愛してくれなくてもいいから
「・・・これが、ケビンの前の家での話だよ」
「・・・ありがとうございました」
お父様は驚くほどオブラートに包まないで話をした。私は深くお父様にお辞儀をすると部屋を後にする。何も詳しくは聞かれなかったのはありがたい。このままの勢いでお兄様の部屋に向かう。寝ていたらどうしよう。部屋から電気は漏れていない。恐る恐るノックをすると、長い間があってからから返事があった。
「おにいさま、スカーレットです」
「・・・スカーレット??」
扉が開くともう寝ていたのかお兄様は寝間着だった。
「こんなじかんに、ごめんなさい・・・」
「・・・聞いたの?」
何を、とは言われなくても分かる。こくりと頷くとお兄様は静かに部屋に通してくれた。
ソファに座ってしばらく、お兄様は黙っていた。それからまた少ししてため息を吐くと弱々しく私を抱きしめた。
「スカーレット、まだ4歳なのに、どうしておかしいって気づいちゃうの・・・まだ、まだバレないって思ってたのに」
「・・・おかしいなって、おもったのはきょう、でした」
「・・・お母様は、帰ってこなかったんだ」
「・・・はい」
「天使みたいな見た目の人だった。中身も、ずっとそうだと思ってた。違ったけどね。最初にスカーレットを見たときに髪の感じも天使みたいに可愛いのも、みんな同じだと思った。中身もそうかもしれないって、期待しちゃダメだって思ったのに、嬉しいなんて言って泣かれたら、僕はもう止められなかったんだ」
お兄様はぎゅっときつく私を抱きしめると髪に顔を埋める。
「お母様に似た見た目で中身も優しいスカーレットは僕の理想だった。初めはお母様の代わりにしようと、思ったこともある」
そこで、お兄様は息を吐いた。話の流れからそうなんだろうなとは思ったけど、やっぱり少し寂しい。『でも』とお兄様は続けた。
「だんだん、お母様なんて関係なくなってきた」
そこでお兄様は息を吸って私を離すと手をぎゅっと握った。
「スカーレットが、好きになってた」
「っ!」
「6歳も年下のまだ3歳の子に、おかしいとは自分でも思ったけど、ダメだった。好きなんだ。誰にも渡したくない、離したくない僕のスカーレットにしたい・・・!スカーレットがシュプリーム家に行ってからは、気が狂うんじゃないかと思った。それに、スカーレットはブライト王子からも求婚されてる。どうして、皆僕からスカーレットを離そうとするの・・・。ブライト王子だって、簡単に君を欲しいなんて言った。悔しかった。僕には言えないこと、欲しいものをただ感情のままに欲しいと言えるあの王子が憎いとすら思う。僕はおかしい。分かってる。分からないほど愚鈍なら僕はもっと生きやすかった!スカーレット、僕は怪物なんだ。お母様にそう言われたし僕もそう思う。きっと、君を傷つけるだけなんだ・・・。でも、諦められない。君が手にはいるなら、僕はなんだってしてしまう・・・。ねえ、愛してくれなくていいから、側にいたいんだ、スカーレット・・・」
お兄様はそう言い切るとボロボロと泣き出してしまった。きっと、今までのことは全部彼が出来る最大で私を自分の側に置いておくためしていたんだろう。怖いと、思うべきなのかもしれない。ゲームでの彼は確かにどんなことでもした。でも、目の前で震えて泣いているお兄様にそんなことは思わなかった。ぎゅっと抱きつくとお兄様はそんなことをされると思っていなかったのか固まっている。
「おにいさまが、かいぶつでも、かいじゅうでも、わたしには かんけいないです」
「すかー、れっと?」
「だって、わたしは まほうつかいになるって やくそくしました。あのえほんは、さいご ふたりでしあわせになってましたよ」
そう、この前ようやく自分で最後まで読んだ。ふたりは幸せになっていた。きっと、お兄様・・・ケビンだって幸せになりたいからあの絵本を選んだんじゃないんだろうか。
「・・・スカーレット・・・」
「わたしは、べつに、おにいさまのこと、かいぶつだなんて、おもいませんけどね」
「・・・」
そのままケビンはずっと泣き続けていた。私は何も言わずにずっと背中を撫で続けた。少しでも彼の気持ちが少しでも楽になるといいと思いながら。




