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第二話

二話目の更新です。

第二話

「———ハッ!?」


 目を覚ますとまず視界に映り込んだのは、灰色の天井であった。

 至るところにひびが入り、割れた隙間からは太陽の光らしきものが差し込んでいた天井を見て、なぜ自分がこんなところで寝ているのか首を傾げる。


「な、なんだ……? 僕は、どうしてこんな……ところに……」


 たしか僕は傘を差しながら学校から家へ帰ろうとして、それで獅子原さんと遭遇して、よく分からん魔法陣とやらの光に包まれて……。


「ッ、獅子原さん!」


 がばっ、と起き上がり周りに目を向ける。

 周囲は瓦礫が転がっており、とても人がいそうな場所には思えなかった。

 自分が寝ていた場所もよく見てみれば、祭壇のような台で寝ていたようで、傍目から見ればまるでなんらかの儀式で生贄に捧げられたように思える。


「な、なんだ。この場所……いや待て、状況を、状況を把握しなくては……」


 学校から帰っていたら、偶然先を歩いていた同じクラスの獅子原さんの足元に魔法陣が発生してしまった。

 丁度その範囲内にいた僕は、あまりにも呆気なく巻き込まれてしまった。


「あの時の衝撃……もしかして、僕は弾かれたのか?」


 中途半端に魔法陣に足を踏み入れていた僕は、転移途中に魔法陣から弾き飛ばされしまったのではないか?

 それで、本来連れていかれる場所とは違う、どことも知らぬ遺跡のような場所で気絶していた。

 ……。

 ……。


「どういうことじゃァァァァ!」


 一緒に転移された学生カバンを地面に叩きつけ、絶叫する。

 本当に訳が分からない。

 なぜ、こんな日本ですら定かではない、場所に放り出されなければならないんだ!?


「まさか、アレが僕をこんな場所に飛ばしたってのか!? そんなことある!?」


 というより僕は帰れるのか!?

 今のところ命の危険しか感じないのだけれど!?

 数分ほど、誰もいない遺跡で愚痴を叫び、とりあえず落ち着きを取り戻した僕は、わめいていてもどうにもできないことを悟り、まずは持ち物の確認をすることにした。


「スマホ、筆箱、傘にカバン……うん、全く役に立つ気がしない……」


 スマホに至っては圏外。

 しかもバッテリー残量3%という、ただの重りになる数分前といった感じだ。

 自分の持ち物で頼りになりそうなものはない。

 それなら、周りに出口かなにかないだろうか? とりあえず、太陽の光がほとんど差し込まない薄暗い場所から抜け出したい。


「なにか、なにかないか……」


 出口のようなものは、あるにはある。

 しかし、瓦礫が積み重なって人一人分ほどが通れるほどの穴しか空いてなく、その先があるかどうか分からないのだ。

 あそこを通るのは、もう少しこの場を調べたあとにしたい。

 そう考え、僕が目覚めた場所の周辺に何かがないか探していると、祭壇の裏側になにかを見つける。

 祭壇の影でよく見えないが、人間大の大きさのなにかだ。

 いや、これは人間大というより……。


「し、死体!?」


 白骨化した人の遺体。

 驚きのあまり後ろに転んだ僕は、恐怖のあまり震える。

 こ、この人の遺体がここにあるってことは、僕と同じように連れてこられて……そのまま出られなくなったってことなのか……?


「ぼ、僕はずっと、ここで……」


 悪い想像は止まらない。

 目の前の現実を目の当たりにして、心が折れそうになる。

 その時、出口と思われる穴のある方から、何か物音のようなものが聞こえる。

 肩を震わせながら、そっちを見ると人一人分が通れるほどの穴から、黒い小さな動物のようなものが這い出てきた。


「ね、猫……? こ、こんなところに……?」

「……!」


 それは一匹の黒猫。

 薄暗い影の中で、鳴きもせず怪しく目を輝かせた猫。

 その視線は、白骨死体を前にして腰を抜かしている僕へと向けられていた。


「……ッ」


 見た目は、動画や遠目で見ていた普通の猫であったが、どういうことか僕にはそれが猫には思えなかった。

 猫の形をした別の生物。

 直感的にそう思っていると、瓦礫の上にいた黒猫はその場で異様な跳躍を見せ、僕の元へ襲い掛かってきた。


「へ?」


 動物に襲われる―――そんな心配事から無縁な生活をしていた僕にとって、前足を大きく開き襲い掛かってくる黒猫に反応するなんてことできるはずもなかった。

 そのまま、胸部に体当たりをかましてきた黒猫に押し倒され、冷たい石畳に背中を打ちつける。

 痛みに目を開ければ、目と鼻の先に牙を剥き出しにさせた黒猫の顔があった。


「ご、ごめんなさい! 今までさんざん、猫なんて可愛くないとかうそぶいてましたけど、猫超大好きでした! 動画とかめっちゃ見てました!! 猫に超嫌われる俺ですけど、ぶっちゃけ猫にずっと触りたかった人生でした! 命だけは、命だけはお助けをォ!」

「……」


 人間追い詰められるとなんでも口にしてしまう。

 涙目で、猫相手に命乞いをするという奇妙なことをしている僕の顔をまじまじと見た黒猫は、小さな前足で僕の顎に触れると、まるで確認するかのように右へ左と顔を動かす。

 アッ、肉球だ……と未知の感触に、もう死んでもいいかなと思っていると、不意に黒猫は僕から顔を離した。


「おぬし。人間か?」

「……は?」


 猫が喋った?

 え、嘘、猫って喋るの?

 もしかして、僕が動物に嫌われているだけで、実際は猫って喋れたのか?

 混乱する僕に、黒猫はふわりと尻尾を動かす。


「驚いた。よもや、ここに迷い込む人間がいるとはな。正気ではないようだが……ふむ、この魔力」

「な、ななな……なんで猫が、喋って……」

「むっ、私は猫ではない」


 ややムッとした顔になる黒猫。

 その姿で猫じゃなかったらなんだ? あれか? 海外のネコ科の何かか?


「分からんか。私はシェイプシフター。猫ではなく、魔物だ」

「シェイプ……シフター? マモノ?」

「むむ、私のことも魔物のことも知らんか。これはまた変な人間が入り込んできたな」


 ぴょん、と僕の上から降りた黒猫は、祭壇へ飛び乗る。

 ちょうど、僕を見下ろすように背筋を伸ばしたそいつは、よく通る綺麗な声ではっきりと僕へと語り掛けた。


「まず、私達は互いのことについて話すべきだな」


 訳の分からない場所に飛ばされた挙句、次は喋る黒猫。

 それにシェイプなんとかに、魔物。

 分からないことだらけだけれど、少なくとも理性的に話す目の前の存在は信用してもいい、と思えた。



次回もすぐさま更新いたします。

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