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閑話10 おじい様は悩ましい

スカーレットが勉強している間に、ここのところ空けがちだった家のことや領地の仕事を片付けてしまおうと机に向かっているとアリスが突然私の部屋に飛び込んできました。そうかと思うとベッドに突っ伏してさめざめと泣き始めます。



「・・・ううう」


「どうしましたアリス」


「スカーレットが他人行儀なの!」


「はあ・・・」



残り少なくなった書類をぺらりとめくりながら返事をするとアリスは座って拗ねたようにこちらを見つめます。



「お菓子を断れるのか試したのは悪かったと思います」


「そんなことしたんですか。相変わらず趣味が悪いですよ?」


「ダメでも子どもらしくて可愛いと思って・・・そしたらね『お気遣いいただきありがとうございます』って返されて・・・!」


「よくできた返答ですね」



スカーレットは本当によくできた子です。とても4歳とは思えないほどに。だからこそ、ブライト王子とは合わないなと思ってしまうんですけどね。彼には全て包んで許してくれるような女性かつ反発しすぎない方でないとやっていけないと思いますから。そう思っているとアリスが首を横に激しく振ります。



「そうじゃないの!」


「なんですか、試した上にちゃんと断れてかつ礼儀的なお礼もしっかり返したスカーレットに何を怒ることがありますか」


「セアリアスひどいわ・・・わかってていじめるなんて・・・!」


「いやー・・・わかりませんねえ」



本当は分かっています。アリスはスカーレットが甘えてくれなくて拗ねていることくらい。でも、まだ会って2日目でそこまで求めるのは酷というものだと思います。可哀想ですがアリスには少し我慢してもらいましょう。



「旦那様、レイチェル様がお帰りになるそうでスカーレット様がお見送りされるそうです」


「そうですか。じゃあ私も行きましょうか。アリスはその赤い目を冷やしてからいらっしゃい」


「ふううううう!いやーよー!」


「本気で怒りますよ」


「う、うう、待ってます・・・」


「いい子ですね」



メイドの言葉に書類をしまって席を立ちます。駄々をこねる長年連れ添った妻は可愛らしいですがここは少し厳しく言っておかないと落ち着いてくれそうもありませんからね。拗ねてしまった妻の頬にキスをしてから玄関ホールへ降りるとちょうどスカーレットとレイチェル・ストリクト様が私を待っていました。



「シュプリーム侯爵、こちらでの授業を許可していただきありがとうございます」


「いえいえ、私もスカーレットの先生にお会いできて嬉しかったですよ。スカーレットから話は聞いていましたから」


「話、ですか」


「ええ、自慢の先生なんですよねスカーレット」


「はい!」


「!!そ、うですか」



レイチェル様の話は私も知っています。彼女はスカーレットを見つめて目を潤ませてしまいました。するとスカーレットはレイチェル様の手を握るとにっこりと笑いかけます。


「レイチェルさま、ばしゃまでいっしょにいきます!いいですかおじいさま」


「ええ。ちゃんと見送っていらっしゃい」


「はい!レイチェルさま、いきましょう!」


「そうですね。それでは失礼いたします。ああ、奥方様にマフィンを美味しくいただいたことをお伝えください。とても美味しくて私、2つもいただいてしまいました」


「はい。必ず伝えます。妻も喜びますよ。それではお気をつけて」



これ以上話さなくてもいいようにスカーレットが気を使ったのでしょう。本当によく出来る子ですね。サナトくんが少し寂しそうなのも頷けます。それにしても・・・



「相性は良さそうですし若いですがいい教育者のようですね。さすが次期ストリクト伯爵というところでしょうか」



彼もうかうかしてると娘に足元をすくわれるかもしれません。旧友のことを考えているとスカーレットが少し急いで戻ってきました。私を待たせてはいけないと思ったのでしょう。



