閑話14 予想外
少し目を離した隙にケビンはスカーレットちゃんに何をしたのやら。母上とケビンに挟まれたスカーレットちゃんは完全に心ここに有らずだ。一応母上と会話はしているけれど今一つ身が入っていない。
「スカーレットちゃん、フルーツティーはどう?」
「とても美味しいです」
「よかった」
母上への返事にしては口少ない感じが否めないのにブライトがいるからかと誰も気にしていない。ケビンだけは訳知り顔だ。目があった彼は僕ににこりと笑いかけた。あの顔のときはろくなことしてないんだよなあ。長年の付き合いでよく分かる。
そう思っているとスカーレットちゃんがぴくっと身体を揺らした。そうかと思うとケビンを非難するように見つめる。きっと何かちょっかいでもかけたんだろう。
「・・・お兄様」
「何かあった?ああ、お菓子が欲しいのかな?マドレーヌ?」
自分で欲しいものを取るスタイルのお茶会だから届かないものを女性が男性に取ってもらうのは珍しくない。父上も母上もスカーレットとケビンのやり取りを仲が良くて結構と思っているようだし、何も知らなければ義妹思いの良い義兄にしか見えない。何も知らなければ、ね。
「・・・チョコレートのものをお願いします。オレンジが入っている方を」
「こっちだね。はい、他には?」
「大丈夫です」
「そう。欲しかったらまた言ってね」
ここで追及するのは賢くないと思ったのかスカーレットちゃんはケビンの芝居に乗ることにしたらしい。
僕の隣に座っているブライトもこの様子は見ている。どんなに鈍いブライトでもさっきからずっとケビンとスカーレットちゃんの仲を見せつけられては自分とケビンとの違いに小声で文句を言っている。
「ケビンくんとスカーレットちゃんは今からエレーナのところに行くのよね?」
普段ならスカーレットちゃんをなんとか引き留めようとする母上が今日ばかりは退席する理由を作ってスカーレットちゃんたちを帰してあげることにしたらしい。まあ、明らかにスカーレットちゃんの様子は可笑しいからね。絶対ブライトのせいじゃないけど。
「はい。お姉様の調子さえよければですけれど」
「絶好調だよ。生まれた息子も丸々してて可愛いから会って行って。そろそろエリナもお昼寝から起きるだろうから行ってあげてくれる?いいですよね父上」
「ああ。スカーレット、お菓子が進んでいないようだったから持って行くといい。シェフがスカーレットの好きなものばかり作ったようだから食べてやってくれ」
「ありがとうございます・・・!」
ここにきてようやくスカーレットちゃんの顔がほころんだ。家のお菓子、大好物だもんねこの子。
「レーナ、案内を」
「かしこまりました」
「ケビン、エスコートよろしくね」
「言われなくても。それでは私たちはこれで」
「失礼いたします。ごちそうさまでした」
レーナに連れられてスカーレットたちが出ていくとブライトは不機嫌ですというオーラを出した。
「ブライト、スカーレットちゃんが来たからってノックもしないで入室するのはよくないわよ。最近そんなことしなかったのに・・・」
「申し訳ありませんでした。でも、今後はしないと約束します」
「機嫌悪いねブライト」
セージがそう言った直後セージが肩を揺らした。たぶんブライトが足でも踏んだんだろう。最近はバレないようにそういうことをやるようになって可愛げもなくなったなと思っている。
「まあ、前から思ってましたがやっぱり改めて目の前で好意の差を見せつけられればさすがに。俺も失礼します。母上、紅茶美味しかったです。また誘ってください」
「!!」
完璧な所作でお辞儀をして出ていこうとしたブライトが僕を見ているので僕も後に続いて退室することにした。セージはまだ父上たちとお茶を続けることにしたらしい。
部屋を出て周りに誰もいないことを確かめてからブライトは口を開いた。
「話の前に、今回、俺にスカーレットが来ることを知らされないのは分かっていたので出ていくつもりは無かったとだけ断っておきます」
「・・・まあ、分かってるなら隠しても仕方ないね。それで?」
「スカーレットとあのシスコンの仲のよさを見せつけろとか誰かに言われたのなら、その相手に礼を言っておいてください」
「・・・話が見えないんだけどどうして?」
「アプローチの仕方に間違いがあると確信できたので。・・・弟みたいな、つい世話を焼いてしまう手のかかる方が好みだと思ってたんですけど違うようなので、もうあんな子どもじみたやり方は意味がないと分かりました」
そういうとブライトはさっさと部屋に歩いて行ってしまった。
僕とアルフレッド、いや、城内の誰もがブライトがここまで賢かったなんて思いもしなかっただろう。これはスカーレットと結婚するためならなんでもするかもしれない。それこそ王族の地位すら捨てる可能性もある。
「・・・勘弁してよ」
ブライトのことだって弟だから幸せになって欲しいとは思ってるけどイバラの道を進むこともないだろうに。
「・・・アルフレッドに相談、かな」
参謀殿の驚く顔を見るくらいしか今回の収穫は無さそうだ。




