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外堀から埋めていくタイプ

昨日、ケビンの部屋に行ったものの、もう寝た後だったのか部屋から出てきてくれなかった。昨日は彼にとって面白くない出来事ばかりだったから、また思いつめて変なことを考えていないか心配だったから話しておきたかったんだけど出てこないのだから仕方ない。今日は少しくらい話ができるといいなと思いつつ食堂に向かうと何故かお父様が席に着いていた。



「・・・お父様?」


「久しぶり・・・と言っても1ヶ月くらいだね」



今日も今日とてお父様は美しい。『ありがとうございます』と思っているとすでに席に着いていたお兄様にやや蔑んだ目で見られた気がする。



「な、なんですかお兄様」


「サナト様はそりゃあ美しいよねえ?」


「な、なんのことでしょう?」


「・・・僕だって綺麗にしてるのに」


「か・・・そうですね」



思わず『かわいい』と口に出しそうになって何とか飲み込む。まだ私は15歳。この前誕生日を迎えたばかりの15歳です。そんなそんな成人男性に可愛いなんて言ってはいけない。



「今、ケビンに可愛いって言いかけたでしょ?」


「な、んのことでしょうか?」


「・・・そういえば、可愛いって思うということはもう最大限好きだって何かで見た気がする・・・!!」



なんですかそのキラキラした目は。いや、別にケビンのことは好きだけど、決してそういうんじゃない。そういうんじゃない、はず。



「あはは、ふたりは相変わらずおもしろいねえ」



そう言いながらお父様は立ち上がると私が座る席の椅子を引いてくれたので遠慮なく座る。ケビンが先を越されたと言わんばかりの顔でお父様を見つめるがそんなことは気にせずお父様は席に戻った。



「ケビンは最近空回りしてるねえ。愛嬌が出てきて良いとは思うけど」


「う・・・」


「まったく困った息子だなあ。ま、そういうところも可愛いから親バカなんて言われるんだろうけどね」


「かっ!?」


「スカーレットは目に入れたいくらい可愛いから安心してね」



お父様の目になら入ってもいいかもしれない。そう思う気持ちを見透かしたのかさっきまで照れていたお兄様がまたジト目で見てくる。なんですかもう。私がファザコンなのは今に始まったことじゃないでしょう。


お兄様の視線に気づかないフリをしているとしばらくして叔父様が入ってきた。お父様の姿を見てさすがの叔父様も驚いたのか目を丸くしている。



「サナト様がいらっしゃってるとは・・・。知っていればもっと早く起きて出迎えたのですけど」


「あはは、そんなの気にしないで。なんかこのままにしといたらふたりとも家に返してもらえない気がして迎えに来ただけだし」



図星だったのか叔父様が少しだけピクリと反応した。よく見なければ分からない範囲だけど叔父様はお父様を前にすると動揺しやすくなるらしい。



「それにしたって早すぎるでしょう」


「別にごはん食べたらすぐに返してってことじゃないよ?でも僕が来なかったら今日も帰してくれなかったでしょ?ルティシアも早くふたりに会いたがってるから帰ってきてもらわないとね」



私たちがシュプリーム家に泊まると迎えに来ない限り帰ってこないという認識は間違っていない。お母様も早く会いたがっていると言われればシスコンの叔父様も黙るしかない。と、思ったのだが・・・。



