第二百八十六話
第二百八十六話です。
ヴィングル王国に帰還し、城に向かうセーラさんと一旦分かれた僕とチサトはイオさんと共に屋敷へと戻ることになった。
本来なら僕達もセーラさんと共に城に向かうべきだったのだが、セーラさんが疲労した僕のことを気遣ってくれたのか、彼女一人で向かってくれたようだ。
「では、浴場の準備をしてまいります。……お怪我はありませんか? あれば手当てをいたしますが」
「大丈夫、メリアに癒してもらったから」
「私は怪我もしてないし元気」
ぶい、と指を立てるチサト。
本当にチサトだけが元気すぎる。
僕の代わりにリーファを背負ってもらってもよかったんじゃないか?
「とりあえず、ソファーにリーファを寝かせるか」
ずっと背中に背負っているのもアレだし。
というより街中では変な視線を向けられてたし、ある意味では手遅れみたいなものだけど。
「ふんっ! ぬ、ぐぐぐぐ……!」
「どうしたの?」
「いや、しがみついて離れない……ふんっ! 起きろ! リーファ!!」
なんだ、こいつ離れねぇ!?
背負ったまま、というか両手両足でしがみついた彼女が僕から離れない。
心なしか首元で耐えるような吐息がする。
「お前、実は起きてるな!?」
「ぐぅ! ぐぅ! ぐぅ!」
「そんな力んだ寝言聞いたことないわ!!」
なにが好きで僕の背中にしがみついているんだこいつ。
仕方ない、ここで魔力の消費を控えたかったが……。
「純魔の魔力を食らえ……!」
なけなしの魔力を振り絞り、背中に純魔の魔力を集める。
すると一気に身体から力が抜けたリーファが、へにゃりとソファーへと崩れ落ちる。
「し、しみゃった……」
「ふぅー、まったくしょうがないやつだ」
「なにこの茶番」
ようやく解放された。
腕をぐるぐると回し、次に背を伸ばす。
「どうして寝たふりをしてた?」
「……それはどうして人は眠ると同じ質問だけど?」
「そこまで難解な質問をした? 僕?」
普通に首を傾げられてしまった。
まさか自分で歩くのが面倒だからずっと寝たふりをしていたとでもいうつもりか。
……くっ、ここにシフがいればビリビリ電気ショックを食らわせたものを……!
「はあ、僕も疲れた。ユラン、ライム、ハクロも休むといいよ」
「キュー」
「シャー」
「ウォン」
使い魔それぞれ達が出てくる。
だが、元気というわけではなく、当然皆疲れ切っている。
あそこまでの戦いを経験したわけだからな、それもしょうがない。
足元にすり寄ってくるハクロの背を撫でながらそう考えていると、僕の斜め前の椅子に座ったチサトが声をかけてくる。
「これからどうなると思う?」
「どうなるって……魔王軍がなくなるわけだし、今度はリオンさんの目的に付き合うことになるんだろうなって思ってる」
「ぶっちゃけあの人信用できなくない?」
「私もそう思う」
「そういう気持ちも分かるけど、逆に考えるとさ。そこまでしないといけない理由があったってこととも考えられるんだよ」
リオンさんの行いは褒められたものではない。
彼女に一応の罰を下した今となっては、変わらず彼女を疑うのではなくて、どうしてそのようなことをしたのか、その理由を問いただすべきだ。
「どんなに悪いことをしようと、リオンさんは人間の側に立ってくれている神獣だからな。まあ、この会話も多分聞いているんだろうけど―――もし、次同じことをしたら、メリアにまた頼むことになる」
メリアにばかり頼るようになって悪いけどね……。
現状彼女に反省させられるのは、メリアかウィルさんしかいないからしょうがない。
「まあ、その前に僕達には休息が必要だけどね」
「私は元気だよ?」
「私もいっぱい眠った」
「怒っていい?」
「「ごめんなさい……」」
笑顔でそう言う僕に謝ってくる二人。
正直、今にも眠ってしまいたいくらいに疲れているが、汗も流したいしお腹も空いているので眠るのはその後にしようと決めている。
「私達勇者もお役御免って思うと不思議な感じだよね」
「うん。でもようやく冒険者として動けると思うとちょっと嬉しいかも」
「あ、そうだね。ようやく金の冒険者としても依頼を受けられるかもしれないんだよな」
リオンさんの計画がどのようなものかは知らないけれど、冒険者としての仕事が久しぶりにできそうなのは素直に嬉しいな。
「金の冒険者になってからボランティアと都市の内側に関係する依頼ばっかりだったもんね」
「ああ、一度くらいは遠征依頼とやらも受けてみたい」
魔王軍のせいで行けなかったり、セントレアルに行くようがあって迂闊に外に出れなかったり、そもそもリーファとニーアの実家に行かなきゃならなかったわけで、おおがかりな依頼を受ける暇すらなかったからなぁ。
そう考えると、ようやく僕達も金の冒険者として活動できるのかもしれないな。
「むぅ、やっぱり、私ヘンディル王国に行く」
「どうした急に」
「私達、友達だよね?」
「それ状況によっては脅しだからな……?」
突然頬を膨らませたチサトが拗ねたようにそんなことを言ってくる。
この様子だと本当にヘンディル王国にまでやってきそうだな……。
まあ、それは彼女の自由だし、止めるつもりなんて全然ないんだが、彼女がいるおかげでただでさえ騒がしい日常がもっと騒がしくなりそうだ。
「魔王軍は、もう倒れたんだしな」
目下の戦うべき相手はいなくなった。
色々とここまでに起こった出来事に関しては中々に思わされるものがあるが、それでも僕達はやり遂げた。
それが例えどんな形でも、だ。
「油断せずに、頑張ろう」
だからこそ油断せずにいこう。
これから本当に何が起こるのか分からないからな。
これにて第六章は終了となります。
閑話を数話ほど更新した後に、第七章へと移ります。
近いうちに週四更新から、更新形式を変更することになるかもしれません。
その時は前書きにてご連絡いたします。




