知ってたけどね・・・?
詳しく話をすると言ったがティールームは騒がしくなってしまった。主にお母様が激しく狼狽えたからだ。それにつられてエレーナお姉様とトパーズお姉様も目を潤ませている。
「スカーレット、もしかしてふたりが嫁いだから跡取りのことを気にしてノーブル王立学園を・・・?」
「スカーレットは気にしやすいから・・・」
「違います」
「スカーレットは控えめなのにノーブル王立学園だなんて・・・ケビンお兄様もいるのだしいいのよ。編入学届けを出して今からでもセイントリリー女学園に・・・!」
「・・・お母様!お姉様!」
「な、なに?」
「私がノーブル王立学園へ入りたいと思ったのは3歳の頃です」
「え!?」
「3人が心配しているような理由じゃないです」
私がノーブル王立学園に行けば血筋的に私が次期フェイバー家当主になるだろうと考える人が大半だ。そうなれば好きな相手と結婚するのが難しくなると恋愛結婚の3人は思って止めてくれているんだろう。
「ブライト王子のことね?分かったわそんなに心配ならお姉様がもっと厳しく教育して差し上げてよ」
「あはは、エレーナを前にしたブライトの借りてきた猫っぷりは面白いよ。今度遊びにおいで。まあ、それはともかく、なんでフェイバー公爵も知ってるの?」
「まさか入学させてもらうのに黙ってるわけにもいかなかったので、お話したらお父様が『僕が知ってることは黙ってるように』とおっしゃったものですから」
「可愛いスカーレットの秘密を黙ってられたなんて悲しかったからね。ちょっと驚かせてみようと思って。スカーレットにもちゃんと厳しいお題を出させてもらったし」
「お題?」
「・・・おそらく、首席合格ですね?ノーブル王立学園の首席合格者は全学園の新入生代表として挨拶することになっていますから」
叔父様の言葉にお父様は笑って頷く。
「女の子で首席合格した人はいないのでそれを課題にしました。それが出来なかったら合格してても入学させないと言っておいたんですよ」
そのためにも僕が知らないと思われている方が皆僕を当てにしないから成果がでると思うな。なんて秘密にすることにしたとは一言も言わないお父様は怖いなと思う。ああ、エレーナお姉様の危惧を晴らしておかないと。
「ブライト王子のことは、もう花を踏み潰されたことで関係なくなりました。私は当主になろうと思ってノーブル王立学園に通うんです」
「・・・でも、スカーレットはケビンのことが好きなんでしょう?それならケビンが跡を継いでスカーレットがお嫁さんになる方が・・・」
「エレーナお姉様!」
「トパーズ止めないでちょうだい。別にスカーレットが当主になるのが駄目と言ってるのではなくて、ケビンとスカーレットが障害なく結ばれるのにはどうしたらいいか話してるだけで・・・!」
「身内のこととなると熱くなってしまうのも可愛いとは思うけどねエレーナ、親族がほとんど勢揃いしてる中では可哀想だと思うよ」
「・・・・・・」
エレーナお姉様はこういうところが玉に瑕だ。私が頭を押さえているとケビンお兄様が立ち上がって私の手を取った。
「スカーレット、僕のこと好きなの?」
「そうだったのスカーレット?お父様に教えてくれてないなんて悲しいなあ」
推しに左右から挟まれて動揺しないでいられるほどまだこの世界に馴染みきっていなかったと思い知らされる。なんとか逃げ出してお母様の横に逃げようとしたものの彼女の顔もランランとしているから駄目だ。この調子ではお姉様たちもそうだろう。あっけなく元の位置に戻される。
「スカーレット」
「あの、そのですね・・・違うともそうとも、言い切れないといいますか・・・」
この11年で腰まで伸びた髪を揺らしながらケビンは首を傾げる。
「嫌いなの?」
「違います!それはないです!」
「じゃあ好き?」
「えっと・・・その・・・!お、お父様!」
「んー、僕は別にケビンならいいかなあと思うよ?養子だから結婚も出来るしね。束縛癖はちょっと治らなかったっぽいけどそれ以外はちゃんとしてるし。面白くはないけど」
「そういうことではないんです!」
別に嫌いとかではない。離れていたせいなのか毎日ケビンはどうしてるかなとか、元気だろうかとか、学園で可愛い子に告白されたりしてるんだろうかとか、もっと会いたいとか思ったりはしてたけど!それは、そう!きっとケビンが生前推しキャラだったからであって断じて恋愛的なそれとかじゃない。
そんなようなことをもちろん転生のことは話さずにエレーナお姉様にオブラートに包んで相談したらエレーナお姉様からトパーズお姉様に話が行って私がケビンのことを好きになったらしいけど、loveではなくlikeですと言っておいたのに・・・!
「自分の気持ちに鈍感なのは僕に似たのかなあ」
「スカーレットはかなりサナト様に似てますから」
「ケビンも苦労するねえ。ま、エレーナとトパーズの相手は苦労しなさすぎたとも言えるし少しは溜飲も下がるかな」
「まあ、どうなるにしろケビンは息子でしょう?」
「それはそれ。これはこれ。まあ、そういうことだからルティシアもスカーレットのこと応援してあげてね。本当に跡を継ぎたいと思ってくれてるようだから」
「・・・はい。スカーレットがああまで言うなら私も止める気はありませんわ。動揺はしましたが」
「・・・ごめんね。ルティシアは知ってたら構ってしまうと思って」
「そうですね。分かってます。でも、私なんだか今話題のお店のストロベリーホットチョコレートをサナト様と飲まないと気が済みませんの」
「明日空けておくよ。スカーレットのことはケビンに頼んでおくから」
「ふふ、約束ですわよ?」
いつの間にかお母様の横に座っていたお父様がお母様にこんなことを言っているとは露知らず、私は迫ってくるケビンお兄様にたじろぐばかりだった。




