第百五十一話
第百五十一話です。
セントレアルから馬車が派遣される日。
僕、リーファ、チサトはそれぞれの準備を整えた後に、馬車がやってくる都市の外れにまで移動した。
以前、リックさんと遠征する際に利用した商人やギルド所有の馬車などが多く留まっている場所に到着した僕達は、ジェシカ様が寄越してくれた城の方の案内の元、早速セントレアルの馬車を探していた。
『っ!?』
『ヒヒーン!?』
『ブルル!?』
最近、すっかり忘れてしまっていたが、僕の動物に恐れられてしまう体質により馬車を引いている馬や牛が怯えるように竦んだ悲鳴を上げてしまっていた。
やはり、魔物や神獣に好かれていても普通の動物にはどうあっても怖がられてしまう。
「……完全に忘れてたけど、セントレアルの馬車が普通の馬だったらどうしよう」
「さすがにその心配はないと思うけど、んー……カイト君を乗せた箱に紐をくくりつけて、馬車で引っ張るとか?」
「なんか気分的に悲しくなるから嫌だよそれ……」
なんか映画とかでそんなアクションシーン見たことあるぞ。
チサトの提案に嫌な顔をしていると、リーファが周囲を見回しながら話しかけてくる。
「でも潜在的に動物に恐れられるって、改めて考えるとすごいよね。見た瞬間から、ほとんどの動物がカイトに屈服しているってことだもん」
「フィルゲン王国の研究者によると、過去にもカイトのように動物に嫌われる純魔の使い手もいたらしいが、結局は詳しいことは分からずじまいだったな」
僕の強すぎる魔力が、動物を怖がらせてしまう。
それだけの話だったはずが、神獣が関わることになってよりおかしいことになっていることは確かではある。
「勇者様、あちらにあるのがセントレアルから派遣された馬車であります」
先導してくださった城の方が、正面を指さす。
その先を見ると、全体を真っ白に彩られた大きな馬車がある。
普通のそれより一回り程大きな馬車。
しかし、僕が驚いたのは馬車の大きさではなく、その馬車を引いている真っ黒い魔馬であった。
「立派な魔馬だなぁ」
「でっかい」
大きさとしては以前に見た個体よりも一回り以上に大きい。
しかも筋肉質で、特に足と、ひづめの大きさが既存の馬を遥かに超えている。
それが三体もおり、その堂々とした姿に思わず目を惹かれてしまう。
「この地の魔馬とは種類そのものが違うのか、伝わってくる力も全く異なっているな。魔物は生息する環境により、生態が変化しやすい生物でもあるからな、あれもその一種だろう」
「グラコみたいな感じか」
セラさんの使い魔の、炎を纏ったモグラのことを思い出しながら馬車へと近づいていく。
すると、三体の魔馬の傍に白いローブを来た女性が出てくる。
フードを目深にかぶった女性は、僕達の前に歩み出ると胸に手をあてながら恭しくお辞儀してくる。
「お初にお目にかかります。此度、ヘンディル王国、フィルゲン王国、両国の勇者様と従者様をお迎えに参りました、セントレアル専属テイマーのリオンと申します」
「あ、これはどうもご丁寧に。アリハラ・カイトです」
「シシハラ・チサトです」
「リーファ・ウルガル……です」
とりあえずお世話になるのでこちらも自己紹介する。
頭を上げたリオンさんは、にこりと人の好さそうな笑みを浮かべる。
「これから、皆様をセントレアルにまでお送りさせていただきます。ささっ、手狭なところではありますが、どうぞ中へ」
扉を開けて中へと促してくれるリオンさん。
ここまで案内してくれた城の方にお礼を言った後に、リーファ、チサト、僕の順番で馬車に入ろうとしたところ不意に、リオンさんが馬車に入ろうとする僕に声をかけてくる。
「カイト様、少しよろしいでしょうか?」
「え、ええ。シフ、先に馬車に入ってて」
「うむ」
リーファとチサト、そしてシフを先に馬車に乗せた僕は一旦馬車を降りる。
なぜ呼び止められたのだろうか? 疑問に思いながら、フードの奥で口元に笑みを作っているリオンさんに向かい合う。
「カイト様は純魔の魔力をお持ちとお聞きしました」
「はい」
「であれば、少しばかりお願いしたいことがあるのですが、構わないでしょうか?」
「? 僕にできることであれば」
こくりと頷く、彼女は馬車を引く魔馬の元へ移動する。
そのまま堂々とした様子の魔馬のたてがみに彼女が手を添える。
「カイト様、少しだけこの子たちに魔力をあたえてはくれませんか?」
「はい?」
「彼らはこれから休みなくセントレアルへの道のりを向かうことになります。体力の心配こそありませんが、ご褒美というものが必要と思いまして」
なるほど、ずっと働いてくれている訳だから僕の純魔の魔力で補助してくれということか。
これからお世話になるので、そういう頼みなら断る理由はない。
「そういうことなら、お安い御用ですよ」
「フフフ、ありがとうございます」
僕も魔馬へと歩み寄り、純魔の魔力を纏わせた手で触れる。
魔物に力を与える純魔の魔力により、屈強そうな魔馬の身体にさらに力が漲っていく。
見る見るうちに、元気を取り戻していく魔馬。
とりあえず、これでいいのだろうかと思い、リオンさんへと振り向くと、彼女は魔馬の方ではなく僕の方を向いていた。
フードの奥に薄っすらと見える緑色の瞳は、真っすぐと僕へと向けられている。
「———素晴らしい」
「え?」
その呟きに呆気に取られてしまうと、彼女は魔馬へと視線を移しながらやや高揚したような声を発する。
「彼らがここまで元気になるなんて思いもしませんでした。さすが、純魔の魔力ですね。私も、テイマーとして感服いたしました」
「あ、リオンさんもテイマーでしたね」
「ええ」
セントレアルのテイマーか。
なんかテイマーというだけでものすごい親近感がわくな。
地味に不安だったこれからの旅路に光明が差したような気がする。
「お手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。後は、私に任せてカイト様は馬車で休んでもらっても構いませんので」
「分かりました」
その場をリオンさんに任せ、リーファ達のいる馬車へと入ろうとしたところで、ふと彼女へと振り向く。
やはりこれからお世話になるのだから、もう一度挨拶しておこう。
同じテイマーだし。
あんまり見かけない僕と同じテイマーだし……!
自分と同じテイマーを見つけてちょっと嬉しくなりながら、彼女へ手を差し出す。
「改めてこれからよろしくお願いします。―――リオンさん」
「!」
名前を呼ばれて驚いたような顔をするリオンさん。
それもすぐに笑みへと変わり、彼女はゆっくりと袖を拭い手を差し出してくる。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね? フフ」
差し出されたのは、白い手袋に包まれた手。
そのまま軽く握手をすると、嬉し気に微笑んだリオンさんのフードから綺麗な深緑色の髪が視界に映り込む。
これから、僕達はセントレアルに向かう。
そこで何をするかはまだよく分かってはいないけれど、始まりとしてかなり穏やかなものになってよかったと思う。
(またこの主人公やべぇやつ引き寄せてる…)




