お茶会の前の休息
数日後、叔父様と一緒にお茶会の準備をしている。公爵家ではやらせてもらえることはないのでとっても新鮮だ。ここはおじい様のお家なので叔父様が私とサファイアを招待してくれたということにしてサファイアに遊びに来てもらうことになった。午後には着くらしい。
「くまさんも持ってきたんですね」
「このこは サファイアに そっくりなんです!こっちのこは わたしです!」
「それなら置いてあげないとダメですね。お花はどれにしますか?」
「えっと・・・サファイアのめのいろの むらさきと わたしのあおと おじさまの あか!」
「じゃあその色でいくつか見繕ってもらいましょうね。スカーレットとサファイアはどこに座りましょうか?」
「うーん・・・」
「薔薇がきれいに見えるこっちはどうですか?」
「そうします!」
ソファとテーブルをお庭に持ち出してのお茶会なのでこちらに私とサファイアが座ると大きめのソファを置いてもらってその横に叔父様が座る一人用のソファが置かれた。テーブルを真ん中に置くとL字になるような形だ。
「くまさんをおいてっと・・・」
「良さそうですね。日除けはお昼ごはんを食べている間にやってくれるそうですからお昼にしましょうか」
「はい!」
叔父様と手を繋いでダイニングに行くとおじい様とおばあ様もちょうど来たところだった。おじい様は先におばあ様をエスコートして座らせると席に着きながら肩をすくめた。
「すっかりスカーレットを取られちゃいましたね」
「セアリアスはまた忙しくなってしまって留守がちになってますしね」
「はあ・・・私がいなくても決められることくらい決めて欲しいですねえ」
「決められないから父上が呼ばれているんでしょう」
私を椅子に座らせて叔父様も席に着く。おじい様の合図で今日の昼食が運ばれてきた。シュプリーム家のお昼は基本的に簡単に済まされることが多く今日はパスタにスープとサラダだ。フェイバー家はお父様が食べ物好きなのでよく凝った料理が出てくるけれど私はこういうお料理の方がホッとして嬉しい。今日は大きな肉団子が入ったトマトパスタだった。
「パーティーだとお上品な大きさが多いですけど家で食べるならこれくらい大きい方がいいですね」
「スカーレットのは少し小さめだから安心して食べてちょうだいね」
「はい!」
「それではお祈りをしましょうか。アルフレッド」
「はい。地の神、水の神、太陽の神よ。恵みを感謝いたします。ここにあるもの全てへの祝福を。それによって我らの心身の糧としてくださいますようお祈りいたします」
叔父様の言葉を聞いてから皆で手を組んでお祈りをする。これは正式な食膳の挨拶で前世で言うところの『いただきます』に相当する。フェイバー家では私がまだ小さいから簡略化したものになっているけれどシュプリーム家ではキチンとお祈りを捧げてからごはんを食べる。中身は26歳だしもちろんちゃんとお祈りだってできる。
「・・・さ、それではいただきましょう」
おじい様の言葉を合図にフォークにパスタを巻きつけていく。生前はスプーンが無くてもできたのに、今はまったく上手く巻けない。理由は単純で手が小さくて上手く動かせないからだ。お行儀は少し悪いけれど掬うようにしてなるべく口を汚さないように食べる。
「スカーレット、大丈夫?あーんしてあげましょうか?ルティシアやアルフレッドにもよくやってあげたわね」
「母上、その話はもう50回近く聞いていますので結構です」
「あら、そうだった?」
「まあまあ、スカーレットが一生懸命自分で食べてるんだからいいじゃないですか。スカーレット、おいしいですか?」
「はいっ」
「それはよかった。ゆっくりで大丈夫ですからね」
たっぷり時間をかけてお昼ごはんを食べるとお茶会があるから少し休んだらお昼寝するようにと言われてしまった。だから、いつもよりお昼ごはんが早かったのかもしれない。確かにお茶会のときに眠くなったらまたお話しができないまま解散になってしまうだろう。腹ごなしに宿題を終わらせて本を読むことにする。お兄様が自分のことを『怪獣』と呼ぶきっかけになった絵本だ。絵本と言っても文章量が多くて中々読み進められない。まだ魔法使いになる予定のお姫様すら出てきてないのだから先は長い。
「スカーレット、入っていいですか?」
「はい」
「・・・あ、まだベッドに入ってない。ほら、早く寝ないとお茶会のときに眠くなっちゃいますよ」
「もうちょっとだけ・・・」
「ダメですよ。ほらほら、寝転べば眠くなります」
叔父様に促されて渋々ベッドに入る。また続きは読めずじまいだ。叔父様は私が寝転ぶのを見届けるとベッドの横に椅子を持ってきて座った。
「悪い子が抜け出さないように見てないといけませんね」
「うー・・・ちゃんと ねます」
「本当ですか?」
「ほんとです・・・」
「それじゃあお休みの挨拶をしてください」
そういう叔父様の頬にキスをしておやすみなさいと抱きつくと叔父様の私のおでこにキスをして布団に寝かしつける。
「それじゃあ、お話をしてあげましょう。むかし、むかし、あるところに・・・」
叔父様の優しい声音で昔話を聞いているとどんどん瞼が落ちてくる。追い打ちをかけるように一定のリズムでお腹をぽんぽんと軽く叩かれれて私は夢の世界へ旅立った。




