閑話11 その頃公爵家では
「ねえ、ミーナ少しいいですか?」
「ケビン様?」
スカーレットがシュプリーム侯爵の家に行ってしまってから数日後。ようやく頼んでいたものが今日届いた。シュプリーム侯爵家のブランドの置物はスカーレットも好きそうだし気に入ってもらえるだろう。
「実は、こっそりスカーレットの部屋にプレゼントを置きたいんだけど、中に入ってもいいですか?」
「それでしたら私が」
「僕が置きたいんだけど、ダメですか?」
少しだけ目を潤ませて首を傾げるとミーナは顔を真っ赤にした。
「・・・お嬢様もいませんし、そういうことなら構いません」
「ありがとうございます」
ミーナの許可を得て一人で部屋に入る。
プレゼントは取り出さずに真っ直ぐ向かったのは窓辺。そこに飾られていたブライト王子から贈られたというカエルを掴む。
「君の席はどこにもないんだ。ごめんね」
プレゼントを入れてきた袋からカエルの置物を取り出すとブライト王子のプレゼントと入れ換える。全く同じ模様はないらしいけど比べて見なければ差なんてほとんど分からない。贈られたもの、さらに1ヶ月くらいしか目にしてないものの柄まで覚えてる人間なんていないだろう。
「早く出ないと不審に思われるか・・・」
カエルの置物を持ってきた袋に詰め、上から梱包材を被せて見えないようにしてから部屋を出た。
「もう大丈夫です。ありがとう」
「袋は私がお預かりしましょうか?」
「いえ、やっぱり直接渡したいので自分で持っていることにしたんです。わざわざ入れてもらったのに申し訳ありません」
ミーナに笑いかけて部屋に戻る。部屋に戻ってカエルの置物を取り出すと躊躇いなく床に叩きつけて破壊した。物音に気づいた騎士が部屋に飛び込んでくる。
「ケビン様!」
「不注意で置物を落としてしまっただけです」
「ああ、お怪我はありませんか?」
「はい」
「すぐにメイドを呼んできますのであまり動かないでくださいね」
「分かりました」
駆け出して行った騎士の背中を見送ってから粉々になった置物を足で踏み潰す。
「あは、ようやく綺麗になった。1ヶ月も置いておくのを許してあげたんだ。感謝して欲しいくらいだよね」
バタバタと走る音が聞こえてきて僕は破片から足をどける。やってきたのはミーナだった。
「すぐに片付けますね・・・あら、これ・・・」
「スカーレットにあげる他に自分にも買ったんですが落としてしまって・・・もったいないことをしました」
「まあ・・・この置物、お嬢様がブライト様に贈られたものと同じラインのものですね」
「そうだったんですか?王家の方が選んだものと同じだったなら割れてよかったかもしれないですね。僕なんかには似合わないでしょう?」
「そんなご謙遜を。また買いに行かれたらよろしいじゃないですか。このブランドはシュプリーム侯爵のものなんです。スカーレット様がお帰りになられたらシュプリーム侯爵様にお願いして連れていっていただくのも良いと思いますわ」
「そうなんですね。まだまだ無知で恥ずかしいばかりです。こんな手間まで取らせてごめんなさい」
ミーナは笑って首を振ると手早く片付けて部屋を出ていった。
「・・・こんな風に簡単に」
スカーレットの周りからあの欲しいものは欲しいと何の遠慮もなく言える子どもを排除出来たらいいのに。お前を必要としてくれる人はたくさんいるだろう。どうして、どうしてスカーレットなんだ。ねだれば全部手に入ると思っているところがあるとジョン様が苦笑して話していた。それを直すためにストリクト家は苦心しているとも。それが事実なら。
「反吐が出る」
セージ王子がくれた本も近いうちに入れ換えた方がいいかもしれない。そんなことを考えながら今日もスカーレットに手紙を書く。可愛い可愛い僕のスカーレット。早く帰ってきてね。




