人もいるので、この王国は安泰だ、と王を始め臣下も安堵して酒を酌み交わしていた。






 しかし、笑っていられたのも、束の間だった。


 数年がたち、クインヘルが17歳の時。

 2人の兄が、立て続けに亡くなったのだ。


 毒薬か、はたまた呪いか……。後継者達の急すぎる死に、王も王妃も悲しみにくれた。

 しかし、不幸はこれで終わらない。

 これを転機とし、アナゼル王家の栄華が一気に転落していく……。

 その最たるものが、新たな後継者の選出であった。


 クインヘルとアイシェル、2人の美しい姉妹はたちまち後継者争いの渦に巻き込まれていったのである。


 当然ながら、国王は男性で、武勇と英断に優れた雄々(おお)しき人物の方がよい。

 しかし、残された王の子はどちらも女。次代の王が女である以上、それは叶わないと思った国王はあり得ない方向転換をした。


 女王を立てる事を可とし、獅子のように勇猛な治世ではなく、猫のように周囲へ媚びへつらう国家への転換を決めたのだ。


 “女”王が治める国など、周辺から見れば侵略の格好の的。

 それを防ぐために、国王は外交の方向性を変えたのである。


 成功させるためには、何より愛嬌(あいきょう)が必要と考えた。相手国の懐に潜り込み、対等な関係にはなれずとも不利益にならないように顔色を伺い相手を立てる事が出来る後継者を、王は望んだのである。



 初めて聞いた時、クインヘルは度肝を抜かれた。

 自分も妹も、父や兄を近くで見てきたのだから、改めて帝王学を学べば勇敢な王の器となれるかもしれないのに。

 しかし、王はその人の人となりを見ることなく、ただ性別だけを見て愚策を練ったのだ。



 しかしそうなると、自然と答えは決まってしまう。

 アイシェルがまさに後継者に相応しいと、多くの臣下から挙げられたのである。


 クインヘル派も微力ながらいた。彼らは2人の兄が亡くなった今、長女である彼女が上に立つのは当然であると、真っ向から立ち向かってくれたのだ。



 しかし、アイシェルの追い風は弱まる事なく、クインヘルは徐々に追いやられていく。

 ついには王や王妃も、アイシェルがよいと推し始め、とうとうクインヘルの立場が無くなってしまった。


 これにより、正式にアイシェルが王の後継者となり、クインヘルは破れ去る結果となったのである。




  ◇


 悔しさと悲しみに押し潰されそうになるも、クインヘルにはいつまでも沈んでいられない、新たな問題が浮上していた。


 これは王家ではなく、いずれ彼女に降りかかるであろう問題。


 貴族にとっても避けて通れぬ……「結婚」である。




 姉を押し退けて妹を後継者にし、世間体を気にした父が、いつ結婚話を持ってくるか分からない。

 妹に敗北したあげく、邪魔者を排除するために(じぶん)は嫁がせる。冗談ではなかった。


 そうなる前に一刻も早く……この国を出ようと心に決めた。



 クインヘルは早速準備に取りかかった。


 といっても、見つかってしまえば部屋に閉じ込められてしまうかもしれない。誰にもバレずに準備を進めなければならなかった。


 旅をするための装備……金銭は所持していた金貨や宝石があるのでそれを巾着へ詰める。


 剣は城の倉庫から適当に身繕い、防具も一緒に拝領しようと思ったが、体格に合わず断念。

 父親が騎士分隊長をしている貴族の友人に相談して、防具を買い揃えてもらった。


 自分が王国を出る準備をしている事を父に知られるのは困るので、分隊長には宝石をいくつか手渡して口止め料とした。


 自分の(あるじ)の娘から宝石を渡された分隊長は驚き「王女から宝石は受け取れない」と遠慮していたが、ある情報の対価とする事で買収は成功した。



 そして、その情報こそローダ・ハヴィリアの旗手の事であった。

 何でも、旗手は今ノイステラ公国を目指し旅をしている最中だという。


 それを聞いたクインヘルはすぐに道を調べ、さらに旗手が立ち寄りそうな町を詳しく調べた。



 準備は3日ほどで整った。

 早い方だとは思っていたが、クインヘルは内心焦っていた。騎士分隊長が、クインヘルに近いうちに婚姻話が来ると教えてくれたのだ。


 本当なら、旅の心得や剣の手解(てほど)きも受けたかったのだが、そんな余裕は無い。


 クインヘルは、翌日に出立する事を決めた。





  ◇


 そして、夜明け前。暗黒の世界が青く染まりつつある中、武装したクインヘルは行動を起こす。

 途中、夜間護衛の騎士にも出くわしたが、すでに買収済み。

 小さな声で「どうかお元気で」と告げられ、感謝しながらクインヘルは城をひっそりと出た。



「さようなら、みんな」


 そう呟くも、清々しい気持ちがあるせいか、不思議と涙は出なかった。

 見送りもいない中……クインヘルは旅立っていった。




 歩き続けると陽は徐々に昇り、日除けのためフードを被るも、クインヘルの長い美髪が隙間からもれた。


 切る事も考えたが、これは周りから綺麗だと褒められた金の髪。切ってしまうのは……思い出すら切り離してしまいそうで、避けたかった。

 権力争いは嫌だったが、それよりも兄妹達と過ごした日々が輝いているのだ。



 それに、彼女には密かな目標があった。

 絵本で見た……幼心(おさなごころ)に憧れた、騎士となる事だった。

 王女らしい優美さなど邪魔なだけ。必要なのは折れない心。どんな逆境も悪意もはね除けられる心の強さである。


「わたくしは……。いや、わたしはクインヘルだ」


 虚勢でもいい。アゼルシーナの長女は消えた。

 今から自分は騎士……旗手を狙う者となる。

 ……正直、顔も名前も知らないが、旗手というのだから旗を持っているはず。それを狙っていこうと決めた。




「ローダの旗手……。一体、どのような方なのでしょう……。……いや、一体どういう奴なんだ」


 誰も聞いていないのにわざわざ言い換えて、改めて旗手を狙う決意を固めたのであった。





お読みいただきありがとうございます

こういう単発話はすぐ書けるんですけど、それ以外は全く進みません。


よって、再度完結とさせていただき、本編の方は予定通り夏頃公開予定です

今後もよろしくお願いします


評価等もよろしくお願いします!



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