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第六十六話

第六十六話

 フィルゲン王国近くに出没した二頭のコカトリス。

 それらを排除することに成功した僕とリーファは、その後、チサトと共にフィルゲン王国の王城へと招かれていた。

 本来はギルドに到着したらすぐにこの場に向かうはずだったので、当然ながら僕達の勝手な行動は注意されてしまった。

 まあ、後悔はしていないとはいえ、勝手な行動をしてしまったことは僕もリーファも自覚しているので、それを甘んじて受け、改めてフィルゲン王国の王様との謁見へと臨んだ。


「お主がヘンディルの勇者リーファに、シシハラと共に異世界に来てしまった少年、カイトか」

「「はっ」」

「私はセルジ・ヒュリオ・フィルゲン。このフィルゲン王国を治める王である」


 招かれた広間にて、王様———セルジ様の前で膝をついている僕とリーファ。

 シフとライムはこの場には連れて来ておらず、今は別室でチサトの相棒? メルさんに預けている。

 チサトは、僕達の隣で同じように膝をついている。

 広間には思ったよりも人は多くなく、セルジ様の護衛と思われる二人の騎士と、壁際で僕とリーファに鋭い視線を向けている男性がいる。

 男の視線を気にしつつ、僕はセルジ様のお言葉に耳を傾ける。


「コカトリスの件。おぬし達の手を煩わせてしまったようだな」


 やっぱりコカトリスのことに触れてくるよなぁ。

 内心でドキッとしていると、先にチサトがセルジ様へと口を開いた。


「全て私の独断によるものです。二人は私に手を貸してくれただけなので、咎めるのなら私を」

「うぅむ、咎めるつもりなど元からない。むしろ手が足りないこの状況で動いたおぬし達に感謝しているのだ」


 よ、よかった。チサトも僕達も罰を受けなくていいみたいだ。

 というより、こんな状況で冷静なチサトが普通にすごい。

 僕なんて緊張のあまり、うまく声が出せない。

 ジェシカ様のフレンドリーさが、おかしいのだと再認識させられる。


「ここ最近になって、モンスターの動きが活発化しておってな。至る場所で暴れ、騒ぎを起こすモンスターに、我々も手を焼いておるのだ」

「だから、あの時コカトリスの討伐に向かう者がいなかった……のですね?」


 ややぎこちない敬語のリーファに、セルジ様が頷く。


「うむ。おぬし達がコカトリスを討伐したおかげで、民が傷を負わなくて済んだ」


 そうはっきりと言い放ったセルジ様。

 彼は肩の力を抜くように、自らが座している玉座の背もたれに身体を預ける。


「さて、この話はここまでとして、ようこそフィルゲン王国へ。よもや謎に包まれていたヘンディルの勇者がシシハラと同じ年頃の少女だとは思わなかったぞ」

「見た目より中身は子供だけどね……」


 誰にも聞こえないように小さく呟くと、リーファが睨みつけてくる。


「そして、シシハラと同じ世界からやってきた少年が隣国にいたとはな。しかも、よりにもよってオロチのいる遺跡に飛ばされているとは……死にかけたとは聞いたが、それは真か?」

「は、はぁ」

「そうか……本当に済まなかった。不慮の事故とはいえ、お主をオロチの遺跡に飛ばしてしまったのはこちらの不手際だ。何か、望むものがあれば可能な限り用意するが……どうだろうか?」


 ……ど、どういう反応をするべきなんだろうか。

 思わずリーファに助けを求めるが、当の本人は自分の話題じゃないから何も考えていない顔をしている。

 こ、ここで何かを要求するのも怖いし、とりあえず気にしないでって方向にしよう。


「いえ、オロチの遺跡で危険には晒されましたが、頼れる使い魔とも巡り合える機会があったのも事実です。私としては今日、逸れたチサトとも再会できたので、それで十分です」

「そうか……。たしか、テイマー……だったか?」

「はい」


 頷くと、セルジ様は顎に手を当てて唸りだした。


「しかし、できることならばシシハラの従者と思っていたが、ヘンディル王国の勇者の従者になっていたとは驚きだ。しかし、隣国というからには、他と比べて多く交流する機会があるだろうし、それほど関係はないか。なあ?」

「え? ええ、はい」


 唐突にそう尋ねてきたので思わず頷いてしまっていると、リーファの視線がさらに厳しくなった。

 なんだ? 僕は何か間違えたのか? 

