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第四話

第四話です。


本日中に続けて第五話も更新いたします。

更新予告については後書きの方にて。



「まず、この遺跡を脱出する前にやっておくべきことがいくつかある」


 祭壇に背を預けるように座っている僕に、使い魔契約を交わしたシフがそう話しかけた。


「それで、なにをすればいいんだ?」

「おぬしに私を使っての実戦をしてもらうことと後一人、使い魔となる仲間を集めることだ」

「使い魔はともかくとして、君を使っての実戦って……君には何ができるんだ?」


 そう訊くと、シフは僕の肩の上に飛び乗ってくる。

 思っていた以上の軽さに驚く。


「普通のシェイプシフターはあらゆる生物・物体に化けることができるが、私は所謂、突然変異の個体のようでな。今の猫のような小さな生物と物体にしか変身することができない」

「え、それじゃあ、戦えないってこと?」

「話は最後まで聞け」


 そう指摘する僕の頬を尻尾で軽く叩いたシフは、自身ありげに背を伸ばす。


「聞いて驚くな。私は、三つの支援魔術を得意としているのだ」

「それって……すごいことなの?」

「もちろんだ」


 続いてシフは、上機嫌に尻尾を揺らした。

 かわいい。


「支援魔術とは、言葉通りに他人を支援する魔術だ。本来は人間にしか習得できない難解な魔術ではあるが、人間の友人に教えてもらったのだ」

「その人って、やっぱりここにいる……」

「ああ……」


 祭壇によりかかるように力尽きた白骨死体。

 この人が、シフの友達だった人……。


「良き友であった。この遺跡に迷い込み、閉じ込められていたところを気まぐれに助けた私に、言葉と、魔術と……大切な名を与えてくれたんだ」

「……」

「救いたかったが、私には力がなかった。今でも彼女に何もできなかったことを悔いている」


 そう悲しそうに口にしたシフ。

 僕は、改めて遺体に向きを変えると、手を合わせ目を閉じる。


「……すまない。話が逸れてしまったな。私が扱える支援魔術は、肉体強化、雷撃付与、火炎付与の三つだ。以前までの私には大した効果が望めない魔術ではあったが、お主と契約した今となっては違う」

「何が違うんだ?」

「使い魔になったことで、おぬしとの繋がりを通して魔力を受け取ることができるようになったからだ。高純度、高濃度の魔力は、私達に力を与えるからな」


 だとすれば、彼が戦うためには僕との契約が不可欠だったというわけか。

 それに、その支援魔術ってやつが使えるなら、あと一人仲間を集める理由も分かってきたな。


「それじゃあ、仲間を集めるのは君の支援魔術を生かすためってことか?」

「うむ。いい、いいぞ、呑み込みが早い。その通りだ」


 嬉しそうに頷き、褒めてくれるシフに照れる。


「今のままではおぬしを強化するしか手はないからな。しかし、それはテイマーの戦い方ではない。テイマーとは、従えた使い魔に指示を下し、的確な判断力が求められるものだからな」


 かっこいいが、難しそうだな。

 咄嗟の状況判断が命取りになりそうだし、何より戦わせるであろう魔物の命を預かることになる。


「僕に、できるかな……」

「私は既におぬしの使い魔だ。おぬしが私に助けを求める限り、いくらでも手を貸そう。そのための私でもある」


 た、頼もしい……!

 現状、僕にとっては絶望的な状況には変わりないけれど、シフがいてくれるのなら心強い。


「まずはこの空間を抜け出そう。私が入ってきた隙間は分かるか?」

「うん。あそこからだよね?」


 瓦礫でふさがれた扉に生じている隙間。

 崩れるかもしれない心配があったけれど、

 近くで見てみれば、人一人が余裕で通れるほどの穴が空いているのを確認した。


「狭いけど……なんとか通れるな……」

「頭に気をつけたほうがいい。その荷物は持っていくのか?」

「……置いていくしかないか」


 荷物を持ってこの穴を通れそうにないし、なにより今後使うかどうかさえ微妙だ。

 それどころか、カバンを持って魔物はびこる遺跡を移動するのは無謀すぎる。

 カバンと傘をその場に捨て、先導してくれるシフと共に扉の隙間に入り込む。


「むぐぐっ」

「仲間にする魔物にはあたりをつけている。コボルドという犬頭の魔物だが、こいつは身軽で、力強い。きっとおぬしの力になってくれるはずだ」


 上機嫌に尻尾をゆらしながら先を歩くシフに、苦笑しながらなんとか隙間を這い出る。

 扉の先は、古ぼけた通路が広がっており、ここも変わらずに瓦礫が転がっていた。


「さてと、コボルドの場所は既に分かっている。案内しよう」

「頼むよ」


 シフについていきながら、周囲を確認する。

 地下……ではあるけど、上の亀裂から太陽の光が差し込むあたり、それほど深い階層ではないようだ。

 むしろ、下の広がりではなく、横に広い空間なのか?

