第二十五話
今回から、更新日時が18時からとなります。
ベノムモンキーの毒を回収し終えた僕達だが、捜索に時間をかけすぎたせいで街へ帰る前に夜を迎えてしまった。
それほど王国から遠くないにしても、ここは魔物や動物が生息する森の中、迷ってうっかり魔物の縄張りに入ってしまう危険もあるので、僕達は比較的安全な場所で朝まで野宿をすることになった。
パチパチと枝が弾けている焚火を眺めながら、近場の川で捕まえた魚を軽く調理し、串で刺して焼く。
「———おなかすいた」
「待ってなさい。すぐに焼けるから」
「うん、ママ」
「誰がママだ」
体育座りのまま焚火で炙られる魚を睨みつけるリーファ。その視線は、さながら獲物を前にしたライオンのように鋭い。
最初の頃は、不機嫌かと思いちょっとビビってたけど、今は単純にお腹が空いているだけだと知っているので、慣れてしまった。
足の上に乗っているライムを撫でつけながら、今日までの依頼を思い出してみる。
「……しかし、僕達も冒険者としての仕事に慣れてきたね」
「そうだね。お金も稼げるようになってきたし、良い感じだと思う」
メルクさんのおかげで食費が浮くし、順調に金銭を蓄えてられるってのはいい。
この調子で、ギルド長のベルセさんに以前いただいたお金を返すこともできるし、何より今以上にいい装備を買うことだってできる。
「色々な魔物と戦ったりして、私も少しだけ強くなれた気がするし……」
「たしかに、色々戦ったなぁ。まあ、大きい奴はいなかったけど」
コボルド、スライム、ゴブリン、人食いサソリなどなど、人に迷惑を与える魔物から、本当に凶暴な魔物まで色々と戦った。
その時、初めて魔物という存在を手にかけてしまったけれど……正直、あれはいつまで経っても慣れることはないだろう。というより、テイマーとして、慣れてはいけないものだと直感的に理解してしまった。
「元より、カイトもリーファも大抵の魔物が相手にならん才覚は備わっていたからな。ある程度、戦いに慣れれば、ここら周辺にいる木っ端魔物には負けることはないだろう」
「僕はシフとライムがいなくちゃ、戦えないけどね」
「そう謙遜するな。おぬしは私達なしでもある程度は、動けるようになっている。自信を持て」
そうかな?
あまり自覚はないけれど、シフがそう言ってくれるのならそうなんだろうな。
黒猫状態で丸くなっているシフの言葉に少しだけ照れる。
「まあ、リーファほどではないが」
続けて発せられた言葉に、がっくり。
いや、それは分かってるけど、いざ口にされると普通にへこむ。
「でも、この一か月、一人で戦ってきた時よりもずっと成長を実感できてる……と思う」
「そう?」
「うん。カイトの魔力のおかげってこともあるけど……」
ちらりと僕を見た彼女は、もう一度焚火に視線を移すと小さく笑みを浮かべる。
「信頼する“誰か”と一緒に戦うのが、こんなに充実できるものだなんて考えもしなかったから。今までは、姉さんを見つけるために一人で戦おうとしてたから……」
魔王軍にいるというリーファの姉。
今のところ、その人についてはよく知らないけれど、相当やばい人だってことは知っている。
そんな人を見つけるために一人で行動しようとしていたのは無茶としか言えないけど、今は大丈夫そうだ。
彼女を見てそう思っていると、今度はシフが彼女に話しかけた。
「時に、勇者関係で城の方に行かなくても大丈夫なのか?」
「それは心配ない。定期的に報告はしてるし、今のところ招集もない」
意外と王国の方は放任主義なのかな?
