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そして、月日は流れ

合格発表の当日から始まります

それから約11年間、本当にケビンは私から物理的に距離を取った。今は父方のおじい様の家に行っている。行きっぱなしということはなくて、半年に1度くらいは帰ってきているし、私のファーストタイムティーにも参加してくれた。その間にケビンは私に好きだと言ったこともなければ過剰なスキンシップもしなかった。それが少し寂しかったし、毎日会えないのはかなり寂しかった。


そんなケビンが私の入学試験の結果を聞くために今日帰ってくる。正直、試験の結果よりそっちの方が緊張する。いや、それは言い過ぎか。この合格発表の結果がどうなってもゲームのシナリオとは大きく変わるのだから。でも、やっぱりケビンのことも気になる。何を考えても落ち着かなくて何度も鏡の前で姿を確認してはため息を吐いた。



「うう、ナターシャ、変ではないですか?」


「お可愛らしいですわ。本日はお姉様方にケビン様にレイチェル様、ミーナ様もいらっしゃいますからお嬢様はそちらの方が楽しみなのではないですか?」


「うう・・・そうなんです。特にケビンお兄様とミーナは久しぶりなんですよ?楽しみでも仕方ないでしょう?」



この11年で変わったのことはたくさんある。ひとつはミーナが例の婚約者と無事に結婚してミーナ・コーシャス伯爵令嬢からミーナ・ブリンク伯爵夫人になった。今では3人のお母様として生活している彼女が家に来るのは本当に久しぶりだ。



「お姉様たちだって旦那様といらっしゃるだなんて手紙が来ていたし・・・」



エレーナお姉様もトパーズお姉様も卒業と同時に嫁いで行った。エレーナお姉様は旦那様と来ると言っていたから少し遅くなるかもしれない。そんなことを言いながら何度目かの確認を終えた頃、扉がノックされた。



「はい」


「入るよスカーレット」


「お兄様、もうお帰りになっていたんですね」



ナターシャが礼をして部屋を出ていったのを見届けてからケビンはソファに 座った。私はケビンの隣に座る。



「うん。今日からこちらに戻ることになってね」


「!そうなんですね」


「スカーレットが学園に行ったらふたりが寂しいだろうとおじい様が言うものだから・・・。それ以外にも理由はあるんだけどね」


「まだ合格通知も来てないのに気が早いんですから」


「落ちてるはずないでしょ?さ、ティールームに行こう」



ケビンとティールームに入るとすぐに叔父様が私とケビンをひっぺがして私を自分の横に座らせると何もなかったかのように話し始める。



「久しぶりですねスカーレット。今日はお祝いの品をたくさん持ってきましたから楽しみにしててくださいね」


「叔父様近いですよ」


「ああ、ケビン居たんですか」


「居ましたよ!」


「ふたりは相変わらず仲良しねえ」


「どこが仲良しですかおばあ様」


「おや、仲がいいつもりでしたが」


「散々邪魔しておいてよく言いますね」



私を挟んでの言い合いには慣れているので放っておくことにする。合格発表、もちろんノーブル王立学園を受験した。それを知っているのは今日来るメンバーの中では叔父様とおじい様とレイチェル様とケビンとケビンが仲間に引きずり込んだパトリオット王子だけだ。