 暗闇で朧気だけど、見える範囲には石柱が広がっているし。


「ここは、かつて魔王が根城にしていた場所の成れの果てだ」

「……魔王がいるの?」

「今は別の者が名乗っているがな。恐らく、お主と選ばれた娘が召喚された理由も魔王が原因だろう」


 これまたファンタジーの定番……だけど、その当事者が僕の知り合いとなると笑えないな。

 獅子原さん、大丈夫だろうか。

 どこに召喚されたかは知らないけど、危険な目にあってなければいいけど。


「一つ、注意しておく。今のおぬしが使い魔にできる魔物は、私を除いてあと一体ほどしかいないだろう」

「そうなの?」

「おぬしはテイマーとして目覚めたばかりだからな、現状、使い魔として従えられるのは二体までだ。だからこそ、次の魔物は慎重に選ばなくてはならない」


 だからこその前衛をこなせるコボルドか。

 シフの言葉に納得しながら通路を進んでいくと、前触れもなく彼の歩みが止まる。


「むっ、止まれ。カイト」

「どうした?」

「先を見ろ」


 彼に言われたとおりに、暗闇の先の空間へと目を凝らす。

 すると、通路の壁際で、小さな複数の何かが跳ねている。

 なんだあれは?


「ぴぎー!」

「ぴぎゥー!」

「キュ、キュゥ……」


 ……いや、本当になんだ?

 何か、風船のような水色の何かが跳ねながら、もう一つの銀色の色違いの風船を叩いている。


「あれはスライムだ」

「スライム? あれが?」

「集団で襲われると厄介ではあるが、個体だとそれほど強くはない。それに、今、奴らは同族を虐げるのに夢中なようだ」


 同族と言うと、あの銀色の色違いのことか?

 たしかにいじめられているように思えるけど、なんだか可哀そうだな。


「真ん中にいるのは、ミスリルスライム。スライムがミスリルという特殊な鉱物を食らうことにより、生まれる特殊な個体だ」

「……特殊? なら、普通のスライムより強いんじゃないか?」

「かなり珍しくはあるが、食らったミスリルのせいで動きも遅くなり、スライム本来の強さが失われてしまうのだ。だから、普通のスライムにすら勝てない」

「……」


 叩かれるたびに金属音が響く辺り無傷なんだろうが……悲痛な叫びをあげている理由は、痛みが理由ではないのは明白だ。

 なんともいえない顔で目の前の光景を見ていると、そんな僕の顔を見たシフは、肩に飛び乗ってきた。


「わっ」

「ふむ。スライムならば丁度いいか。私の支援魔術をおぬしに施し、あのスライム共を追い払おう」

「シフ……分かった。やろう」


 気を遣わせちゃったかな……?

 気持ちを切り替え、集中する。

 支援魔術を僕に施すということは、僕自身が戦うことを意味する。

 無茶苦茶怖いけれど、ぶっつけ本番で戦うよりはスライムで肩慣らししておいた方がいい。


「ちなみに聞いておくが、カイト。武術や剣術の経験はあるか?」

「小学生の時に空手をやってた。それと毎週金曜日に、父さんが見ているプロレス番組を見てた」

「カラテ? ぷろれす? 聞き慣れないものだが、うむ、強そうだな。これは期待できそうだ」


 そもそも空手だって、そんなに長くやってないからうろ覚えだから役には立たない。

 自分でハードルを上げてしまったことに後悔していると、僕の身体からシフの身体に魔力が流れ込んでいくのを感じる。


「初の実戦。相手はスライムだが、追い払うだけでいい」

「分かった。まずは、その支援魔術に慣れることから始めるよ」

「よし、ならかけるぞ」


 肩に乗るシフの身体が薄い光に包まれ、それが僕の身体に移っていく。

 体に力が漲るこれまでにない不思議な感覚に身を任せていくにつれ、思考が戦いのそれへと移り変わる。



ちょっと中途半端なので、今日中に次話を更新いたします。

第五話の更新は本日、17時となります。

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