リーファは女王様と面識があるらしいけれど。
「もしかして……僕のことは話した?」
「勿論。でも、今のところは城に連れてくるようには言われてないかな」
ほっ、良かった。
なんというべきか、女王とか国王とか僕にとっては文字通りに別次元の存在だったから、会うにしても緊張どころの騒ぎではないのだ。
そういう意味では、まだ城に呼ばれるような事態じゃなくてよかったと思う。
一安心したところで、ふと焚火のために用意しておいた枝がなくなってきていることに気付く。
「ちょっと焚火のための枝を探してくる」
「私もついていくぞ」
「キュっ!」
「ははは、心配いらないよ。僕一人でも大丈夫」
リーファも手伝うといってくれたが、さすがに薪拾いにそこまですることはないと思い断っておく。
僕もある程度のナイフの扱い方は心得ているからね。それに、いちいちシフとライムに守ってばかりなのも情けない。
リーファに魚を見るように頼みながら、僕はランタン型の小型の魔具を片手に暗闇へと足を踏み入れる。
「ま、そこまで遠くにはいかないんだけども……」
言っても二〇メートルくらいの距離だ。
すぐに焚火の明かりを目視できるし、迷うはずもない。
そう思いながら、足元の小枝を取ろうとすると、チクリとした痛みを指に感じる。
「っ、ちょっと切れちゃったか?」
どうやら、枝の尖っている部分に触れてしまったようで、右手の指先からちょっぴり血が出てしまっている。
まあ、それほどの傷でもないから後で消毒しておけば問題ない。
引き続き、足元に気を付けながら乾いた小枝を探していると―――がさりと、僕の前方の茂みが揺れた。
「!」
な、なんだ!? 魔物か!?
動揺しながら、ナイフに手を構える。
がさがさと揺らいだ茂みから何かが勢いよく顔を出してくる。
「ワフッ」
「い、犬……!?」
頭に葉っぱをつけながら、ばたばたと身体を動かし茂みから出てきたのは白い犬であった。
白い犬は僕を見て逃げることもなく、ゆっくりとした歩調で近づいてくると甘えてくるように足に体を頭を擦り付けてきた。
「ゆ、夢!? 幻覚!?」
突然の事態にまず僕の正気を疑ってしまう。
なにこの子、動物なのに僕を見て逃げないの? というより、どこかで見たことがあるような……。
手を震わせながら、白い犬の頭に右手を当てると気持ちよさそうに目を和ませる。
嘘やん。
犬の毛並みってこんなにひんやりしてるの……?
「……」
「♪」
ちょっと僕の魔力が吸い取られている気もしなくもないけど、この子も気持ちよさそうだし別に気にするほどでもないな。
かわいいし。
「というより、君、犬じゃなくてオオカミじゃね?」
「ウォゥ!!」
近くで見れば、犬のような愛嬌よりもオオカミのような凛々しさを感じる顔だ。
つまり、野生のオオカミで、尚且つ僕を見ても本能的に恐れない動物である。下手をしなければ、僕が喉笛を食いちぎられていた可能性もなくはないが、これも別に気にするほどでもない。
かわいいし。
「くぅーん」
「え? なに? え?」
何やら、頭に置いた右手が一瞬光る。
すると、あれほどまでに大人しかったオオカミは、そのまま後ろを振り向き凄まじい速さで暗い森を駆け抜けていってしまった。
その際に、ふんわりとした冷たい風が頬を撫でる。
「ぁいふぉ!」
「カイト!!」
すると後ろからライムを頭にのせたリーファと、シフが走り寄ってくる。
リーファは、焼き終えた魚を口を咥えて、なにを喋っているか分からないけど、シフは僕の姿を見て安堵していた。
「おぬしの魔力に変化があったから、何事かと思ったぞ……って、むむ?」
ジロりとシフが訝し気に僕を見る。
「おぬし、私とライム以外の魔物を使い魔にしたか?」
「え、してないよ? さっき白いオオカミには会ったけど」
「オオカミだと? なぜ、カイトに近づいて……」
そう言って、右手を振ると、シフの視線が右手の指へと注目する。
数秒ほどして、わなわなと小さな体を震わせたシフは、ビヨーン!という擬音がつきそうなジャンプと共に、僕に体当たりを仕掛けてきた。
「このバカ者ォ――――!!」
「ひぇぇ!?」
「そいつは魔物だ!! おぬしの指の傷から出た血を媒介にして、無理やりおぬしの使い魔になったのだ!!」
「えぇぇ!?」
「嬉しそうな声で驚くな!! おぬしというやつは! おぬしというやつはぁぁ!!」
後ろへ倒れた僕に、かつてないほどの怒りを見せるシフ。
それに気圧されながらも、リーファに助けを求めるも、彼女は「しろい、おおかみ」と呟きながら二匹目の焼き魚を口にしている。
しかし、あれが魔物か。
見た目は普通の動物にしか思えなかったけれど、まだまだ僕の知らないことがたくさんあるんだなと思い知らされてしまった。
どんどんポンコツの片鱗を見せてくるリーファ。
そして、犬に近づかれただけで幻覚を疑う主人公でした。




