第十四話
第十四話です。
試験を受けるために、今日まで色々と手を尽くしてきた。
テイマーとして、シフとライムを扱う術を学び、支援魔術による肉体強化をほぼ無理やりに体に馴染ませた。
文字はまだ少ししか書けないけれど、知識面ではなんとか最低限のものは身に着けることができた。
大丈夫だ。準備はできているはず。
ギルド内の待合室らしき部屋のテーブルに座り、緊張を紛らわすために組んだ手をジッと見つめながら、ひたすらに待つ。
僕がついているテーブルの上には、黒猫状態のシフとライムが僕の表情を覗っていた。
「試験番号五番か……」
この部屋に案内される際に渡されたワッペンのようなものを眺める。
試験を受ける人を見分けるための記号らしいが、こういうところは地味に元の世界と似ているなぁって思うな。
「カイト。私が見るに、おぬしはこういう機会には慣れてないと見える」
「いやいや、こういうのに慣れるには僕はまだ若すぎるよ……」
「そうなのか? いや、人間の文化に不慣れな私には理解が及ばないことではあるが……」
「キューっ!」
シフも人間っぽい性格はしているが、魔物だ。
彼の友となった人から言葉や文字も教えてもらっているようだけど、彼も僕と同じようにこの世界の文化や習慣に慣れていない部分もある。
まあ、そういうところは助け合っていけばいいだけだ。
「しかし、試験とやらを受けるにしても、存外に少ないのだな」
「一か月に一回はやっているらしいからね」
部屋の中にはこれから試験を受けるであろう人が集まっている。
一か月に一度という結構な頻度で試験を行っているらしいので、その参加人数はそれほど多くなく、今部屋にいるのは四人くらいしかいない。
試験前のせいか、皆ピリピリしている。
なので、黒猫状態のシフとの会話も小声で行っている。
「キューっ!」
「元気づけてくれてるのか? はは、ありがとう」
うねうねと動いたライムが僕の手を軽く叩いてくる。
ひんやりとした感触に僕も安心していると、背後にある部屋の扉が開け放たれた。
僕を含めた部屋にいる四人の視線が、入って来た人物に向けられる。
試験官の人か? と思っていたが、入ってきたのは黒いローブを纏った怪しげな人物であった。
「カイト、あいつは……」
「うん……」
僕がはじめてギルドに来た時、突然名前を訊いてきた人だ。
そして、気のせいでなければ僕の名前を知っていた謎の人物でもある。
そのことは、後になってシフにも話しているので、彼もライムも謎の人物を警戒し始めた。
「……」
座る場所を探しているのだろうか?
きょろきょろと周り見た謎の人物は、僕の姿を見つけると「あっ」というくぐもった声を上げると、なぜかこちらに近づいてきた。
さらに緊張を増す僕だが、それにも構わず謎の人物は僕の前に近づき、立ち止まった。
「前、座っていい?」
「ど、どうぞ……」
シフ、ここで断れなかった僕をあとで叱ってくれ。
僕の対面の席に座った謎の人物―――フードを被った少女は、自身の手を見てやや驚いたような顔になる。
「……」
「……どうかした?」
「ううん。自分でも驚くくらい、落ち着いただけ」
……どういうこと?
ちょっと理解の及ばない言葉に困惑していると、数秒ほどの沈黙の後に彼女が口を開いた。
「——ジェイコブ。貴方も試験を受けにきたの?」
「ジェイコブ?」
「……貴方の名前でしょ? 違うの?」
……。し、ししししまったァ―――!?
そういえば僕、この人にジェイコブ・ライジングとかいうスパーキングな偽名を名乗ってしまったんだったァ!
