第百五十四話
第百五十四話です。
気を取り直して、前に進もう。
リオンさんが得体の知れない存在だったという衝撃は一先ず……一先ず忘れるとして、僕達はセントレアルの人の案内の元、都市の中央にそびえたつ大きな神殿のような建物にやってきていた。
「ここ、セントレアルは他の国とは違った在り方を持つ都市であります」
案内してくれている方がセントレアルについて簡単に説明してくれる。
「この時代で最も進んだ技術を用いるこの都市の周囲には、外敵からの攻撃を阻む結界が張られており、あらゆる障害から都市内部の貴重な財産が護られております」
「財産……?」
「この都市に住む技術者たちであります」
案内してくれている方が、その場を振り返る。
彼の視線の先には、彼が“技術者”と呼んだ人々が平和に暮らしている。
しかし、ここまで来る時も疑問に思っていたけれど、僕達がいたヘンディル王国とは違い、この都市はどこか人が少ないように思えた。
「技術とはすなわち、我々人類が繋ぎ、伝えてきた宝であります。それらを後世に伝え守り抜くことこそが、我々にとっての使命なのです」
知識は宝、と言うけれどもこの都市にとってはその知識を伝え、活用させることができる方が重宝されるというわけか。
なんというか、現実離れした話だけどそうする理由もよく分かってしまう不思議な話だ。
そんな話をしている間に、目的地に到着したようだ。
「ここから先には私達は進むことはできません。奥の広間にて他の王国の勇者様方がお待ちしておりますので、そこで待機なさっていてください」
「使い魔は連れて行っても大丈夫ですか?」
「勿論でございます。しかし、形式としては武器として扱われますのでご注意を」
恭しく一礼した男性にお礼を言った僕達はそのまま到着した建物へと足を踏み入れる。
神殿のように白色の柱が並んだ外観。
その奥で解放されている大きな扉。
ただただ荘厳な雰囲気に呑まれながら、建物の奥へと進んで行くと一際広いホールのような場所へとたどり着く。
「なんだか、ラウンジっぽい」
「たしかに。ソファーとか置いてあるし、ここがそうなのかな?」
小声で話しかけてくるチサトに頷きながら周りに目を向ける。
僕達を除いてこの場にいるのは約二〇人ほど。
基本的にバラバラな場所で二人一組で行動しているということは、彼らが他国の勇者ということになるの
だろう。
「空気が緊迫としているね」
「うん、心なしか睨まれてる気がしなくもない」
「ぐるるる……」
「カイト君、唐突にリーファが唸りだしたんだけど……」
なぜか周囲を睨みつけながら唸るリーファ。
威嚇のつもりなのだろうけど、ただの変人である。
ヘンディルの恥をさらす前に彼女を止める。
「リーファ、お黙り」
「むんぅ……」
「時々、君達の関係が分からなくなってくる……」
主と従者の関係です。
時々、逆転することもあるかもしれないけれども。
「とりあえず座ろうか。テーブルにはお菓子とか置かれているみたいだし」
「もぐもぐ、そうだね」
「なんで君は既に食っているんだ……?」
本当に君は自由だね。
既におかし片手にもぐもぐしているリーファにツッコミをいれながら、人のいない手近なテーブルに移動する。
「シフ、ここで待機でいいんだよね?」
「うむ。そのように言っていたな」
シフにお菓子を渡しながら、改めて確認する。
……やっぱり見られているな。
チサトが勇者として有名ということもあるけど、僕自身二人の勇者の従者という前代未聞な立ち位置にいることも相まって注目されているのかもしれない。
チサトの言っていたように他の勇者からのやっかみがなければいいのだけど―――、
「わぁ、新しい人だぁ」
「「「!」」」
僕達へ向けられた間延びした声。
その声の方を向くと、リーファよりも少し背の低いローブ姿の少女がこちらへ駆け寄ってくるのが見える。
ウェーブのかかった髪。
どこかしらほんわかとした雰囲気の金髪の少女は、無警戒な様子でやってきた。
「こんにちわ! 貴方達は新しい勇者仲間かしら?」
「う、うん」
「そうだけど……」
むちゃくちゃ明るい笑顔だ。
その勢いにチサトもリーファもやや引き気味に頷く。
「私、マリーナ。ヴェラルザル王国の勇者! よろしくね!!」
バッと、チサトとリーファに向けて右手が差し出される。
握手を求められているのをすぐに理解した二人は、引きながらも手を差し出した。
「……私は、ヘンディル王国の勇者、リーファ・ウルガル。……よろしく」
「フィルゲン王国、シシハラ・チサト。えーと……よろしく?」
「よろしく! リーファ! チサト! 勇者同士、仲良くしましょう!」
なにこのコミュ力おばけ。
チサトはともかくリーファを相手にここまでぐいぐい行ける人なんてライラくらいしか見たことがないぞ。
ぶんぶんと握手をしたマリーナさんは、今度は僕へと振り返る。
「貴方は?」
「あ、えーと、僕はアリハラ・カイト。そこの二人の従者なんだ」
「二人の?」
僕からチサトとリーファへと視線を移した彼女は、すぐに得心がいったように手をならす。
「まあ、異世界からの勇者と従者さんでしたか! お会いできて光栄です!」
「は、はい」
差し出された握手に応じる。
やっぱりそこらへんの話は有名なのだろうか?
