第八十二話
第八十二話です。
リーファと色々と話した後、僕はなんともなしに砦の上へと昇ってみることにした。
魔法により作られた砦は、たったの二日で作ったとは思えないくらいしっかりした造りをしていた。
砦の上では魔物の襲撃に備えて騎士さん達が見張りを行っており、彼らとすれ違うたびに敬礼の様な挨拶をされてしまっていた。
正直、騎士さんに限っては僕の立場を存じているか分からないので結局は曖昧に濁すしかない。
愛想笑いを返しながら、階段を昇り明日の僕の持ち場である屋上へとたどり着くと、フィルゲン王国の勇者、チサトがそこにいた。
砦の縁に身体を預けながら遥か遠くの景色を見つめるようにしていた彼女は、階段から上がっていた僕に気付く。
「あれ? カイト君?」
「ここにいたのか」
風に当たりにきたのかな?
そう思いながら、彼女のところへ歩み寄る。
「リーファは?」
「眠いから寝る、だって」
「フフ、彼女らしいね」
基本的に自由だからね、あの子。
テントへ戻るついでに、眠そうな様子で船を漕ぎ始めたシフとライムも預けて来てしまったので、今は僕一人だ。
「さっきリーファと話してきたよ」
「え、なにを?」
「僕が君の従者として扱われてることについて」
そう切り出すと、チサトの表情が気まずいものへと変わる。
別に彼女を責めるつもりは毛頭ないので、さっきリーファと話した通りの内容をできるだけ軽いノリで彼女に伝える。
「リーファは僕を貸し出してもオッケーなんだって」
「……え?」
「レンタル扱いされるのはちょっと引っかかるけど、実際どうなんだろうね。従者を貸し出すって?」
本気で言っているのかどうかは分からないけど、今の状況をチサトが気負う必要はない。
そういう意味で伝えてみたのだが彼女は驚きの表情のまま、僕の方を見る。
「た、多分、共有とかじゃないのかな? 隣国だからありえない話でもないし」
「そうなったら大変そうだなぁ」
「……」
僕の身体は一つしかないわけだし、どちらかの国にいなければならない。
まあ、そう簡単に実現することはないだろうけれど、とても大変そうだ。
「リーファは何も言わなかったの?」
「不貞腐れていたけど、怒ってはいなかったよ。それに君のことを友達だって言っていたし」
「そう、なんだ」
やや嬉し気な様子のチサト。
最初はなぜか睨み合ったり、リーファがむんむん言っていたけど二人がうまく打ち解けられて安心した。
「あの、さ」
「ん?」
「カイト君が見つかった時の話なんだけど……」
フィルゲン王国に僕が発見されたことが伝わった時のことか?
状況としては僕の偽物達が大発生していた時期だと思うんだけど。
「リーファと……ヘンディル王国の勇者と組むことになったことを聞いた時、正直……嫉妬してたんだ。私」
「……え、なんで?」
「あれだけ探していたカイト君が、いつの間にか私以外の勇者と組むことになってたから」
……ど、どういうことだ?
己惚れているつもりはないけど、その時点の僕はそこまでチサトと関わりが深かったか?
ちょっとした混乱に陥っている僕に、チサトは続けて言葉を発する。
「他の勇者と組むなら、私と組んだ方がいいじゃん、ってすっごい勝手なことで逆恨みしてた」
「お、おう」
「……引かないでよ」
リーファと同じように不貞腐れるチサト。
そう言われてみると、そう思ってしまうのも無理ない……かもしれないな。
「最初はリーファに対抗心とか燃やしてた。それもすぐになくなったけれど、やっぱり羨ましい気持ちもあったと思う」
「従者にはメルさんがいるんじゃ?」
「彼女はあくまで仮の従者だし、私の無理に付き合ってもらっちゃっているだけだから……」
まあ、元はメイドだって言っていたしな……。
フィルゲン王国の従者問題については、色々と難しいものがあると思う。
「君だけが、元の世界にいた私を知っていたから。私を勇者って色眼鏡で見ないでくれるから。保護し……友達同士みたいに話してる二人が羨ましかった」
「なんで今保護者って言いかけてたの?」
「……」
露骨に目線を逸らされてしまう。
傍から見たら、僕がリーファの保護者みたいに思われているのか……?
なんだか複雑な気分だ……。
「こう話してみると、私って結構面倒くさい性格だなぁって自覚する。あ、今自分で面倒くさいって言った自分が面倒くさい」
「たしかに」
「納得するな。そこは嘘でも違うって言って……って、また面倒くさいな私……」
「ドツボに嵌っているじゃないか」
地味に落ち込むチサトに苦笑する。
彼女が抱える悩みは、当然のものだ。
頷きこそしたが、本心では面倒くさいだなんて思っていない。
すると、精神的に持ち直した彼女が続けて口を開いた。
「あと、思った以上に気が合ったのが嬉しかった。元の世界でもっと早く喋っておくんだったって後悔しちゃったもん」
「ははは、UMAの話は僕も得意じゃないけどね」
「カイト君ならきっと気に入るはずだよ。だって生き物だもん」
そう言った明るく笑った彼女は、小さく欠伸を零した。
背伸びをし、身体を預けていた砦の縁から離れた彼女は、僕の方へと振り返る。
「それじゃ、そろそろ私も戻るよ」
「ああ」
「話に付き合ってくれてありがとう。色々吐き出せてすっきりした」
そのまま下へと続く階段のある方へ向かっていくチサト。
しかし、何を思ったのか再びこちらに振り返った彼女は、僕を指さした。
「あ、それと。この戦いが終わった後、覚悟しておいてね」
「え、なにが?」
「君を貸し出しできる話」
「……エ?」
「本気にしてるから」
そう言い残した彼女は、硬直している僕を残して階段を下りて行ってしまった。
……もしかして、やらかした?
あれ? この戦いが終わったら、従者に関しての大問題が待っているの?
後悔しても既に遅く、その場にはチサトはいない。
いや、僕の貸し出しについてはこの際、どうでもいい。
問題はフィルゲン王国とヘンディル王国の間で、何かしらの問題が起こるかもしれないことだ。
ジェシカ様とセルジ様の性格を考えれば、むしろ進んでゴーサインが出る恐怖もある。
「ど、どどど、どうしよう……」
明かりに照らされた砦の屋上。
そこに、色々とやらかしてしまった僕はただただ途方に暮れるしかなかった。
色々ぶっちゃけて吹っ切れたチサトでした。
あれ、ヒロイン力が上がって……いる?