どうしようか、とシフに助けを求めようとすると、シフは小さな体を震わせて笑いを堪えている。
どうやら僕の偽名にツボってしまったようだ。
当事者じゃなかったら僕もツボっているだろうけど、今は全然笑えねぇ。
「あ、あぁ、そうだね。それより君の名前は?」
「そういえば、前も名乗ってなかった。ごめんなさい」
名乗っていないことに気付いた彼女は小さく頭を下げた。
「私の名はリーファ。ちなみに試験番号は四番」
自己紹介こそすれど、頭をすっぽりと覆うフードは外す様子はない。
顔を隠す理由でもあるのか? と勘繰りながらも彼女がこの場にいる理由を聞いてみることにした。
「ここにいるというと……君も冒険者になるために試験を受けるの?」
「特になりたいとは思ってない。でも、仲間を探すなら冒険者の方が都合がいいらしいから、そうしてる」
「仲間を探しているのか?」
「うん、できるだけ信用できる人を」
……色々と聞きたいことがあるけど、下手に何かを口走って怒らせるのも嫌だな。
僕の中で、彼女はまだ注意すべき対象なのは変わらない。
「貴方はテイマーなの? 魔物を連れているようだけど」
「あ、ああ、そうだね」
「後方支援とか得意? 使い魔はどういうことができるの? 前は喋っているように見えたけど」
めっちゃ色々聞いてくる。
シフとライムを見て、矢継ぎ早に質問を投げかけてくる彼女に混乱してしまう。
僕も色々と彼女に聞きたいことがある。
どうして、僕の名前を知っていたか? それを尋ねると僕の名前を明かす必要があるかもしれないが、目の前の彼女は僕にとって重要な情報源ともなりえる。
「あの――」
「試験を受けるみなさーん! 準備が整いましたのでギルド、裏手の訓練場へと集合してくださーい!!」
意を決して尋ねようとした瞬間、部屋の扉が開け放たれ、ギルドの職員らしき女性が、僕達をギルドの裏手の訓練場へと誘導する声を発した。
「時間だね。行こうか。ジェイコブ」
「……はい」
ジェイコブ呼びはともかくとして、なぜか自然な流れで彼女と一緒に訓練場へいくことになってしまった。
……いや、まずは目の前の試験に集中すべきだな。
第一の試験は、実技。
この二週間の成果を発揮するときだ。
第一の試験を受けるため、ギルドの裏手の訓練場へ向かった僕達。
僕とリーファを加えて、五人の試験を受ける面々の前に現れたのは、鋭い目つきが印象的な金髪の男性であった。
男の腰のベルトには鞘に装飾があしらわれた剣が装備されており、一目で所属するギルドの冒険者だということが分かる。
「初めまして。俺は今回の試験の監督役を任されている、リックだ。今回も厳しく審査していくので、心してかかるよーに」
横一列に並ばされた僕達をじろりと見まわした男―――リックさんは、次に一人一人を観察するように目を細める。
彼の名を聞いた試験を受けた人たちが、驚きの表情を浮かべる。
「リック? リック・ケーシングか?」
「ゴールドランクの冒険者じゃないか……!」
「審査基準が厳しいって噂の……」
僕とリーファ以外の三人の言葉にリックさんがぴくりと眉を動かす。
明らかに機嫌が悪くなった彼に、動揺していた三人は顔を青ざめさせながら黙り込む。
「……最初に言っておくが、俺はこの場にいる誰も特別扱いはしない。ギルド長の推薦だろうが、大臣のコネだろうが、名のある戦士だろうが、今回の試験の結果のみでお前達の実力を見極める。むしろ、今日の今までお前らが受けてきた賛辞や、功績は俺の前では無意味ってことになる」
リックさんの言葉に、困惑する様子を見せる人が何人か見える。
僕自身、戸惑ってはいるがよく考えると、この世界でなんの功績もない僕にとっては好都合な話だ。
「ギルドにおいて最も重要なのは“信頼”だ。たった一人の大きな失敗がギルド全体―――いや、所属する人間に影響を及ぼしちまう。そんな事態にさせないために、ギルドに新しく加入する者は厳選しなくてはならない」
そこまで言い切った彼は訓練場にあらかじめ用意されていた木剣を手に取る。
ひゅんっ、と風切り音を鳴らしながら素振りをした彼は、再び僕達を睨むように視線を向ける。
「今回の試験方法は、この俺との模擬戦闘だ。お前達はあらゆる手段を用いて、自身が冒険者たりうる実力があるかを証明してみせろ」
模擬戦闘と聞いて、ざわつきを見せる僕とリーファ以外の面々。
そんな彼らを見て、リックさんは釘を刺すように続けて言葉を発した。
「勿論、手加減はするしこちらから攻撃はしない……が、今の時点で“できるわけがない”と考えた奴は、次の機会に備えておいた方がいい。時間の無駄だからな」
「「「……」」」
「さて、志願順で模擬戦を開始するが……その前に質問のある奴はいるか?」
「はい」
すると、隣にいるリーファが怪しい見た目からは想像もできないきっちりとした挙手を見せる。
意外そうに目を丸くさせたリックさんは、彼女に発言を許した。
「なんだ、四番」
「実力を証明するって、具体的になにをすればいいの?」
「冒険者を目指す者として相応しい実力を見せるか、将来性を見せればいい。ま、俺の匙加減ではあるがな」
「ふぅん……」
相応しい実力と、将来性か。
……僕も確認のために聞いておくか。
リーファの質問が終わったところで、僕も手を挙げる、
「次は五番か、なんだ?」
「はい。あらゆる手段といいましたが、使い魔との共闘も適用されますか?」
「勿論だ。テイマーに使い魔なしの戦いを強いるほど、俺も鬼じゃない」
足元にいるシフと肩の上にいるライムを見て、リックさんはそう口にした。
その視線はどこか、こちらを探るように思えたが、悪意のようなものは感じない。
「……質問は以上か? それでは、模擬戦を開始させる前に準備をする時間を与える。考えを練るなり、武器を整えるなり好きにしろ。最初に準備ができている者から、挑戦を受けよう」
冒険者になるための試験。
思ったよりもシンプルそうなものだけれど、その分できることは多く、それでいて審査基準も高い。
きっと、一筋縄ではいかないという確信をしながら、僕は今一度作戦を練るべくシフと話し合いを試みるのであった。