「おじいさま、もどりました」


「ちゃんとお見送りできましたか?」


「はい!」


「それはよかった」



私が笑うとスカーレットもにこりと笑います。はあ、可愛らしいですね。するとスカーレットは急にもじもじしてから意を決したように口を開きました。



「・・・あの、おじいさま」


「なんですか?」


「おじいさまとおとうさまってどんなおしごとをしてるんですか?」


「おや、私やサナトくんのお仕事に興味があるんですか?」


「はい!おしごとしてる ふたりとってもかっこいいですから!」



スカーレットの言葉についつい頬が緩む。私の息子はあまり私の仕事に興味を持ってくれなかったというのもあってとても嬉しいですね。ついつい何でも話してしまいそうです。



「ふふ、そうですねえ。宰相の仕事は秘密にしておかないといけないことがたくさんあるので詳しくは話せませんけど当主のお話ならできますよ」


「とうしゅ・・・おとうさまといっしょですよね?」


「はい。まあ、公爵家と侯爵家では多少内容が違うでしょうが大きくは変わりません。では、まずひとつ大きな仕事をしましょうか」


「なんですか?」


「パートナーを元気づけることですよ。彼女がいなければ家の中はしっちゃかめっちゃかになりますから。」


「パートナー・・・おばあさま?」


「ええ。スカーレットがしっかりしてて寂しいんですって」



そう言うとスカーレットは俯いてしまいました。



「スカーレット?」


「・・・しっかりしてるのは、だめですか?」



きっとレイチェル様にも同じようなことを言われたのかもしれません。小さくなるスカーレットの頭を撫でると同じ目線までしゃがんで顔を覗きこみます。大きな瞳が困ったように下がっているのでどうしたらいいか悩んでいるのでしょう。


「いいえ。そんなことありませんよ。ただ、おばあ様はスカーレットともっと仲良しになりたいんですって」


「なかよし?」


「はい。スカーレット、まだおばあ様には緊張しているでしょう?」


「えっと・・・その・・・はい」


「私のときはそうでも無かったと思いましたが・・・」


「あのときは・・・みんないたので・・・」


「ふふふ、そうですね。おばあ様は距離の詰め方が極端ですしね」


「いやでは ないです」


「わかってますよ。少しずつ仲良くなればいいんですから。まずはマフィンの感想を教えてあげてください」


「はいっ」


「良いお返事ですね。さ、おばあ様に会いに行きましょうか。おじい様に抱っこをさせてください」


「だっこ・・・」



スカーレットは抱っこがあんまり好きではないようで抱っこさせてと言うと少し渋い顔をする。こちらが突然抱き上げるのは大丈夫らしいのですが自分から飛び込むのは恥ずかしいのでしょう。サナトくんにはよく抱っこされているようですが『お父様大好き』なスカーレットですからサナトくんは特別なんでしょうね。



「嫌ですか?」


「う・・・はずかしいんです」


「大丈夫ですよ。皆、可愛いなって思うだけです」


「・・・うう」



私は分かってても引き下がるような玉ではありません。スカーレットともっと仲良くなりたいのは私だって同じですから。少しもじもじした後でスカーレットは私の足元で手をぐっと上げた。そっと持ち上げて抱き上げると肩に顔を埋めて照れている。自分からねだるのはやっぱり嫌なんでしょう。頭を撫でながら不安になるのはこの反応のせいなんでしょうねえ。



「・・・そういうことは、好きな相手以外にしないように気をつけましょうね」


「??わたしのことだっこするの、お父様かおじい様しかいないですよ?」


「将来的なお話ですよ」



首を傾げるスカーレットに苦笑する。まだ4歳とはいえ貴族は婚約するのは早いこともあるので油断はできません。下手な男に捕まってほしくはありませんからやっぱり何か手を打ちたいところですね。ふたりとも自覚はあまりないようですがエレーナやトパーズの恋のお相手は大丈夫そうです。そうなるとやっぱりスカーレットが心配になってしまいますね。ブライト王子はスカーレットとはあまり相性が良くないですがまた厄介なことをされたら程度によっては断りきれなくなる可能性もあります。ひとつの家からふたりも王家に行くのはフェイバー家の力が強くなりすぎてよろしいとは言いがたいです。これはなかなかサナトくんも私も頭の痛い話ですね。


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