閑話12 うまくいかない
束縛しないように、邪魔しないように、苦しめないように、傷つけないように、なにもかも、壊してしまわないように。
自制できるようになるために、スカーレットを正しく愛することができるようになるために、10年以上も傍を離れたはずだった。確かに、離れてる間にべったりしていたらできるようにはなってなかったことや経験できたことも多かった。実際、屋敷で会ったときも凪いだ気持ちで接することができたし、このまま順当に段階を踏んでスカーレットに好きになってもらえるようにしていこうと思っていた。
それなのに視線を外すことも手紙を書く手を止めることも全くできなかった自分に乾いた笑いがこみ上げてくる。結局自分はどんなに自制しようとしたところで無駄なのかもしれない。
「・・・スカーレット、ごめんね。こんなでごめん・・・ごめんね、ごめんなさい・・・」
ひとり与えられた部屋で何度も何度も謝ったところで気持ちは落ち着かない。誰も僕からスカーレットを盗らないでとしか思えない。それから少ししてスカーレットの護衛として学園に着いてきているブライアンがスカーレットからの手紙だと言ってそれを手渡しにきた。
「真っ青ですが、大丈夫ですか」
「・・・大丈夫だよ。ありがとう。その、スカーレットの様子はどうだった?」
「私は外にいることがほとんどなので分かりませんがガーネットが特に何も言っていませんでしたから大丈夫だと思いますよ。よろしければ図書館にお誘いしていたとお伝えいたしますか?」
ここに来てから初日以外お会いになっていませんしお嬢様も喜ばれますよという騎士の提案を丁重に断って部屋の扉を閉める。さっき出した手紙の返事を律儀にくれたのだろうけど開けるのが怖い。スカーレットの手紙の封を切るのが怖いのなんて初めてだと考えてからまた苦笑する。自業自得だ。1時間ほどずっと封筒だけを眺めてようやく封を切った。
「呼び止めてしまったお詫びにといただいたものです・・・か」
後は学校生活に慣れるように頑張るから僕も身体に気を付けてというようなことが書かれていた。誰にもらったのか、それをスカーレットがどう思ったのか、そういうことは一切書かれていない。思えばスカーレットは昔からそういうことは一切教えてくれなかった。それが、僕が誰かを傷つけないようにという配慮なんだろうことは分かる。
「・・・そいつのことが、大切だから隠すの・・・?ああ、違うスカーレットは僕のためにしてくれてるんだって・・・いや、でも・・・」
少し触れただけで、手が届くところにいるだけでこの有り様だ。スカーレット、壊したくない大切にしたい。スカーレットが僕にくれた笑顔を優しさを返したいのに返せない。どうしたらいいか分からない。
「・・・」
スカーレットからもらった手紙を丁寧にしまってお母様からもらった宝箱に入れる。ほとんどがスカーレットからもらったもので埋まっているそれの中にはフェイバー家の皆からもらったものも、もちろん入っている。
「・・・今度こそ壊したくない」
僕を受け入れた家族を裏切るようなことはしたくない。僕が受けられると思ってなかった愛情を何も惜しまずに与えてくれた彼らを彼らの回りをめちゃくちゃに壊してまでスカーレットを手に入れるつもりはないのに、思いとは裏腹に何をしでかすか分からない自分が怖かった。




