婚約おことわり
断った私を信じられない顔で見つめるが私はその顔ができることが信じられない。
「あいさつも できない ひとは いやです」
「あいさつ しただろ!」
「ことばも らんぼうだし」
「おうじだから いいんだ!」
「おこりっぽいし」
「おこらせてるのは おまえだ!」
「じぶんの こと ばっかり ってかんじで、いやです」
「~!ちちうえ!!」
自分ではダメだと思ったのか王子は陛下を睨み付けた。それに対して陛下は首を横に振る。
「フェイバー公爵家は私の言うことを聞かなければいけない家柄ではないんだよ」
「ははうえ!」
「私はもともと反対でしたよ」
「なんでだよ!おうじだぞ!」
「おうじさま なら あと ふたり いましたよね?ブライトさま だけじゃ ないですね 」
地団駄を踏むブライト王子に、にっこりと笑ってあげる。可愛いだろう。全身可愛く着飾らなくてもスカーレットの顔は天使のように可愛い。可愛いから結婚したいんでしょう。この面食いめ。
「げっごん、じろ~!」
「いやです」
3歳児を泣かせてしまったことに心が痛まないでもないが、赤の他人より家族が大事だから仕方ない。断罪うんぬんより、相手がコレってだけで迷惑がかかるだろう。ごめんね。
「なんでだよ~!」
「さっき りゆう いいました」
「ヴー!」
「もうやめなさいブライト。お母様と断られたら諦めると約束しただろう」
まだ地団駄を踏んで嫌がるブライト王子を見つめる。あー、面倒だなあ。リアル3歳児ってこんなだよね。そうだよ、周りの子どもが大人っぽいから忘れてたけどお姉様たちだってスペックが高すぎるんだと再認識した。
「そもそも、どうして、けっこん したいんですか?」
「かわいいから!」
「かわいければ、だれでもいいってことですか?」
「え・・・?」
「かわいいから けっこんして ってことは、かわいければ、だれでも いいってことですよね」
「・・・それ、は」
「それ、おうじさまだから、けっこんしたいっていわれてるのとおんなじです」
「!!」
カマをかけてみたけどビンゴ。やっぱり言われたことが、あったみたい。子どもは素直で残酷だからきっと他の令嬢に言われたのだろう。ハッとした顔をして顔をあげたブライト王子をできるだけ冷たく見つめる。
「わたしは おうじさま とけっこんしたくないです」
「そこまでにしてあげてスカーレット。本当に3歳なの?ってくらい鋭いんだから」
「・・・どうしたら」
「ん?」
「どうしたら、けっこんしてくれる?その、ぼくと」
急に萎らしくなったブライト王子に目を見開く。ど、どうしたの突然。
「スカーレットのこのみになるから」
「・・・このみ に なったから って けっこんしません」
「かわるから!どうなったら、すきになってくれるかもしれないか、おしえて!」
・・・これは良くないスイッチを入れてしまったかもしれない。どんなに頑張ってもらっても断罪回避のために婚約も結婚も君とはあり得ないんです・・・。ごめん、ごめん、謝るからそんな目で見ないで・・・。
「おねがい、します」
何も答えない私に焦れたのか頭を下げてお願いされた。大人3人が驚いて固まっている。それくらい、ありえないことが起きているんだろう。ただ、王子様に頭を下げられたままなのはさすがによろしくないだろう。慌てて声をかける。
「や、やめてください」
「おしえて、くれるまで こうしてる」
「わ、わかりました!」
なんとか顔を上げてもらう。期待した顔してるけど、私は生半可な男の人じゃ納得できなくなっている。だってお父様がお父様なんですもの仕方ない。近くにこんなハイスペックな人がいたら他なんて有象無象に見えても仕方ない。
「わたし おとうさま が だいすきなんです」
「・・・うん、それは、みてればわかる」
そんなに分かりやすいか私。まあ、正直お父様にベタベタしてる自覚はあるのでそこはいい。
「なので、おとうさまより すてきになってくれるなら かんがえなくもないですよ」
「ほんとうか!?」
ブライト王子の後ろで陛下が顔を押さえて天を仰いだ。そう、私は具体的にどこをどうしてどうなったら結婚するとは言っていない。『すてきになったら かんがえてもいい』と言っただけだ。確かな目標は『お父様』つまり『サナト』だけどそれだって曖昧と言えば曖昧だ私から見たお父様と王子様からみたお父様が一致する保証はない。このまったく気のない返事を受けて陛下は天を仰いだんだろう。
「でも、殿下が僕を越すまで・・・なんて、スカーレットが待つ必要はありませんよね」
「・・・それは、そうだな。フェイバー公爵家にはデメリットしかない」
お父様の越せるもんなら越してみろと言わんばかりの語気に陛下が苦笑いしてそう答えた。前回から思ってたけどこの二人は仲がいい。あんまり周りの細かい関係性とか描かれてなかったからまた今度聞いてみよう。
「ええ。ですから14歳のときに殿下がスカーレットの好みでなければ婚約の話を2度としないでいただけますか?」
「・・・まあ、サナトにしては甘く見積もってくれた方か」
「ただし、殿下と婚約したわけではありませんから、スカーレットが気に入った方が現れたり、途中で殿下が心変わり等された場合はお待ちしませんのでご了承ください」
そう言いきってお父様はそれはそれは天使のようににっこりと綺麗に笑った。