恋のせいなの?
あの夜から3週間が経った今日、ケビンお兄様のファーストタイムティーを迎えている。お兄様もお姉様と同じように途中からガーデンティーパーティーになるようにしたようで今はあちこちに挨拶に行っている。それを遠目に見てため息を吐くと隣に座っていたサファイアが心配そうに私を見つめてきた。
「だいじょうぶ?」
「・・・はい」
サファイアにはそう返したものの、心は上の空だ。あのあと、ソファで泣きつかれて眠ってしまったお兄様に何とか布団をかけてそっと部屋に戻った。
次の日に会ったときにお兄様に告白の返事をした方がいいかと思って声をかける。『魔法使いでしょ?』とは返したけれど、これは『怪獣でもお兄様のことを怖いと思ってない』という意味合いが強いのではないかと思ったし、何より明確に好きと言われたことに対しての返事としては不誠実な気がしたからだ。
けれど、何かを察したのか私が口を開く前に『返事はファーストタイムティーが終わったら聞きたい』と言われてしまった。しかも、距離を取られるようになってしまって、お父様から心配されている。お父様は責任を感じているのだろう。私はこの状況全てに責任を感じてしまっているのでこのところ
寝不足だ。
「はあ・・・」
「ほんとうに、だいじょうぶ?」
「こいって たいへんなんですねえ」
「こ!?」
「・・・サファイアかわいいです。わたしのいやしです」
可愛い可愛いサファイアを抱きしめて心の平穏を保つ。いっぱいいっぱいになっているサファイアにお茶を勧めていると、私より濃い金髪の縦ロールを揺らしながらスティナーがこちらに近づいて来た。サファイアは私の後ろに隠れたが、スティナーはこの前と違って気落ちしているように見える。
「・・・あの、その・・・サファイア」
「な、なに?」
「このあいだは、その、わ、わるかったわ・・・!」
「え?」
「・・・スティナーさま」
「は、はいっ!?」
「よかったら、いっしょにどうですか?」
「え・・・!?」
「このまえは、わたしも、つよくいいすぎました。なかなおり、してください」
たぶん、この子は悪い子ではない。そうでなければこんなに緊張した様子で謝りになんて来ないだろう。このまま帰ってもらうのもなんだか可哀想な気がする。たぶん公爵で同じ年頃の女の子なんて私とサファイアしかいないんじゃないだろうか?仲良くなりたいけど、どうしていいか分からないのかもしれない。案の定、彼女は真っ赤になりながら私たちの前のソファに座った。
「こうちゃは なにがいいですか?」
「・・・あ、この、あの、いちごがいいですわ」
「分かりました。ブライアン」
「かしこまりました。伝えて参ります」
側に控えていたブライアンにメイドに伝えに行ってもらう。その間にガーネットはお菓子を追加してくれた。ふたりは護衛をするのと同時に私のお世話もしてもらっている。
「どうして、サファイアに、ひどいこと、いっちゃったんですか?」
「・・・・・・だって」
サファイアの肩が上がるが構わず続けてもらう。絶対悪意があるわけではない。顔を見れば分かるものだ。
「だって・・・だって!そんなにふわふわした、しろいかみに、むらさきのひとみで かわいいのに!うじうじしてるんだもの!どうどうと したら おひめさま みたいなのに!」
「・・・え?」
「それなのに、ずっとずっとはなしかけて みたかった スカーレットさまと なかよくなってるし・・・!わたしだってふたりとなかよくなりたかったのに!!」
要は上手く話しかける言葉が見つからなかったんだろう。サファイアはポカンとした後に可愛いと褒められたことを理解したのかカアッと頬を赤くした。
「へ!?あ、そんな・・・!だって、だってスティナーさまは、いつも じしんまんまんで、きれいで、わたしなんて・・・!」
「かわいいのに、そういうこというから!」
「わたしは、ふたりとも、かわいいと おもいますけれどねえ」
鶴の一声とはこういうことを言うのか。ふたりは黙った後に顔を真っ赤にしてお互いに謝った。いやあ、可愛い。ケビンの問題もお互いの齟齬が原因ならどれだけよかっただろう。そう思うとやるせない。
「・・・スカーレットさま?かおいろがわるいですわよ?」
「あ、ごめんなさい・・・。だいじょうぶです」
「さっきいってた あの、その・・・こ、こいが かんけいしてるの・・・?」
「・・・そんなに、いいものでもないんですけど」
「「お、おとなです!」」
私の言葉を聞いてふたりがきゃいきゃいと喜んでいる。まあ、喜んでくれたならいいか。そのまま私の話になってるのは恥ずかしいけれど。
遠くにいるケビンお兄様を見つめる。私が彼をどう思っているのか・・・。もちろん大切だ。家族なんだから。でも、じゃあ男性として好きなのかと聞かれたら分からない。ゲームのキャラクターだったから無意識に好きなのか心から好きなのか判断しかねるとも言える。
頭を悩ませているとスティナーがちょいちょいと私の袖を引いた。
「そろそろかいさんになるみたいですわ!スカーレットさま、あの、サファイアともやくそくしたのですけど、おてがみをかいても、よろしくて?」
「はい、たのしみにまってます。わたしもかきますねスティナー」
「!よ、よび・・・!」
「なかよくなったからよんでみたのですけど・・・いや、でした?」
「~!い、いえ!よろしいですわ!わ、わたくしも、その、スカーレットと、およびしても?」
「うれしいです」
「は、そ、そうですのね!それなら、そうさせていただきますの!じゃ、じゃあおさきに しつれいいたしますわ!!」
何もないところで転びかけながらスティナーは帰っていった。サファイアはギリギリまで私と腕を組んだままだったけれどスタン様に連れられて帰っていった。
ひとりになったところでため息を吐く。約束の時間は近づいていた。




