第十話
本日二話目の更新です。
前話を見ていないからはまずはそちらをー。
ギルドを出た僕は、ライラに連れられこのヘンディル王国を案内されていた。
街のいたるところで目にする出店を、指さしては「あそこが美味しい!」だとか「あそこは人による!」など、ほぼ食べ物限定で紹介こそされていたが、それでも彼女の案内は僕にとっては非常にありがたい。
その一環でギルドの訓練場とやらも見に行ったが、そこは例えるならば街中に作られた小さめのコロッセオといった場所で、想像していたよりも広く大きな場所であった。
そこでは、ギルドの冒険者らしき人たちが自主訓練のようなものをしていた。
その訓練風景を見て、なにより驚いたのは冒険者達の掌や剣からは、炎や雷が飛び出していたことだ。
シフに「あれが魔法だ」と教えられこそはしたが、実際に目にすると、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「カイト君は、どんな魔法を使うの?」
訓練場から離れ、大通りを歩いている僕に振り返ったライラはそんなことを聞いてきた。
……魔法を、使う?
「え、僕って魔法が使えるの!?」
「そこから!? いや、ちょっと待って、君もしかして魔法を使ったことがないの!?」
むしろ魔法ってそんな普及しているものなの?
ややオーバーなリアクションをするライラに驚いていると頭の帽子のシフが反応する。
「カイトにとっては魔法は馴染みのないものらしいからな。かくいう私も、そこまで人間の魔法に詳しいわけじゃない」
「シフまで、え、えぇ、それじゃあどうやって魔物と使い魔契約をしたの? あれ、魔力を使うよね?」
「そこは少しばかり古い方法を使っただけだ」
ほえぇー、と感嘆したのか驚いたのか分からないリアクションをするライラ。
小さく深呼吸をして落ち着きを取り戻した彼女は、歩く速度を落として僕の隣に並ぶ。
「それじゃあ、カイト君は自分の魔法の系統が分からないんだね」
「ケイトウ? 血統とか血筋のこと?」
「ふふっ、違うよ」
おかしそうに笑った彼女は、僕に解説するように人差し指を立てた。
「系統ってのは、個人が持つ魔法の属性とかのことを言うんだ。誰もが同じ魔法を持っているんじゃなくて、それぞれに適した属性を扱うって感じ」
「……なるほど」
「君も魔力がちゃんとあるから、自分の魔法があるはずだよ」
僕に、魔法が……。
なんだろう、すごいワクワクしてきた。
「しかし、カイト。私が思うにおぬしの魔法は攻撃に向いたものではないかもしれんぞ」
「そうなの?」
「どういうこと? シフ君」
シフの声に僕とライラが反応する。
攻撃に向いていないとは、今の時点で分かるものなのか?
「カイトの魔力は、極めて純度の高いものだ。味に例えるなら、美味。色で例えるなら無色透明。そのような魔力に属性がついているとは思えないのだ」
「無色、透明……」
「美味しい魔力ね。いったいどういう味なんだろう……なんだか、お腹が減ってきちゃったな」
なぜにライラさんが僕を見て、生唾を飲んだんだろうか?
……しかし、攻撃に用いられないか。
別に誰かを傷つけたいとは思わないけど、男としてそういうものに憧れないはずがない。
だからこそ、ちょっぴりがっかり。
「よし、お腹も減ってきたし、そろそろカイト君を紹介する宿に帰ろう」
「え? 宿で食べるの?」
「うん。味は保証するよ。いいところだし、私達冒険者もお世話になっているところだからね」
冒険者がお世話になる宿か。
ご飯も美味しいと聞くと、なんだか僕もお腹が減ってきちゃったな。
昨日と今日は病み上がりというので、スープしか食べていなかったので、ちゃんとしたものを食べたくなってきた。
●
たどり着いた宿と思われる建物は、お世辞にも綺麗な場所ではなかった。
暗い雰囲気と年季を感じさせるレンガ造りの家屋。
下手をすれば幽霊屋敷にも見えてしまいそうなその場所に進んでいったライラは、木造の扉を開き明るい声で「ただいまー!」と声を張り上げた。
すると、奥から誰かが歩いてきた。
出てきたのは三〇歳ほどの目つきの悪い女性で、ライラの姿を見つけると露骨に大きなため息をついた。
「相変わらずやかましいな。もう少し体力削ってから帰ってきてこれないもんかね」
「体力削ってこれですから」
「それで、そっちの小僧は誰だ?」
ぎろりと鋭い視線を向けられ、委縮してしまうが、さすがに初対面なのでしっかりと自己紹介をしなければ。
「はじめまして、先日、この王国にきたアリハラ・カイトと申します」
「メルクだ。ここの宿を経営している。……その肩と頭にのせてるのは魔物か?」
帽子に変身しているシフに気付いている。
シフも驚いているのか、帽子の姿から黒猫の姿に変身し、地面に降りる。
「変身を見抜かれたのは、はじめてだ。……挨拶が遅れてすまない、私はシェイプシフターのシフだ」
そう言ってぺこりと頭を下げたシフに目を丸くしたメルクさん。
彼女はにこにことした笑みを浮かべているライラを見た後に、溜息をついた。
「……喋るシェイプシフターに、銀色のスライムか。これまた珍妙なモンスターを連れているな。……どうしてこう、うちには変な奴しか寄ってこねぇんだろうな」
辟易するようにメルクさんは目元を押さえた。
そんな彼女に、ライラは話しかける。
「あ、メルクさん、部屋空いてますよね。というより、今私しか住んでないし、滅茶苦茶空いてますよね!」
「お前は、本当に癪に障る言い方しかできないのか……?」
「カイト君、泊まる宿を探しているらしいんで、泊めてあげてくださいっ!」
……ん? 待って、ライラしか住んでいない?
少しばかり気になるフレーズが混じっていたことに首を傾げる。
「はぁ、カイトといったな。荷物はそれだけか?」
「は、はい」
「部屋は空いてるところを適当に選べ。一応、うちは朝食と夕食を用意できるが、食うときは事前に伝えろ」
「お金の方は一泊どれくらいかかるんですか?」
「あー……」
メルクさんは、僕の頭からつま先までを見る。
「……十五日で銅貨三枚でいい」
「え!?」
まだこの世界のお金の価値が分からない僕でも分かる。
明らかに安すぎる。
もしかして、この人は適当なのだろうか?
ライラもそれほど驚いているようには見えないし。
シフもあまりの安さに、驚きのあまり尻尾をピーンと伸ばしている。
「じゃ、私は戻るぞ」
硬直する僕達にそう面倒くさそうに言い放った彼女はこちらに背を向けると、屋内へと戻っていく。
「あ、じゃあ早速、私とカイト君の夕食をお願いしまっす」
ライラさんがそう声を投げかけるも無視。
その反応も慣れているのか、彼女は笑顔のままこちらを振り向いた。
「じゃ、君の部屋を選びにいこっか」
「はい……」
格安どころじゃない、超ウルトラ格安だった。
とりあえずは、寝る場所は確保……できたのかな?
しかし、よくよく考えなくても朝食夕飯付きの宿で、銅貨三枚は破格すぎる。
Q、なぜ宿泊費が安い?
A、見るからに幸薄そうな顔してたから。
次回の更新は、明日の午前10時と、午後4時を予定しております。




