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引き寄せる力でもあるんだろうか?

本格的に授業が始まって、目まぐるしく日々は過ぎて行った。そのせいもあってかあの図書館での出来事以外は何もないままだ。


それなのに何か起きそうな予感がする学校イベントがもうすぐそこまで迫っていて頭を抱えたくなる。そのイベントというのがメイ・ホリデーガーデンパーティだ。


メイ・ホリデーというのは5月初頭にあるまとまった1週間の休みの期間を指す言葉で日本のゴールデンウィークみたいなものだ。この期間中は原則自宅に帰って家族と過ごすことになっている。シーズン中で家族が王都に来ている時期だからだ。王都から離れた地域の貴族は夏休みになかなか帰れない場合があるし、入学して1ヶ月後に心配している親御さんに顔を見せて少し安心してもらうなど様々な理由があってそうなっている。


そのメイ・ホリデーが始まる1日前に開催されるのが生徒が主宰のメイ・ホリデー ガーデンパーティだ。生徒たちの交流を深めるという趣旨で行われる立食形式のティーパーティなのだ。


このメイ・ホリデーガーデンパーティも恋愛イベントが起こるものだったので何かあるんじゃないかと今から胃が痛い。私はただ平穏無事に卒業してケビンのことをなんとかしつつ当主になりたいだけなんだけどな。


今はそのメイ・ホリデーガーデンパーティの会議のために生徒会館に向かっている。生徒会は各校の代表者が集まるという性質上、各学校の中心となる位置に建物があって生徒会館と呼ばれている。


歴史を感じさせる建物の階段を登って会議室に入るとクセの強い金髪を肩まで伸ばした赤い瞳のとにかく派手な男性がわざわざ座っていたソファから立ち上がると私の前に跪いた。



「おかえり天使ちゃん」


「副会長様、その天使ちゃんというのはどうにかなりませんか?あと、出来れば仰々しいお出迎えも遠慮したいのですけれど・・・」


「天使ちゃんを封じられたら女神様か子猫ちゃんになっちゃうよ?」


「普通に呼んでくださればいいと思うのですが・・・。あと、早くお立ちになってください」


「いやー狼狽える天使ちゃんが可愛くてついね。それに天使ちゃんは小さいから見上げられるのは新鮮でしょ?」


「まあ、見上げられることはほとんどありませんけれど」


「・・・うん。やっぱりしばらく続けるね」



副会長はようやく立ち上がるとにこにこと楽しそうに私をエスコートして席に座らせた。副会長と私しかまだ来ていないからか本来の席じゃなく私の隣に座って副会長は話し始めた。



「天使ちゃんさ、そろそろ『副会長様』じゃなくて名前で呼んでくれてもいいんじゃないかなって思うんだけど」


「天使ちゃんをやめてくださるなら考えますけれど」


「道は長そうだなあ」



やれやれと首を振るけれどやれやれは私のセリフだと思う。メイドさんが淹れてくれた紅茶を一口飲む姿はとても綺麗なのに口を開くと軽薄な感じになってしまうのでもったいないなと思う。軽薄なのが好きな人もいるし、これはこれでいいのか?



「ぼんやりしてる?」


「きゃ!?」


「あはは」



突然目の前に整った顔があれば、いや、整ってなくても顔があれば驚く。それなのに飛び退いた私を見て楽しそうに笑うのは意地が悪いと思う。



「何考えてたの?」


「・・・黙っていればお綺麗なのにって」


「顔は好みなんだ?」


「・・・・・・」



好きなタイプの顔ではあるけど、正直に答えたら何を言われるか分かったものじゃないので黙秘させていただくことにした。



「あー、黙るのはずるい、だっ!?」


「それ以上、下級生をからかわないの。大丈夫?スカーレットちゃん」


「私にはヴィクトリア様が女神に見えます・・・」



現れるなり副会長にチョップを決めた彼女はヴィクトリア・アートリーク・レジリエンス様。公爵家の娘でスティナーと同い年だ。ついでに紹介しておくと副会長はジェイムズ・アートリーク・レジリエンス様。この二人は双子だ。スティナーは同い年だけど交流はあまりないのだとか。



「もうっ、スティナーは呼び捨てなのに私は様付けだなんて悲しい・・・」


「いいこと言ったね妹。僕たちだって名前で呼んで欲しいよねー?」


「数分差でお兄さんぶらないで」


「論点がズレてるよ?」



ヴィクトリア様は副会長様と同じ金の髪だがストレートのそれを背中辺りまで伸ばしている。彼女が動くたびにさらさらと流れるそれはとっても綺麗だ。ヴィクトリア様と副会長様はどちらもゲームに登場する。登場するどころか副会長は来年、会長になって攻略キャラクターとしてヒロインの前に現れる。そして、ライバルキャラクターというのが他ならないヴィクトリア様だ。


