お兄様もしかして・・・?
あの後、ミーナとお茶を飲んでからお昼寝をして、夕飯を食べた。あれも食べろこれも食べろとすすめられて、お腹は破裂寸前だ。
腹ごなしに本でも読もうと図書室に寄ると先客がいた。
「おにいさま?」
「ああ、スカーレット。ちょうどよかった」
お兄様は懐から封筒を出す。受け取って中を見るとファースト・タイム・ティーの招待状だった。
「スカーレットにいちばんにわたすってやくそくしたでしょう?本当はサナト様に初めに渡さなきゃだめだから内緒だよ?」
お兄様は楽しそうに笑って首をかしげた。こくこくと頷いて借りていこうと思っていた本を取り出してそれに挟んで隠した。これで持って帰るときにも見つからないはずだ。
「・・・こうやって、会うのは久しぶりだから少し緊張するね」
「そうですか?」
「だって、もう帰ってこないかもって心配になるでしょ?」
「?わたしは、かえってきますよ??」
「・・・本当に?」
「おにいさま?」
なんだか様子がおかしい。手を握ってもどこか遠くを見つめたまま心ここにあらずの様子だった。
「本当に、帰ってきてくれる?」
「おにいさま?どうしたんですか?」
「・・・そう言って置いていったりするんでしょう?」
そう呟くとお兄様はボロボロと泣き出して私をぎゅっと抱きしめた。
「あ、あの・・・」
「・・・行かないで。どこにも・・・」
「おにいさま?」
「・・・ケビンって呼んで」
「え?」
「今だけでいいから!」
「け、ケビン?」
「・・・うん」
離れてる数週間の間に、お兄様に何があったんだろう。いや、この数週間じゃないのか・・・?
「・・・ごめんね」
「おにいさま?」
「ごめん、ごめんね。こんな、もう、しないから、いなくならないで・・・」
「・・・どうして、わたしがいなくなると、おもうんですか?」
「・・・」
話したくないんだろう。それにしても、私は何か、大きな勘違いをしているのかもしれない。
「スカーレット、僕、スカーレットにプレゼントを用意してたんだよ。帰ってきたときに喜んでほしくて」
「プレゼント?」
会話の超展開についていけない。取ってくるから待っててと図書室を出ていったお兄様を見送ってから少し肩の力が抜けた。知らず知らず力が入ってしまっていたらしい。それにしても・・・。あれは誰に向けての言葉なんだろう。どう考えても私への言葉には聞こえなかった。ケビンお兄様はもっと遠くを見ていたから。だから、きっとここの家のことではない。そうなるとあちらの家のことかもしれない。
「・・・たしか、ステファンけっていってましたね・・・」
叔父様が教えてくれるだろうか。いや、でも、あんまり話したくない様子だった。それに、私が無邪気に聞くには叔父様は適任とは言えない気がする。理由を聞かれて隠し通せる気もしない。そんなことを考えているとお兄様が戻ってきた。
「おまたせ」
「おかえりなさい」
「これなんだ」
「あけてもいいですか?」
「うん」
箱の中から出てきたのはくまの置物だった。少し家を離れていただけの妹に喜んで欲しいからと渡すにはだいぶ高価な気がする。
「・・・おにいさま、これ」
「受け取って?」
「・・・でも」
「スカーレットのために、買ってきたんだから」
「・・・ありがとうございます」
どうしよう。私は甘く考えていたのかもしれない。もしかしたらまだ、お兄様のヤンデレフラグが折れて無かったとしたら?
「・・・おにいさま?」
「なぁに?」
「わたし、まほうつかいになりますからね」
「・・・・・・うん。怪獣の僕はその方が嬉しいよ」
ケビンのことは嫌いじゃない。家族として大好きだ。だからゲームのようになって欲しくない。あれは、きっと不幸な結末だから。グッと気合いを入れ直す。先ずは原因を探るために情報収集とまいりましょう!




