タイミングがいつも悪い
もう大体の人が帰ったということで屋敷の中に戻ろうとしたら目の前の茂みからブライト王子が飛び出してきた。
「ふっふっふ!あにうえに じゃまされないようにかくれて まってたけど せいかいだったな!」
だからずっと王家の騎士の人たちがここで立っていたのか。それにしても勝手に人の家の花壇に入って茂みを荒らすのはどうなんだろうか。思わず騎士の人たちを睨み付けると何人かがたじろいだ。
「・・・おひさしぶりですねブライトおうじ。わたしの りそうからは あいかわらず ほどとおく あんしんしましたわ」
「え!?」
「それで、なにかごようですか?」
「な、なんでスティナーなんかにはやさしくして、ぼくには きびしいんだ!」
「あまり、こうしゃくけのかたに しつれいなことを いわないほうがよろしいかとおもいますよ?」
そう、貴族の人はみんな帰ったけれど各家の騎士や従者が忘れ物や粗相の謝罪などでまだ忙しくしている。現に近くにはスティナーの連れてきた執事がブライアンたちと話をしていたのだ。たぶんあの風貌は執事長に近いクラスの人だろう。彼女のお母様の耳に入ったら陛下が激しく責められる可能性がある。子ども同士の喧嘩なら両成敗で終わることが大半だが本人のいないところ、しかも大声での陰口なんていい顔はされない。
「だって!アイツかお こわいし!くちょうはらんぼうだし!」
「そんなこと、ありませんわ。スティナーさまはおきれいですし、ことばが つよくなってしまうのは はずかしがってるからだと ちゃんと おはなしすればわかります」
「~!なんでいうこと きかないんだよ!ぼくは おうじなのに!」
家庭教師がストリクト家に変わってもコレだとは・・・もはや天性のバ・・・こほん。失礼。もう直りようがない気がしてきた。ヒロインはなんでこんなのがよかったのか理解に苦しむ。
「・・・ふゆかいです。こうしゃくけのしきちを あらしたと へいかにこうぎいたします!どうしてきしのかたたちは ブライトおうじが こうしゃくけのかだんにはいり、はなを ふみつぶすのを とめなかったのでしょう。よほど こうしゃくけを かろんじてると みえます」
私の言葉に慌てたのは他でもない騎士の人たちだった。なんとか私の機嫌を取ろうとするがもう遅い。
「ブライアン、ガーネット、パトリオットおうじを よんできてください」
ここにきている王族の中で一番位が高いのは第一王子のパトリオット王子だ。私の言葉を聞いてブライアンが走りだす。少ししてやってきたパトリオットがあちゃーといった顔をすると同時に楽しそうでもある。
「・・・状況で全て分かりました。ブライト、他家の家の中を荒らしたなんて、父上が知れば謹慎だ。期間が長くならないようにもう口は閉じたほうがいいよ」
「な!ちょっと はなを ふんだだけじゃないか!」
「お前が踏んだその花はフェイバー公爵家の家紋にも描かれているフェイバー公爵家の家花だ。それを踏みつける意味が分からないなら、王族はやめたほうがいいな」
フェイバー公爵家の家紋にはバラとすみれが描かれている。5つの公爵家はすべて家紋にバラと他の花がひとつ入れられている。バラは王家の花、王家に近い血筋だということが表されている。もうひとつの花が家を象徴する花で家花と呼ばれている。それを踏みつけるのは相手の家を愚弄する行為以外のなにものでもない。パトリオット王子が来てから騎士の人たちの顔が青を通り越して土色になったけれど4歳の私には分からないとでも思っていたんだろう。バカにしてくれたものだ。
「ブライトおうじは フェイバーこうしゃくけをぶじょく したんです。ブライトおうじ、そんなひとと わたしはこんやくも、けっこんもできません。おとうさまから こうぎぶんを おくっていただきます」
ブライト王子は黙ってしまい、騎士たちは明らかに狼狽えている。騎士たちの中に経験の長い人がいないことが気になるがその種明かしはすぐにパトリオット王子がしてくれた。
「だから騎士団長がお前に付いてくれるって破格の申し出があったのに、五月蝿いことを言わないからと騎士学校を卒業したばかりの人たちだけしか近づかせないからこうなるんだよ?」
「な、なんで とめないんだよ!!」
「そんなこと、まだ騎士として働き始めたばかりの彼らに求めるのが酷だろう。そもそも、そんなことは貴族の子どもならどんなに小さくたって知ってるよ」
「いやだ!わるいのはこいつらなんだ!ぼくをとめないからわるいんだ!ぼくは!ぼくは!」
「・・・いいかげんに してください」
とても聞いていられる癇癪じゃない。子どもだからといって許されないことが多いのが貴族だ。さらに許されないことが多いのが王族だ。そんなことは幼児でもみんな分かっている。家庭教師に難があったらしいというのは叔父様から聞いていたけれどもうストリクト家に変わってだいぶ経っている。それなのにこの自覚の無さに腹が立った。
「スカーレットちゃん?」
「ブライトおうじは じぶんのしたことの せきにんも とれないんですから だまってかえってください。あなたはきんしんですみますけど、こんなことをみすごしたとひなんされたら きしのひとたちは くびになって あしたから しごとを なくすかもしれないのに」
「・・・そんなの、またさがせばいいじゃんか」
「そのあいだに、かぞくのだれかがびょうきになったら?すぐにしごとがみつからなくて かぞくみんな、たべられなくなったら?すむところをおいだされたら?あなたは、せきにんが とれるんですか?うらまれても、なんともおもいませんか?それで、かれらがくるしんでも、なにもかんじないんですか」
「あ・・・」
「・・・きしのみなさんに こうぎぶんをおくってもらうと いわなかったのは それがりゆうです」
「王子の僕らより、よっぽど立派だね。スカーレットちゃんもこう言ってるし君たちは今回は騎士団長のしごきだけで勘弁してもらえるよ。ブライト」
「・・・はい」
「父上に全て話す。この騒ぎだフェイバー公爵にも話は既に行ってるだろう。大人しく城に帰るよ。いいね」
「・・・はい」
「スカーレット嬢、弟の度重なるご無礼、王家を代表して謝罪します」
「わたしだけでは しゃざいを うけられるか きめられません。おとうさまや へいかが おきめになられるでしょう」
「そうですね。本日は失礼いたします」
そう答えるとパトリオット王子はブライト王子と騎士たちを連れて帰っていった。
「・・・おおごとになるようなことを やらかさないでほしい」
これは私というより陛下たちの思いかもしれないけど。ガーネットに付き添われて部屋に戻るとお父様がお腹を押さえて笑っていた。
「おとうさま」
「あはは、いやあ、あそこまでとは おもってなかったから つい・・・。ふふ、それにしても立派だったよスカーレット。あれが役職ついてるような騎士だったらともかくまだ新卒の子達だから1度の失敗くらいは許すくらいの懐の深さを見せるのも公爵家だからね」
「だって、かぞくが いることもかんがえたら ろとうに まようようなことは いえないですもん・・・」
「よしよし。後のことはお父様に任せて。部屋にアイスティーを用意させたから飲んでおいで喉乾いたでしょう?」
そう言うお父様に頷いて部屋に向かう。ケビンに時間が出来るのもこれでは少し時間がかかるだろうから。