「それならお姉様が来てくれればよかったじゃないですか」


「それこそ誰も帰ってこなくなるでしょ?」


「まだスカーレットを買い物に連れてってないんです!誕生日プレゼントに新しくドレスをですねー・・・」


「叔父様、私のお部屋にまた新しくたくさんお洋服増えてたのでそんなにいらないです」


「あんなのは定期的に増やしてるものだからプレゼントじゃありません」



うん。叔父様が結婚できないのは愛情が重いからだ。欲深い人ならともかくこんなに尽くされても自分が何も返せないとなったら気持ちがしんどくなるだろう。



「スカーレットは綺麗になりましたからね新しいドレスが必要でしょう?」


「もう家で買ってあるよ」


「・・・もう叔父様の家の子になっちゃいますか」


「それは聞き捨てならないね?」



おじい様とおばあ様が入ってきてもこの謎の言い争いをやめないお父様と叔父様。美形ふたりに取り合われるという夢の状態だけど親族なので少し微妙な気持ちもある。


おじい様におばあ様、ケビンは朝ごはんを食べることにしたらしい。私もあったかい朝ごはん食べたいです。



「スカーレットはお父様が1番好きだもんね」


「え、あ、はい」


「叔父様も好きでしょう」


「はい」


「どっちを選ぶの?」


「・・・朝ごはんで」



もう勝手に言い合ってて欲しい。この義兄弟のじゃれあいは遠目から見たいのであって巻き込まれたくはないのだ。



「仲がよろしいのは大変結構ですけれど

、私、お腹空きました」


「すぐにお持ちしますね。さあ、サナト様もアルフレッド様も席にお着きになってください。スカーレット様が1番大人でございますよ」



年配の執事長の鶴の一声で興奮して立っていたふたりは渋々席に着いた。ふたりともお互いを牽制しているけれど、もう見えないフリをする。



「ふふふ、王の右腕と参謀を翻弄できるのはスカーレットだけですねえ」


「本当に。アルフレッド、今のあなたを部下に見ていただいたら?きっと人気者よ?」


「翻弄しているつもりはないのですが・・・お父様も叔父様も仕方がないんですから」


「わー、家の子が小悪魔で心配だなあ」


「その辺りはサナト様似かな・・・」


「ケビン、何か言った?」


「いいえ、なにも」



翻弄してるだの小悪魔だの好き勝手言ってくれちゃって。私で小悪魔ならお父様とか悪魔だと思う。お父様とケビンのやり取りを楽しそうに見るおじい様とおばあ様も止めてくれてもいいんじゃないだろうか。


もう何を言っても仕方がないので美味しい朝ごはんを食べることに集中する。今日はおばあ様とケビンと3人で乗馬に行くことになったから早く食べて仕度をしないといけない。



「・・・いっそ今から仕立て屋を呼べば・・・」


「あら、だめよアルフレッド。今からスカーレットは私とケビンと馬に乗って敷地内を散歩する予定なんだからっ!」


「・・・私は知りませんでしたけど?」


「昨日ケビンくんからアリス宛に丁寧なお誘いの手紙が届いたんですよ」



私のところにも朝届いていた。ケビンは相変わらず外堀から埋めてくのが上手い。



「おばあ様と乗馬を久しぶりにしたいと思って。腕がなまっていたら好きな子にがっかりされてしまうでしょう?」


「そうね。しっかり見てあげないといけないわね!」



恋愛脳のおばあ様にはこういう恋愛系を絡めるとはりきって乗ってきてくれるのだ。



「そういうわけだからアルフレッド、ドレスは諦めてね」


「そうですよ。それにアルフレッド様は昨日スカーレットを独占してたんだからいいでしょう」


「ふふふ、ケビンも久しぶりにスカーレットと過ごしたいってずっと言っていましたからね」


「はい。それにー・・・」



ケビンが何か言いかけたところで先ほどのとてもダンディな執事長がハンサムな執事から手紙を預かったかと思うと叔父様の横に立った。



「談笑中、申し訳ありません。坊っちゃま、王宮からでございます」


「エリクソン、その坊っちゃまやめてください」


「はて、坊っちゃまは私たち使用人の坊っちゃまですが」


「・・・そうですか」


「はい」



少しふてくされた様子で王宮からだという手紙を開いた叔父様は読み終わるとケビンににこりと笑いかけた。



「・・・謀りましたね?」


「何をですか?僕にはさっぱり分かりません。何が書かれていたんですか?」



長い三つ編みを揺らしてケビンが首をかしげる。この仕草は分かってるけど惚けてるときのそれだ。まあ、これはワザと分かりやすくやってるのかもしれないけど。



「皇太子殿下がお呼びだそうですよ」


「まあ!それじゃあやっぱり、スカーレットのドレスはまた今度ね!」


「母上はどうして嬉しそうなんですか」


「それならエレーナの様子を見てきてくださいね」


「父上はエレーナにほぼ毎日会ってるでしょう」


「僕のこともたまには呼ぶようにパトリオットに伝えておいてよ」


「ご自分で言ってください」



皇太子のパトリオット様がお待ちとあってはのんびり談笑しているわけにもいかないと叔父様は朝食もそこそこに非常に名残惜しそうな様子で食堂を後にした。



「さて!姪コンプレックスを拗らせた息子もお勤めに行ったし急いで食べて仕度をしなくっちゃね」



パチンっとウインクするおばあ様はとても可愛らしい。思わずニコニコしてしまうとおじい様が神妙に頷いた。『気持ち、分かりますよ』ということだろう。



「3人が乗馬に行くなら私はサナトくんにチェスの相手でもしていただきましょうか」


「お手柔らかにお願いします」



お父様とおじい様のチェスなんて・・・!そのスチル、保存できますか・・・?いや、できないのは分かってるんですけどね。それにしても、このふたりってこんなに仲良しじゃなかったんだよなあ。もう本編というか本筋なんて無いようなもの、何だろう。



「スカーレット、楽しみだね」


「はい」



楽しそうに笑うケビンを見て、どうせなら私にだけ比重の傾いた性格も少し治っていてくれればと思う。いや、でもそれはそれでさみし・・・。



「うううう」


「スカーレット?どうかした?」


「なんでもないですお兄様・・・」



寂しいなんて、そんなことない!パッと浮かんだ考えを振り払うように軽く頭を振って話の輪に戻る。ケビンも皆も不幸にしないためにヤンデレを治してもらおうと決意したのにとんだ体たらくだ。これじゃあまるで、ケビンのことが、好きみたい。その考えをまた振り払うように頭を振る。やや奇行をする私を不思議そうに見るケビンから逃げるようにサッと視線を外した。





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