第十二話
本日二話目の更新です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
翌日の朝、凄まじいテンションと共に部屋に突撃してきたライラに起こされた僕は、軽い朝食を取ったあとにギルドへと訪れていた。
さすがに二日連続で同じ服を着るわけにはいかないので、先日ライラに案内される過程で買った服に袖を通すことになった。
「———それじゃ、カイト君は魔法の適性を調べたいんだね?」
「はい」
「かしこまりました! 今、魔具をご用意するから待っててねっ」
昨日ギルドで会った女性、マイさんの言葉に頷く。
今日はギルドの受付をしているらしく、彼女に系統を調べてもらうように頼むことになった。
「……思ったより簡単に調べることができてよかったな」
魔法の適性というのは、比較的簡単に調べられるようで難しい手続きもなしで受けることができた。
まあ、色々勝手の分からない僕のためにライラが間に立ってくれたおかげということもある。
「いったい、どんな系統なのかなぁ」
「ライラ。なんだか僕より楽しみにしてない?」
うきうきとしているライラ。
僕はどちらかというと緊張している。
楽しみって気持ちもあるけれど、やっぱり自分の今後を左右しかねないものなので、ものすごく緊張する。
「緊張しているな。カイト」
「そりゃあ、ね」
受付のテーブルに乗っているシフに頷く。
「私としては、おぬしがどのような系統を持っていても構わない。その分、私とライムが動けばいいだけだからな」
「キュっ!」
肩の上のライムが同意するように短く鳴いた。
それでも何が出るのか気になってしまうのは、男としてのサガか。
「お待たせっ!」
マイさんが小走りで戻ってくる。
彼女の手に置かれた上質そうな布の上には青色の水晶のようなものがのせられている。
見た目はただの水晶にしか見えないけれど、多分あれが系統を判別するものなんだろう。
「この水晶に魔力を流し込めば、系統を調べることができるよ」
「魔力を流すだけでいいんですか?」
「うん。この水晶が魔力に反応すると、魔力量を表す光、系統を表す色、系統の詳細を表す水晶内の模様が現れるんだ。それらの情報を元に、系統を調べるって感じかな」
色だけなら魔力を出すだけで判別できるが、光量による魔力量と、水晶内の模様によるより正確に調べることができるってわけか。
マイさんの指示に従って、水晶に掌を置いて魔力を流し込む。
十秒も経たずに水晶から明るい光が発せられ始める。
「……黄色……いや、金色か?」
電球を思わせる暖かな光は、金色に染まっている。
水晶の中には、キラキラと粒子のようなものが溢れており、それはまるでスノードームのようだ。
光り輝く水晶を見て、マイさんが首を傾げた。
「雷系統かな? でも、雷特有の稲妻の模様が出ていないし、なんだろう?」
「マイさんも分かりませんか?」
「そうだね。見たことのない系統だから、調べなくちゃ分からないかな」
珍しい系統なのだろうか?
そう思いライラの方を見ると、彼女は目を輝かせながら水晶を見ていた。
「綺麗な光だね。なんだか温かい感じがする」
「無色透明とは言ったが、これは……」
僕の魔力は周りの人たちにとっても珍しいようだ。
喧噪に満ちたギルド内が静かになってくる。
注目されていたたまれなくなった僕が水晶から手を離そうとすると、ギルドの奥から大柄な男性が出てくる。
「———純魔の魔力だな」
「ギ、ギルド長!?」
「ベルセさん……?」
出てきたのは、二日前に気絶から目を覚ました直後に話した男性、ベルセさんであった。
マイさんにギルド長と呼ばれた彼は、まるで珍しいものを見たように目を丸くさせて、水晶を眺める。
「しかも金色とは、これは珍しい」
「ギルド長はご存知なんですか?」
「ああ。私も見るのは初めてだがね」
ライラの言葉に頷いたベルセさんは、僕へと顔を向ける。
「純魔の魔力とは、高濃度の魔力のことを指す。系統では分別できない無系統に近い魔力ではあるが、君のようなテイマーには最適な魔力といってもいいだろう」
「それは……使い魔に与える魔力が良いからですか?」
「うん。その考えで間違いはない」
炎や雷を操れないことにガッカリしたけど、僕の魔力がシフとライムに最大限の力を発揮させることができるのなら、それほど悪い魔力でもないのかもしれないな。
「しかし、ベルセ殿。金色とはどういう意味だ? 純魔とは色で区別があるのか?」
シフも納得したように頷いているが、気になったことがあったのか、ベルセさんに話しかけた。
「純魔の魔力には色によって、魔力の純度が変わるんだ。黄色、赤、銀、金、白銀とあって、黄色が一番純度が低く、逆に白銀が高い。しかし、金色以上となると滅多に目覚める者は現れない。いたとしても、それは人間ではなく、古代から生きる人ならざる者だろう」
「ふむ、つまりはカイトの魔力はかなりの純度を持っているということになるのだな?」
まさか、僕の魔力がそんなものだとは……。
特別っていう優越感はなくもないが、そんな魔力を持ってしまって何かしらのデメリットはないかと考えてしまう。
だって、どう考えても他のことに応用できるとは思えないからだ。
しかも、これってかなり希少な魔力らしいし?
