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13話 軍縮会議 ~1~


国名とか人名とか考えるの面倒ですね




 日がのぼり、太陽が激しく照りだした頃、迎賓館の一室に人が集められていた。


 頃合いをみたザンデア公爵の手により、会場の扉がバタンと閉められる。アレスギアテスに来た最大の目的である軍縮会議がようやく始まろうとしていた。


 円形のテーブルと、それをぐるりと囲むように近隣の国々の代表者が着席している。テーブルにはそれぞれの好みに合わせて飲み物が置かれていた。


 やがて、公爵も椅子に腰を下ろす。



「まずは、お集まりいただきありがとうございます。お歴々。こうして顔を合わせられる事、喜ばしく思います」


 ザンデア公爵が出席者の顔を見渡した。



 出席国はローダとラーダのほかに━━


 ディルタニア王国より、王女ローレアシュと妹ユアナ。


 マグノリア帝国より、女帝ミリエラと従者ジレーザ。付き添いとして来ているサルマ王女。


 魔女国シーリングより、レイカ魔女筆頭と使い魔の銀猫ヒュウ。



 計5か国の代表者の顔が揃った。

 

「アナゼル王国は欠席。(さい)の王国からはノーザ王が来る予定だったが、急遽(きゅうきょ)来れないという文書が届いた。だが、決められた事には全面的に賛成するという意思と共に、サインが入った誓約書も届いている。よって、(さい)の王国も協定に加わる事とする」


 アナゼル王国は欠席と聞いて、身内と顔を合わせる事態にならなくてよかったとクインヘルは安堵した。


 妹が後継ぎに決まってから関係に亀裂が入るようになり、そのまま出奔(しゅっぽん)してしまったので気まずいというのもあるし、何より王女らしからぬ武装姿を身内に見られたくなかった。



 この会議はザンデア公爵からの呼びかけと、それに応じた周辺国による話し合いにより、軍費削減などの平和協定を結ぼうというものである。

 最初から全世界で平和を約束させるのは難しいので、まずは近い国同士で結束しようという目的であった。





「閣下。会議を始める前に、我々から謝罪をさせていただいてもよろしいでしょうか」


 会議が始まる前に、美しい見た目を持つ人物が小さく手をあげ、公爵へ発言の許しを乞う。


 ディルタニア王国からの代表、ローレアシュ王女であった。


 隣にいるユアナ王女は女性らしく可愛らしい容貌なのだが、彼女は一見男前な貴族に見える。

 短く切られた銀髪と切れ長の瞳、男物の礼装をまとう格好も相まって男性と見紛(みまが)うが、れっきとした女性である。



 公爵は頷き発言を促すと、ローレアシュはキッと姿勢を正した。


「この度は皆様をお待たせしてしまい申し訳ありません。時化(しけ)で海が荒れてしまい、出航がなかなか出来ず港で立ち往生をしておりました」


 ローレアシュは見た目通りの凛とした声音で陳謝する。

 


 ディルタニア王国はほかの周辺国とは違い、海を挟んだ対岸にあった。船を使い対岸に渡ったあとも陸路(りくろ)での移動は続く。よって、移動に時間がかかってしまうのである。


 わずかに頭を下げて謝罪する男装の麗人だが、それを冷ややかな視線で見ている妙齢の女性がいた。


「ほぉ……ローレアシュ王女様がいらしたとは。てっきり第1王子が来ると思っていたんだが……」


 マグノリア帝国の女帝ミリエラが、(おうぎ)で口元を隠しながら言い放つ。

 微笑みこそ美しいが、声音は侮蔑(ぶべつ)を含んでいる。その瞬間、会場内に(かす)かに笑いが起きた。


 (わら)っていないのはザンデア公爵とローダの一行くらい。

 シンレスは表情崩さずに聞き流し、クインヘルは不快そうに眉をひそめる。エンカにいたっては興味無さそうにぼんやり遠くを見つめていた。

 周囲の嘲笑に対し、ローレアシュは特に顔色を変えずに毅然と言い切る。


「兄上は王位の引き継ぎ公務で忙しいので、私と、このユアナが出席を命じられました」


 勇ましい麗人は一国の帝王に馬鹿にされても負けない。芯の強さを持った女性であった。




 これに続くように、ルシオラ宰相が仰々(ぎょうぎょう)しくミリエラを(たた)えた。


「よもやここで女帝陛下にお会い出来るとは。まさに僥倖(ぎょうこう)。麗しい王は国民にとっても鼻が高いでしょう。さらに自ら出向き会議に出席なさるとは、このルシオラ敬服いたします。それに比べて……」


 ルシオラ宰相はギロリ(ちらり)とエンカ……もといローダ一行を見遣った。


「ローダの代表は王族ですらない。旗手の小童(こわっぱ)と金で雇われた小汚い傭兵。いやはや、元々同じ国とは思えない腰抜けっぷりでありますなぁ」



 口を歪めながら語るルシオラ宰相の長たらしい(なじ)りに……。


 シンレスは無言を貫いていた。

 腕を組み、目を閉じて、少し(うつむ)いている。


 こめかみには血管が浮き出ていたが、反論は決してしなかった。一国の宰相と雇われ護衛……ここではシンレスが格下なので、仮に言い返しても不遜に問われるのはシンレスの方なのである。


 ルシオラ宰相は、彼が言い返してこないのをいいことに揚々(ようよう)(さげす)みの言葉を吐いていく。しかし、結果的に周囲から批難の視線を浴びる事となり……はたと気付いた宰相は口をつぐんだ。


「宰相閣下。それ以上の侮辱は国辱(こくじょく)と見なされますぞ?」


 さらに公爵からも苦言を呈される。

 無口の勝利……最終的にシンレスがざまぁみろとほくそ笑む結果となった。





 そして、会議は終盤。平和協定への調印式が始まった。







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