第一話
どうも、くろかたです。
この物語は異世界転移系、物理型テイマーな主人公のお話です。
第一話
―――カイト君。君が動物のことがどんなに大好きでも、動物は君のことが大嫌いだと思う。
小学校の時、動物飼育係を任された僕に叩きつけられた言葉がそれである。
叩きつけてきたのは、同い年の名前すらも思い出せない女子ではあったが、その言葉は今でも僕の心に深く刻まれている。
僕、有原海虎は動物に好かれない。
子供の頃から、十七歳に至るまでの人生で動物に触れたこともないし、近づかれたこともない。
それはもう何かに呪われているんじゃないかってレベルで好かれない。
犬に近づいたら吠えられる。
猫に近づいたら、逃げられる。
カラスにはよく鳴かれる。
動物園では、僕の顔を見たカピバラが毛を総毛立たせて、全力ダッシュで僕の視界から消えた。
理由は分からない。
少なくとも体臭やそういうものではないそうで、ただ漠然と獣の類に警戒される何かを僕は持っていた。
しかし、動物に好かれないということは、生きる上でそれほど苦にはならないことだ。
少なくとも、17年間の人生においてはそれが理由で困ったことは起きなかったし、今日という今日も特に何事もなく学校が終わり、雨が降り注ぐ帰路を傘を差しながら歩いている。
こういうのはポジティブに考えるのがいいのだ。
動物に嫌われてつれーわー!! 猫とか犬とか触ったことなくてつれーわー!! 的なことで自虐ネタに使えるし、何より今後、クマとかイノシシに襲われる心配がないと考えれば、かなりいい体質なんじゃないかと思える。
「酷い雨だなぁ」
そんな動物に好かれないながらも十七年、高校二年生の僕は今日も今日とて学校の授業を終え、雨が降りしきる帰路を傘を差しながら歩いていた。
「……ん?」
雨模様の空を見上げ憂鬱な気持ちになっていると、ふと視線の先に街路樹の根元で雨宿りをしている猫を見つける。
茶色と白色の猫。
一目見て「アッ、可愛い」と思わず呟いてしまうが、当の猫は立ち止まっている僕に気付くと、途端に毛を総毛立たせた。
「にゃひっ!?」
そのまま怯えるように雨の中を爆走していく猫を見て、僕はいつものように打ちのめされる。
いや別に猫に嫌われるなんて慣れっこだし?
むしろ、動物園のライオンにすら避けられるし?
「はぁ……」
重いため息をつきながら、そのまま帰路を歩いていく。
すると、今度は猫ではなく、少し先を歩いている女生徒に気付く。
傘を差しながら俯くようにして、本を読んでいる女子。
肩ほどまでに伸ばされたやや茶色がかった黒髪に、ゆっくりとした足取りで本を読んでいる姿を見て、彼女が僕のクラスメートだということを認識する。
「……獅子原さんか」
同じクラスの獅子原千里。
特に仲がよくもなく友達でもない、よく顔を合わせるクラスメートだ。
同じクラスになったことは何度もあった気はすれど、顔を合わせれば軽く挨拶くらいする程度の浅い間柄だ。
なので「あー、クラスメートか。ふーん」くらいの気持ちで、特に何も考えずに雨に濡れた道を歩き続ける。
傘を差しながら読書をしているという器用なことをしている彼女の足取りは遅く、すぐに追い越しそうになる。
特に何も思わずに、彼女を追い越そうとすると、前触れもなく彼女が足を止める。
「……なに、今の」
「?」
そんな呟きを耳にする。
読んでいる本に気になる文面でもあったのかな?
僕には関係のないことなので、そのまま先へ向かおうとしたその時———僕の足元から強烈な光が発せられた。
「な、なんだ!?」
足元を見れば、変な文字が記された紋様のようなものが円を形作るように並べられ、それが獅子原さんを中心にして現れていた。
え、なにこれ? なんかの特撮? テレビ?
いや、それより獅子原さんは……。
「この展開はない。なにこれ、ここで日和るとか主人公わけわかんない。ここは殴りにいくとこでしょ」
そもそも足元の魔法陣にすら気づいてねぇ!?
あああ、そういえばクラスでもマイペースな人でしたねぇ!?
「獅子原さん!」
「ん? おお、有原君だ。やっほ」
「あ、やっほ。……じゃない! さっさと今の状況を把握しろォ!」
「……ん? え? なにこれ? ま、魔法陣?」
魔法陣? ……魔法陣!?
マイペース過ぎる獅子原さんの呟きに驚くのも束の間、足元に浮かんだ魔法陣は徐々に回転を始めていく。
とにかく早くここからでなければ……!
「……」
「獅子原さん! 早く逃げ――」
「……異世界かぁ。うん、異世界ってどういう場所なんだろうね。有原君」
「現実逃避!? 諦めるの早くない!?」
足元を見てから、虚ろな目をした彼女に思わず真顔になってしまう。
魔法陣がより一層の光を放つと、僕達の身体も同様に光りだした。
「ま、眩し……っ」
目も開けていられないほどの光。
視界全てが真っ白に染まったその時——、僕の身体は何かに弾かれるように吹き飛ばされた。
「かっ!?」
「有原君!?」
薄れゆく意識。
そして、ようやく慌てた声を出した獅子原さん。
そんな声と共に視界が白から黒へと変わっていき、僕の意識は暗闇へと落ちていくのであった。
次話はすぐさま更新いたします。




