おばあ様と乗馬
おじい様とお庭まで出るとそこには広い乗馬場があった。メイドさんに柵の外にあるソファへと案内されてそこに座ると栗毛色のスラッとした馬に乗っておばあ様がやって来た。おばあ様はツイード素材で出来た真っ赤なジャケットに襟つきのシャツ、シャツにはネクタイではなく黒いリボンを結んでジャケットの前はしっかりと止められている。白い乗馬用のパンツ、そして黒いブーツを履いて黒い帽子を被っている。下ろされていた髪は後ろでお団子に纏められていた。
「ふわぁぁぁあ!」
「ふふ、かっこいいでしょう?アリスは乗馬の名手なんですよ」
「何年も前の話よ。スカーレットはお馬さん怖くないかしら?」
「こわくないです!」
「よかった。少し走ってくるから見ていてね」
そういうとおばあ様は颯爽と馬を走らせた。さっきまでの可愛らしさが嘘のように凛々しい顔つきで走る姿はとてもかっこいい。
「スカーレット様もよろしかったら乗せていただいてはどうでしょう?」
「え」
「いいんですか!?」
「奥方様からスカーレット様が乗りたいようなら準備をと仰せつかっております」
「のりたいです!」
はいっ!と元気よく手を上げるとおじい様と同い年くらいのメイドさんは優しげに微笑む。私の手を引こうとした彼女を慌てた様子でおじい様が止めた。
「ダメですよスザンナ!スカーレットはまだ4歳なんですから」
「ルティシア様も4歳のときには奥方様と乗っておいででした」
「ルティシアは乗馬を見慣れてましたからね。でもスカーレットはそんなに乗馬に親しいわけではありませんし・・・」
「旦那様、子どもがやりたいと言っているのに止めるのは無粋かと思います」
「でも危ないですよ。もし万が一可愛いスカーレットが怪我でもしたら私そのまま気絶してしまうかもしれません」
「何を情けないことを仰っているんですか。さ、スカーレット様参りましょう」
「・・・でも・・・おじいさまがダメっていうなら・・・その・・・」
「・・・旦那様、こんなに悲しそうな顔をさせてどうお思いですか」
「スカーレットは悲しそうな顔も可愛いですね。さすが私たちの孫です」
おじい様も、結構サドっぽい・・・。お父様と馬が合うんじゃないだろうか。スザンナさんは深いため息をついている。
「そういうところはお直しになったほうがよろしいかと」
「アリスは好きって言ってくれてますから平気ですよ。ともかく、スカーレットはここで私とお菓子を食べて見てましょうね」
一家の主がそう言うなら覆せないだろう。うう、でもな、気になるなお馬さん・・・。前世では学校の乗馬体験でしか乗ったことなんてないし・・・。
「・・・おうまさん・・・おじいさま、ちょっとだけ・・・」
「ぐうっ・・・この世に孫のおねだりに抗えるおじい様などいるのでしょうか・・・。分かりました。少しだけですよ?おばあ様の言うことをよく聞いて気をつけるように。いいですね」
「はい!」
「よろしゅうございましたねスカーレット様。それではこちらへどうぞ」
スザンナさんに連れられて部屋に戻ると乗馬出来るような服が用意されていたおばあ様と全くお揃いのデザインの子供用らしい。
「少し大きいかと思いましたがちょうどよさそうでございますね。それでは参りましょうか」
「はい!スザンナさん、おじいさまに のらせてもらえるように いってくれて ありがとうございます」
「・・・はい。スカーレット様は確かに賢くていらっしゃいますね」
道中お話を聞けばスザンナさんはお母様の乳母だったらしい。お母様は小さい頃結構なお転婆さんだったとのこと。帰ったらお母様にスザンナさんとお話ししたことを話してみよう。
「奥方様、スカーレット様をお連れしました」
「ありがとう。さ、スカーレットいらっしゃい」
台の上からスザンナさんとおばあ様に手伝ってもらっておばあ様の前に収まる形で馬に乗る。おお、思っているより高い。
「思ったより高いでしょう」
「はい・・・」
「大丈夫よ。可愛いスカーレットを落としたりなんてしないわ。ゆっくり歩きましょうね」
進み始める前に大きな声を出さないことと手を離さないことを私に言い聞かせてからおばあ様はゆっくりと馬を歩かせる。しばらくするとハラハラしたようにこちらを見ているおじい様が見えてきた。
「セアリアス・・・おじい様はああ見えて心配性なの」
「わたしには まだ あぶないって いってました」
「まあ、アルフレッド・・・スカーレットのおじ様ね。彼のときは2歳のときから乗せてたくせにねえ」
「おじさま?」
「あら、まだ会ったことなかった?今夜は帰ってくるから会ってあげてね」
「はい」
「あと一周したらおしまいにしましょうね」
始めての乗馬はおばあ様のおかげか全く怖くなくてとても楽しかった。また乗ってみたいな・・・。着替えてからスザンナさんに連れられてティールームに行くと黒い髪に赤い目、髪はサラサラのショートカットの綺麗な男性が座っていた。