 こういう時、頼れるシフはどこにもいない。


「時に、シシハラ」

「はい?」

「非常事態ではあったが、おぬしはリーファとカイトと共にコカトリスと戦ったのだろう? 勇者のおぬしから見て、彼女らはどうだ?」

「んー」


 きょろきょろとチサトの瞳が僕とリーファへと向けられる。

 数秒ほど同じことを繰り返した彼女は、セルジ様へと向き直りゆっくりとその口を開いた。


「私とはやや分野の違う戦闘法でしたが、二人とも実力のある戦士であると言えます」

「ほう」

「リーファは、影を巧みに操りその動きも並外れております。まだ戦闘の一部しか確認しておりませんが、恐らくその応用性は計り知れないものがあるでしょう」


 心なしかリーファの機嫌がよくなった。

 いや、心なしかどころじゃない。僕から見える頭の耳が嬉し気に動いているから、褒められて満更でもないようだ。

 そんなリーファを横目で見ていると、チサトが僕へと視線を向けていることに気付く。


「カイト君は、テイマーという特殊な立場ではありますが、その戦闘法はテイマーとは一線を画したアクティブなものになります」

「あくてぃぶ?」

「行動的ということです。彼は、使い魔と共に地を駆け、剣を振るい、眼前の強敵へと相対する物理的な強さを兼ね備えております。もし、彼と共闘するようなことがあるのなら……」


 そこでなぜか言葉を切るチサト。

 不自然な間に首を傾げるセルジ様だが、彼女はやや迷うような素振りを見せた後に再び言葉を発する。


「……頼もしい存在と言えるでしょう」

「むむっ」


 そして唸るリーファ。

 隣の相棒の情緒が激しすぎて、チサトとセルジ様の会話が全く頭に入らないぜ。


「ふむ……。おぬしがそこまで評するか」


 顎に手を当てたセルジ様が僕達へと視線を向ける。

 興味深そうに、ややワクワクとした様子の彼の瞳に少しだけ嫌な予感を抱いていると、彼は近くで控えている男に声をかける。


「ヴェルガ。明日、城の訓練場は使えるか?」

「命じてくだされば、そのようにいたします」

「そう、か。……リーファ、カイト、少しいいだろうか?」

「「はい」」


 セルジ様に返事をする。


「私としても、おぬし達二人の力を確認したい。明日、おぬし達の力を見せてもらっても構わぬだろうか?」

「!」


 ある意味で予想を超えた申し出に僕は驚きの表情を浮かべてしまう。

 ぼ、僕達の力を見せるって、多分、さっき言っていた訓練場でやるんだよね?

 それって結構な人が見ることになるってことなんじゃ……。


「了解しました」

「リーファ……?」

「カイト、大丈夫」


 その自信はどこから来るのだろうか?

 特に考えるまでもなく了承してしまったリーファ。

 まあ、決定権は彼女にあるから、それに従うまでだけども。

 セルジ様も、その気になっているみたいだしやるしかないか。

 ……緊張するけども。


「まずは、この城に滞在する間、おぬし達が泊る場所を案内させねばな」


 そう言って、セルジ様は数人のメイドさんを呼び出し、僕達の荷物ともどもを部屋に送るように指示する。

 到着して早々にコカトリスと戦うなんてことになって、ややこしいことになっちゃったけれど、その後もまた大変だ。

 セルジ様を含めた、城の人達に僕とリーファの実力を証明する。

 それがどのような形式かは分からないけど、下手をすれば僕だけではなく、ヘンディル王国の勇者であるリーファの評価に関わることになるかもしれない。

無意識ではありますが王様と周りの人達は、チサトとリーファ達を比べていますね。

もちろん、ほとんどの人物に悪意はありません。

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