曲解されて伝わっていなければいいんだけど。
「ここ座るね?」
「え、うん」
電光石火の速さでチサトの隣に座るマリーナさん。
僕達の顔を見回した彼女は、ものすっごいニコニコとした笑顔を浮かべる。
「ふふふ、ここにいる方はみんなピリピリしているから、皆様のようにお優しい方がいてくれてよかったです」
「そうなの?」
「ええ、私はまだ従者さんがいないから、二人が羨ましいわ!」
そう言葉にすると隣にいるリーファが瞳を鋭くさせながら僅かに腰を浮かす。
しかし、その挙動を前に座るチサトが手で制する。
「むん?」
「待て、抑えてリーファ。これは違う」
仲がいいね、君達。
リーファを落ち着かせたチサトは、隣で首を傾げているマリーナさんへと声をかける。
「マリーナ。貴女は他の勇者達にも声をかけたの?」
「ええ、私同じ勇者のお友達が欲しくてたくさん声をかけてきたの。でも、皆さんとても気難しい方ばかりで……」
「追い返されてしまったと……」
「そうなんです……」
社交目的で来たというわけじゃないのか。
だとしたら、他の国の勇者の確認に来たのかな?
いつのまにか話をする流れになってしまったけれど、他の勇者のことを知っているのなら聞いておくべきだな。
そう考えていると、何かを思いついたような表情を浮かべたマリーナさんは口元に手を寄せながら声を潜め、僕達へ話しかけてくる。
「あ、じゃあ仲良くなったついでに教えちゃいます」
「何を……?」
「怒りやすい勇者様とか、プライドの高そうな勇者様についてですっ!」
「……そういうことを話していいの?」
「いずれは分かることですからね」
リーファの言葉ににっこりと頷くマリーナさん。
意外と強かな性格のようだ。
マリーナさんは手を隠しながら、屋内にいる人物を指さす。
その先にいたのは、酒らしきボトルを片手にした無精ひげを生やした男であった。
「まずはハムガルド王国の勇者、フィグロさん。あの方は結構怒りやすいです。巨獣の侵攻で、故郷を護ることができなかったのでかなり荒れているらしいです」
ハムガルド王国か。
あそこは巨獣の侵攻で壊滅してしまったらしいからな。
それに責任を感じて荒れてしまったのだろうか?
そして、彼女が次に指さしたのは、青髪の少年だ。
14歳くらいだろうか? 僕達よりも年下に見える彼の傍らには、同じ青色の髪の男性が寡黙な様子で佇んでいる。
「あれはニルムガーナ王国の勇者ヘキル君と、彼の従者でお兄さんのハルトさん。ヘキル君はもう、自分が一番じゃなくちゃ気が済まない子らしくて、挨拶した瞬間に鼻で笑われちゃいました」
たしかにやんちゃそうな少年だな。
ちょっと、あの子には注意したほうがいいかもしれない。
「あとは――」
まだまだ注意したほうがいい人がいるのか、続けて言葉を発しようとする彼女だが、それよりも先に広間に白い服を着た人達が入ってくる。
僕達を案内してくれたセントレアルの方と同じ服装だ。
その後ろには、三組ほどの男女がおり、恐らく彼らもどこかの国の勇者なのだろう。
『準備が整いました。勇者様、並びに従者の方々は先の扉から会場へとお入いりください』
「———もっとお話ししたかったのですが、準備が整ってしまったようですね。では、私は従者の元へ戻ります」
「話、ありがとね」
「こちらこそ、どうもありがとうございます! またお話しましょうね!」
そう言葉にして立ち上がったマリーナさんは、とたとたとその場から離れていく。
嵐のような人だったなぁ、と思いながら彼女の背中を見送っていると、不意に歩き出した彼女が、広間に置かれているゴミ箱の前で立ち止まったことに気付く。
「ん?」
彼女はポケットから取り出したハンカチで両手を拭うと、それをゴミ箱へと捨ててしまう。
———え? 今、握手した手を拭いたの?
なにそれメンタル削げる。
い、いや、きっと手が埃とかで汚れてたんだろう。
そうじゃなきゃ、あんな嬉しそうな様子で話しかけたりしないし。
「む、カイト、どうした?」
「ん、なんでもないよ。それより早く先に行こうか」
集められた勇者達。
周りを見る限り、リオンさんの言っていた通りに一癖も二癖もありそうな人達ばかりだ。
なんだかんだいってリーファは上位に入るくらい癖のある勇者という……。