しばらく談笑しているとお姉様たちを出迎えるために玄関ホールで待っていたお母様が慌てて部屋に入ってきた。



「ああ、ケビン、帰ったと聞いて急いでこちらに来たの。もう、また庭の方から入ってきたのね?」


「スカーレットの庭が気になって。この前誕生日に花を贈ったばかりでしたから。それに、もし鉢合わせなんてことになったらいけないでしょう?」


「変なとこに気をつかって・・・。まあ、ともかくおかえりなさい。荷物は?まだ届いて無かったでしょう?」


「明日届きますよ。おじい様とおばあ様も来たいと言っていたのですがおじい様がまた腰を痛めてしまいまして・・・」


「おや、フェイバー前公爵が?」


「はい。今回は裏の森を歩いていたら美しい花に目を奪われ、足を踏み外した結果尻餅をついた衝撃で痛めたようです」


「お義父様はロマンチストですから、夢中になってしまわれたのね」


「今は花の美しい季節ですものねえ。花の精とまで呼ばれたすみれの君、懐かしいですね」



クスクスとおばあ様が笑うとケビンも苦笑している。するとレイチェル様が部屋にやってきた。



「ごめんなさい。息子が自分も行きたいと聞かなくて・・・!」


「着いてきちゃいました。スカーレットお姉様」


「こんにちは」


「ちゃんとお行儀よく座っているのよ?」


「ストリクト家の長男ですよ?大丈夫です!」



どんっと胸を叩くしぐさをする彼はひとつ年下でレイチェル様の息子のデイヴィッドだ。私のファーストタイムティーに招待したのがきっかけで妙になつかれてしまった。



「スカーレット」


「・・・いや、私は何にもしてないんです」


「スカーレットはいるだけで男を惹き付けるから心配なんだよ」


「お姉様は可愛いですからね!」


「デイヴィッドくんは少しお口を閉じててくださいな」


「はーい」



デイヴィッドも確か攻略キャラクターだった。相手が誰だか思い出せないからきっと学園で会うことになるんだろう。



「スカーレット!」


「トパーズお姉様、おかえりなさい」


「ただいま、ああ、早く来るつもりだったのだけどサファイアが私も連れていけだなんて無茶を言うものだから。あの子だって自分の合格発表があるからスタンに押し付けて来たの」


「あはは、まあ受験でこのところ、会えてませんでしたから」



叔父様が開けてくれた席にトパーズお姉様が座る。トパーズお姉様はブレイブ家に嫁いで、今はトパーズ・センテッド・ブレイブだ。相手はスタン様で彼はずっとお姉様のことが好きでこちらが恥ずかしくなるくらいアプローチしていたのは記憶に新しい。



「遅くなりましたお嬢様っ」


「ミーナ!」


「申し訳ありません」


「いいんですよ。まだ皆小さいんですし・・・それより来てくれて嬉しいですお兄様、席を空けてくださいな」


「はいはい」



ミーナを横に座らせてしばらくお話していると王家の騎士が入ってきたので全員立ち上がる。しばらくするとエレーナお姉様とパトリオット王子がティールームへやってきた。



「こんにちは、遅くなって申し訳ありません」


「いえ、おいでいただきありがとうございます。王太子殿下と王太子妃殿下はこちらへどうぞ」


「ありがとうございます・・・さて!形式はここまででいいでしょう?スカーレットちゃん緊張してない?大丈夫?」


「・・・試験結果より王太子殿下の変わり身の方が怖いですわ」


「あはは、なんでも無いときはお兄ちゃんって呼んでくれていいのになあ。ねえエレーナ」


「私だってお姉ちゃんなんて呼ばれたことありませんのにダメですわ」



そう、エレーナお姉様はパトリオット王子と結婚した。5年ほど前にパトリオット王子が王太子に選ばれたのでお姉様は王太子妃だ。なかなか会えないけれど相変わらずそうで安心する。



「お姉様、お腹の赤ちゃんはいつお生まれになりますの?」


「あと2ヶ月くらいね。エリナがもうお姉さんぶってるのよ」


「思い出すなあ・・・エレーナもそうだったよね」



お父様が部屋に入ってきていつもの席に座るとお母様にそう言った。お母様も微笑ましそうに頷いている。



「ええ。毎日毎日話しかけていたわね」


「血筋だね」



和やかに話しているとこれが合格発表を待っている集まりだということを忘れそうになる。しばらくそうしているとエリックが合否結果を届けに来た学園の事務の方を部屋に通した。



「ご歓談のところ申し訳ありません。スカーレット・アルディ・フェイバー様」


「私です」



事務の方の前に立つと彼は書状を読み上げる。



「ノーブル王立学園への入学が認められました。つきましてはこちらの入学証明書と入学手続き等の書類をお納めください」


「慎んでお受け取りいたします」


「最後に、スカーレット様には新入生代表の挨拶をお願いいたします」


「かしこまりました」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」



振り返るとお父様が私をぎゅっと抱きしめた。



「頑張ったねスカーレット」


「はい。お父様のおかげです」



その場にいたお父様と私以外の全員が驚いている。理由はそれぞれで違うだろうけど、代表してお母様とケビンお兄様がそれぞれの声を代弁した。



「スカーレット、セイントリリー女学園ではないの・・・?」


「スカーレット、なんでサナト様が知ってるの・・・?」



ふたりの表情が全く同じで面白い。さすが家族と言ったところだろうか。



「とりあえず、順を追って説明しますね」


「だから、皆、座ってくれますか?」



そう言って私とお父様はにっこりと笑った。










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