嘘ではないけれど・・・
「お、おかあさま?」
「ああ・・・スカーレット元気そうね・・・」
私を見るとお母様は天使のような表情になってぎゅっと強く抱きしめてくれた。やっぱりお母様はとてもいい香りがする。ひとしきりハグをしたあとお母様に私にティールームにいるおばあ様と一緒にいるように言われた。どうして来たのか聞きたいけれど、とりあえず頷いて控えていたスザンナさんとティールームに向かった。
「ああ、スカーレットさっきぶりね」
「はい・・・その、おかあさまが とつぜん きたのって・・・」
「私のことでしょうねえ」
「うう・・・ごめんなさい」
「スカーレットは悪くないわ。隣へいらっしゃい。絵本を読んであげる。スカーレットはファンタジーは好き?」
「おひめさまが でてこないなら」
「いくつかあるはずだわ。スザンナ」
「はい。お持ちいたします」
スザンナさんが来るまでの間、おばあ様は下ろしたままの私の髪で編み込みして後ろで縛ってアレンジした。花瓶に刺さっていた白い花を適当な長さに切ると髪にさして形を整えている。
「・・・よし、できたわ。スカーレット、かわいい。今日のワンピースは白だし、本物の天使みたいよ」
「は、はずかしいです・・・」
「照れ屋さんね」
「たいへんお待たせいたしました。あら、スカーレット様、お可愛いらしい」
「そうでしょうそうでしょう」
「ふふふ、こうしていると おふたりが まだ小さかった頃を思い出します・・・」
「あなたはふたりの乳母だったものね」
「はい・・・エレーナ様もトパーズ様もなかなか長居ができませんでしたから、こんなに長い間ルティシア様のお子様と触れ合えることは初めてで・・・」
「まだ、すぐには帰らないのに今からしんみりしていてどうするの」
「・・・そうですね。それに、ルティシア様も一時的とはいえ、帰ってこられたのです。美味しいお茶をご用意しなければ!」
「そうよ。しんみりしてる場合じゃないわ!」
スザンナさんはお母様の紅茶を選んでくると言ってティールームを出ていった。それからおばあ様に絵本を読んでもらって3冊目に突入したとき、お母様が叔父様に付き添われて涙を流しながら部屋に入ってくるとぎゅっと私を抱きしめた。
「あ、あの・・・」
「スカーレット、アルフレッド・・・叔父様から話は聞いたわ」
何の話を聞いたんですか!?何の話をしたんですか!?困ってお母様の肩越しに叔父様を見つめるとウインクされた。いや、カッコいいですけどそうではなくてですね・・・。
「ミーナがお家に帰る決意ができるように少し距離を取った方がいいと悩んでいたなんて、お母様、気がつかなくてごめんなさい・・・」
何かしてあげたいとは思ってましたけどそんな物理的に距離を取ろうなんて思ったことはないので気がつかなくて当然ですよお母様。
「それなら、そうね、叔父様の言うとおり定期的にここに来て強制的に距離を取って、ミーナに考える時間や一時帰宅できるような時間を作るのも必要よね。スカーレットもここに慣れてそれでいいって答えたって聞いたわ。優しい子ねスカーレット」
ぜ ん ぶ ね つ ぞ う で す が !でも、確かにミーナだってずっと家にいるわけには行かないんだしこれもいい機会なのかもしれない。
「お父様にはお母様からお話ししておくから心配しなくて大丈夫よ。それと、スカーレット、乗馬に興味があるんですって?」
「は、はい。おうまさんに サッ!ってのる おばあさま かっこよくって わたし あこがれちゃいました!」
そう、めちゃくちゃカッコいいのだ。私もおばあ様くらいカッコよく馬を乗りこなしてみたい。
「そう・・・それなら、ミーナのことが解決しても定期的に習いに来ましょうか。おばあ様は乗るのもだけど、教えるのも上手なのよ」
「そうなんですか!」
「まあ、いいの?」
「ええ、お母様。サナト様のご両親は乗馬は嗜む程度なんです。むしろお義母様からは『アリス様に教えてもらうようにしてね』と言われてますので」
「そう・・・それじゃあ病み上がりの私がはりきってもいいのね」
「お母様ったら!風邪をこじらせて大変なことになったのに馬を走らせてるなんてスカーレットから知らされて、急いで帰ってきたんですからね!まだ無理はなさらないでください!少しずつでお願いいたしますわ」
「ふふふ、ルティシアはお医者様より心配性ね。アルフレッドも、ずいぶんと怒られたでしょう」
「ええ。でも、姉様は一緒に住んでいるわけではありませんし、心配する気持ちも分かりますから」
「ふふふ、私は可愛い子どもと孫に恵まれて幸せだわ!そうだルティシア、お父様、今家にいるのよ。起こしてくるから座ってお茶でも飲んでいって!スザンナ!スザンナ!」
おばあ様はスザンナさんを呼びながら部屋を出ていく。お母様はため息を吐くと私をもう一度抱きしめた。
「ふふ、おばあ様のこと、よろしくねスカーレット」
「はいっ」
「いい子ね。ありがとう。久しぶりだからもう少しお話ししたいけれどレイチェル様が待っているわ。また帰るときには顔を出すからお勉強していらっしゃい」
「はい。おかあさま と ひさしぶりに あえて うれしかったです!」
「お母様もよ。あと1週間くらいで落ち着きそうだからそのときは迎えに来るわ」
「たのしみに まってます」
「よしよし・・・。それじゃあアルフレッドお願いしていいかしら」
「ええ。それじゃあスカーレット一緒に行きましょうか」
「はいっ」
部屋を出てから少しして叔父様がクスクスと笑いだした。
「うまくいったでしょう?」
「おじさまは こわい って よくわかりました」
「おや、みんな大体本当のことですよ?」
「うそじゃないのも こわいです」
文句は無いから怒りはしないけれど。叔父様の手を揺すりながら歩いていく。
「まあ、あとミーナ様のこと、解決しないととは思ってるんです」
「そうなんですか?」
「彼女の婚約者は古くからの知り合いなんです。まあ、10割あちらのせいなので私も知り合いとして申し訳ない限りですから」
知り合いであって友達ではないってことだろう。それなら、もし、万が一なんか起きてもこてんぱんに『子どもだから難しいことわかんないけど、こうなの~?』攻撃の餌食にしてもいいわけだ。
「わたしも、ミーナにはしあわせになってほしいのでできることはします!」
「頼もしいですね。じゃあこの計画の『ミーナと距離を取るため』というのはレイチェル様とミーナ様には伏せておきましょう。知られると帰らないとかいいだしかねませんし・・・」
「ないしょですね!」
「ふふ、いよいよ、本格的に共犯者じみてきましたね」
とんでもない共犯者を手にいれてしまった気がしないこともないけど。これから頼りにさせてもらおう。そう決めてレイチェル様のところまで急いだ。