彼女がヒロインに突っかかる理由は『お兄様にも公爵家の嫁としてもあなたは相応しくない』というものだった。公爵家というのは伯爵家より下の子爵や男爵とは結婚しない、というより出来ないというのがこの国の決まりだ。比較的自由な国ではあるけれど、血統は守っていくものという考えは強い。ヒロインは男爵位なので妾にしかなれないというのをこの世界に来て知った。決まりが変わらない限りは。


しかし、ジェイムズは家の力を利用して特別措置としてヒロインと結婚できるように画策する。それに憤慨したヴィクトリアはヒロインの貴族としての地位を剥奪しようと画策したところをジェイムズに妨害され跡継ぎの彼に修道院に送られてしまうのだ。ゲーム本編ではあんまり仲がよくなかった。


現在もそこまで仲良しとは言えないらしくヴィクトリア様は副会長様の隣ではなく私の横に座ると私の腕にぎゅっと豊かな胸を押し当てる。



「こんな人は放っておいて私とお話ししましょうスカーレットちゃん」


「あ、あの・・・っ」


「スティナーったら早速スカーレットちゃんの『お姉様』の地位を手に入れちゃって・・・私なんてセイントリリーな上に学年も違うし・・・今からでもお父様にフェイバー公爵様ともっと仲良くするように言うべきかしら・・・?」



ヴィクトリア様の青い目がとろんとしている。彼女とは私が10歳のときから親交があるのだけど、私のことをとても気に入ってくれている。ただ、彼女は自分のものだと思うと手放せなくなるそうだ。また、誰かが一人占めしていたりすると非常に焼きもちを妬く質なので私のことも出来れば自分が一人占めしたいのだと、面と向かって笑顔で言われたときに自分はヤンデレホイホイなんじゃないかと思った。



「スカーレットは可愛いし美しいし私大好きよ」


「あ、ありがとうございます」


「だからねスカーレットの敵はみーんな私が倒してあげる」


「えっと、自分で出来ることはしようと思うのですが・・・」


「いいの!天使は汚れていないものなの!」


「は、はあ」


「だから名前を呼び捨てにして?」


「・・・私的なときでよろしければ」



会うたびに交換条件を言われて続けている。年上ということ以外にも出会ったのが10歳を越えてからというのもあってやんわり断っていたのだけど、これはそろそろ折れないと今後何を言い出すか分からない。



「!!ありがとうスカーレットちゃん!」


「・・・はい、ヴィクトリア」



満足そうに笑った彼女にとりあえず喜んでくれたならいいかと思っていると、彼女とは反対の手を副会長様にぎゅっと握られた。



「ヴィクトリアだけズルいと思うんだけどな?」


「えっと・・・」


「僕だってスカーレットちゃんのこと大好きだし君の敵はこてんぱんに潰してあげるよ?」


「・・・さすがに異性を呼び捨てにはできません」


「あ、じゃあ、夏休みに家に来てよ。そのときにジェイムズって呼び捨てにして?メイドも全部人払いしておくし、ヴィクトリアは同席させるから。どう?それ以外のときはジェイムズ様でも我慢するよ」


「・・・それならまあ。あ!でも!天使ちゃんを止めてくださらないならダメですよ!」


「・・・うーん・・・・・・こればっかりはなあ」


「ジェイムズはなんでスカーレットちゃんを名前で呼ぶのが嫌なの?」



ヴィクトリア様がそう聞くと副会長様はそっぽを向いて口元を隠して頬を赤くした。



「・・・恥ずかしいじゃないか、いまさら」


「まあ!まあまあまあまあまあ!!」


「な、なに、急に立ち上がって」



ヴィクトリア様は急に立ち上がると副会長様の横に立ってじっと彼を眺めたまま何やら思案し始めた。少しして頷くと副会長様の手を両手で握るとものすごくいい笑顔で口を開いた。



「ジェイムズは軟派でなんて破廉恥なのかしらと思っていたのだけど」


「おおう、言うね・・・」


「それは照れ隠しだったのね!」


「はい?」


「いいの皆まで言わなくて!ライバルは強敵だけど私も手伝うから!」


「軟派っぽいのはもはやアイデンティティなんだけどな・・・」


「着崩すのをやめるだけでも違うの!なんなのこんなにボタンを外してちょっと貸しなさい!」


「ちょ、やめろって実力行使に出るなよ!」



じゃれあい始めた二人から距離を取って紅茶を口に含む。なんだかんだ言いつつもヴィクトリア様が近寄ってくれて嬉しそうな顔をしているから放っておこう。壊滅的に仲が悪いわけではないようだしコレがきっかけで仲良くなれるといいけれど。



「・・・問題はまた厄介なことになった気がするってことだけか」



どんどん色んな攻略キャラクターとの仲が深まっているのが気になるところだけどこれはもう自分が悪役令嬢に割り振られてる時点で仕方ないことなのかもしれない。





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