「しかし、この魔力を持つことはいいことばかりではない」
自分の手を見つめて、そんなことを思っているとベルセさんの声にハッとなる。
「かつて、純魔の魔力をもつ者は、魔物への生贄にされていたという記録がある。今でこそ、滅びた悪しき風習ではあるが、純魔の“味”を知っている魔物は今も生きている。……君が遭遇したオロチもその一体だ」
「そうか、だから奴はあの距離でカイトに気付いたのか……。あれほどの執念も頷けるな」
気絶する直前の、オロチの目を思い出す。
あれが僕の魔力を狙ってのものだったのか。
動物に嫌われるのはこの純魔の魔力のせいだけど、僕の魔力は逆に魔物に好かれすぎるって考えてもいいのかな?
「まあ、それほど怖がる必要もないだろう。第一、そこまで強力な魔物は滅多に表れないからな。遭遇する心配もまずない」
「そ、そうですか……」
オロチクラスの魔物と遭遇なんて二度とあってほしくないので、とりあえず一安心。
それなら、次はここに来た次の目的はマイさんに話そうか―――と思ったけれど、この場にベルセさんがいるのなら、彼に話すべきだな。
「ベルセさん、僕は冒険者の試験を受けようと考えています」
そう切り出すと彼は目を見開いた。
僅か二日で答えを出してしまった僕に呆れているのか、それとも驚いているのか分からないけど、もう後には引けない。
「もう決めてしまったことなのか?」
「はい」
「……そうか。君がその道を選ぶというなら、私は止めない。マイ君、彼に試験の書類を渡してくれ」
「はい!」
笑顔で頷いたマイさんが、受付の棚から一枚の用紙と黒いペンを僕の前に差し出してくる。
「では、カイト君! こちらの書類に」
「ありがとうございます。……えーと、まずは氏名をっと……」
……あっ。
書類を見つめたまま固まった僕に、シフ以外の面々が怪訝な顔になる。
当のシフも失念していたのか、前足で頭を抱えている。
「ど、どうしたの? カイト君、ペンを持ったまま固まって……」
「……すみません。僕、文字がかけないんです」
『……』
ギルド全体が静かになる。
数秒ほどして、我にかえったライラは取り繕うようにカラカラと笑いながら、僕からペンを奪い取った。
「は、ははは! そういえば、カイト君は遠い国の出身だったよね! だったらしょうがない! 私が代わりに書こう! それでいいよね、マイさん!!」
「ええ!? ギルド長……」
マイさんでも判断できないのか、助けを求めるようにギルド長を見る。
当の彼は、顎に手を当てて何かを考えていたが、すぐにマイさんへと返答する。
「……ん? まあ、私が立ち会っているので構わないさ」
「ありがとうございます」
「いいさ、しかし、ここに住むからには文字を覚えておくべきだな」
「はい……」
言葉が通じているから、考えもしなかったけれど僕はこの世界の文字を理解できていない。
果たして、言葉が分かるのはあの召喚陣の効果なのかは分からないが、文字の問題はすぐさま解決するべきだな。
シフが覚えているなら、あとで少しずつ教えてもらおう。
しかし、アクシデントこそあったがその後、僕は無事に冒険者になるための試験への参加資格を手に入れることができた。
試験予定日は、十九日後。
それまでにシフとライム、使い魔の扱い方と、試験の内容をクリアするための努力をしていかねばならない。
次回、日記回となります。




